スタートアップと設立する「ジョイントベンチャー」-立ち上げの狙いや事例-

大手企業とスタートアップが互いの強みを活かして協業すれば、斬新なアイディアで社会問題を解決することも可能です。そのための選択肢のひとつとして注目されているのが「ジョイントベンチャー」です。

ジョイントベンチャー(合弁会社)とは、複数の企業が共同で出資して立ち上げる会社のことです。大手企業とスタートアップが連携する手段のひとつでもあり、本記事では「大手企業×スタートアップ」のジョイントベンチャーについて詳しく解説していきます。

設立する目的と買収や合併との違い

ジョイントベンチャー設立の目的は主に、双方の企業が持つ技術やノウハウを交換して共同開発し、新たな価値を生むためです。

スタートアップは技術や知的財産、大手企業は豊富な販路やブランド力、信用力など、お互いに強みは異なります。ジョイントベンチャーを立ち上げると、お互いの強みを活かして新規事業などに取り組むことができるようになります 。

単独事業を上回るシナジー効果が期待できる

ジョイントベンチャーは、大手企業とスタートアップのシナジー効果(相乗効果)を生み出します。各企業の力を1として、1+1を2以上にする効果が期待できるのです。

お互いに足りないものを持っている企業どうしが連携するジョイントベンチャーでは、技術や販路、人材などをシェアし、新規の事業領域を開拓します。単独では参入できない市場に挑戦することも可能となり、事業の拡大や顧客の開拓、企業価値の向上といった効果が期待できます。

単独では難しい新たな価値を創出できるのが、ジョイントベンチャーの最大のメリットです。関連するメリットとして「不足する資源の充足」や「リスク分散」があります。

不足する経営資源を短時間で獲得できる

大手企業とスタートアップは、お互いに持っている経営資源が異なります。大企業にとっては、既存の事業領域に含まれない技術や知的財産などが足りないものとして挙げられます。スタートアップにとっては、事業ノウハウや施設設備、ブランド力、販路などがあります。

不足する資源を自社だけで獲得するには、膨大な時間がかかってしまいます。その間に、移り変わりの激しい社会に置いて行かれるかもしれません。ジョイントベンチャーを立ち上げて大手企業とスタートアップが互いに知恵を出し合ったほうが、格段に速く新規事業をローンチできます。

リスクを分散できる

ジョイントベンチャーには、各社が背負うリスクを単独事業の場合よりも小さくできるメリットがあります。これは、1社の持ち分比率が100%を下回るためです。

持分比率を50%ずつとして2社でジョイントベンチャーを立ち上げる場合、各社のリスクを半分に下げることができます。例えば、1社で1億円出資するのではなく、2社で5,000万円ずつ出資した場合、そのジョイントベンチャーの経営が行き詰まったとき、失う出資金も5,000万円で済みます。

買収や合併、提携との比較

(参照:舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号‐より作成)
買収は、ある会社が別の会社の株式や事業を買い取ることです。合併は、複数の企業が1つに統合することです。すでに市場で存在感のある企業の買収や合併により、迅速に市場に参入することが可能です。一方で、企業の買収や合併に多大なコストがかかるため、ジョイントベンチャーよりも投資が膨らむ可能性があります。
業務提携は、複数の企業が協力関係を築くことです。買収やジョイントベンチャーよりも簡易的に関係を構築できるメリットはありますが、パートナーどうしの関与が薄く、情報統制などガバナンスの敷き方に検討が必要です。

スタートアップと大企業のジョイントベンチャー事例

TOUCH TO GO

株式会社TOUCH TO GOは、JR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社のジョイントベンチャーです。「お客さまへのサービス向上、従業員の働き方改革や人手不足の解消」を目的に、2017年から無人AI決済店舗の開発で協業をスタートしました。2020年3月には、高輪ゲートウェイ駅で無人AI決済店舗を開業し、現在もシステムの改良に取り組んでいます。

TOUCH TO GOは、JR東日本の「駅」という資源と、サインポスト「無人レジ」などの技術を掛け合わせたジョイントベンチャーです。成功のポイントは、社会のニーズを的確に捉え、解決を試みたことだと考えられます。店舗のレジ打ちが不要になり、サービス業の人出不足という問題の解消につながります。

【参考】大企業のアセット×スタートアップのスピード&技術力! JR東日本のオープンイノベーションとは
https://www.jafco.co.jp/andjafco-post/2021/09/30/000166/

SMBCクラウドサイン

またSMBCクラウドサイン株式会社は、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)と弁護士ドットコムのジョイントベンチャーです。契約書の「脱ハンコ」など日本のレガシーな風習や業務プロセスの変革を掲げ、契約をデジタル化するプラットフォームを展開しています。

クラウドサインは弁護士ドットコムが運営する、クラウド型電子契約サービスです。ジョイントベンチャー設立前にプロダクト自体は完成していたものの、シェアは1%程度にとどまり、国内の99%の企業は紙とハンコを使っている状況でした。

そこに銀行の強み「社会的信用力」が加われば、クラウドサインのシェアを高められるという狙いがありました。両者はジョイントベンチャーを立ち上げて、脱ハンコに消極的な企業にもアプローチし、シェアを伸ばしています。

【参考】三井住友FGトップの「社長製造業宣言」から、グループ最年少社長が生まれた経緯
https://www.sbbit.jp/article/fj/37528

ジョイントベンチャーを成功させるためのポイント

ジョイントベンチャーを成功させるためには、以下のポイントが大切です。

● 目的を明確にする条件や体制を明確にする
● 経営資源の流出や意思決定の遅延を防ぐ

目的を明確にする

東洋経済新報社の『ジョイント・ベンチャー戦略大全』 によると、ジョイントベンチャーで期待されるシナジー効果には、いくつかの類型があります。

(参考:宍戸善一、福田宗孝、梅谷真人. (2013). 『ジョイント・ベンチャー戦略大全』. 東洋経済新社.より作成)
上記の11個の類型は、「効率化追求」と「新規参入」という2つに大別できます。

一例を挙げると効率化追求を目的とした「施設共用型」では、稼働率が低く施設維持に無駄なコストがかかっている工場などを複数の企業が共用します。ランニングコストの無駄を省くことができ、利益率を高める効果が期待できます。

また新規参入を目的とした「技術導入型」では、一方の企業が持つ特許発明やノウハウをジョイントベンチャーに移転します。ノウハウが複雑な場合など、一般的なライセンス契約では技術を利用できない場合に、ジョイントベンチャーを設立します。

同じく新規参入を目的とした「共同開発型」では、ジョイントベンチャーを設立した複数の企業が、互いにノウハウを交換します。各専門分野の知見と技術を結集するため、短期間かつ低コストで新規技術の開発を進めることが期待できます。

条件や体制を明確にする

複数社がジョイントベンチャーを立ち上げる際、条件や体制はしっかりと固める必要があります。

ジョイントベンチャーを立ち上げる際に締結する「合弁契約(JVA)」では、各社の出資比率や出資金額、取締役人数などの条件を取り決めます。内容はできる限り具体的に記載し、事業モニタリングの頻度や撤退時のルールなどを盛り込みます。各論以外の会社としての重要な方針については、両社がジョイントベンチャー設立前に十分に議論し、条件を詰めて法的拘束力のあるJVAに盛り込みます。

また両社の出資比率が50%:50%の場合の場合、なかなか両社が合意に至らず、意思決定に時間がかかってしまうケースがあり得ます。
40%:60%など出資比率に重みをつけ、片方の企業に最終決定権を持たせ、迅速な意思決定ができるようにする体制も考えられます。その場合は、重要事項については出資比率が少ない企業に拒否権を設けるなど、工夫をして公平な体制を築きます。

経営資源の流出や意思決定の遅延を防ぐ

複数の会社が共同で1つの会社を立ち上げ、経営資源を共有するため、人材や知的財産、ノウハウ、情報などが他者に流出するリスクがあります。善意・悪意問わず、外部への情報流出を避けるため、契約時に秘密保持契約を結んでおきましょう。事業を遂行する上で知り得た情報を、勝手に外部に漏らしてはならない、という取り決めです。

ただし契約書類を交わすだけでは、現場の社員の不注意を防げない場合があり得ます。厳秘の情報に関しては現場で情報統制を敷いたり、外部への情報流出を防ぐファイアウォールを設置したりして、流出リスクを下げましょう。

まとめ

相互のノウハウや強みをお互いに補完して立ち上げるジョイントベンチャーは、大企業同士のみならず大企業×スタートアップという強みや特徴が全く異なる会社同士でも設立のメリットがあると考えられます。事業開発の拡大手段として、大手企業もスタートアップもジョイントベンチャーを選択肢に加えてはいかがでしょうか。

凸版印刷では、ベンチャー企業・スタートアップ企業様との資本業務提携によるシナジー創出を目指しております。ジョイントベンチャーに限らず、幅広く新事業を一緒に創っていく手法をスタートアップ企業様と日々ディスカッションしておりますので、ご興味がある企業様は以下のリンクからお問い合わせください。
TOPPAN×VENTURESサイトへ