CVC投資のパターン -「ファンド」「二人組合」「直接投資」の類型を解説-

事業会社がスタートアップに投資する際に、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立するケースが増えています。

そんなCVC投資には、その形態としていくつかの類型があります。今回の記事では、大きく次の3パターンに分類しました。

1:ファンド設立
2:二人組合
3:本社の直接投資

PwC Japanグループの「CVC実態調査 2019」によると、企業がCVC運用の体制を構築するための手段としては、「外部のアドバイザー/コンサルタントの起用」が最も多く、次いで「経験者の中途採用」が挙がりました。

上記の「1:ファンド設立」や「3:直接投資」の場合、事業会社が主体となってファンドの管理運営をしなければなりません。そのために社外から専門的な知見を取り入れたり、そうした知見を持つ人材を採用したりすることで、自社でCVCを運用できる体制を構築するのです。

これらに次いで第3位は「外部のベンチャーキャピタル(VC)への委託」でした。多くの場合「2:二人組合」はこれにあたると考えられます。前述した人材採用など、CVC運営にはさまざまな社内体制の整備が必要です。VCへの委託は、そうした負担を軽減できるメリットがあるといえそうです。

このように、CVCの形態にはそれぞれメリット/デメリットがあります。ここからは、実際の実例とともに、類型ごとに具体的な特徴を見ていきましょう。

1.ファンド設立


1つ目は、事業会社がファンドを設立するパターンです。企業が単独でファンドを設立するケースや、近年では他の投資家からも出資を募り運用するケースも増えてきています。
ファンドとして独立させている場合、迅速に意思決定できる、本体企業の事業領域とは異なる“飛び地”領域に対しても挑戦的な投資がしやすい、投資成績が明確であることなどがメリットとして考えられます。一方で出資元である事業会社の狙いや創出したい新規事業とかけ離れた投資ばかりとならないよう注意が必要です。

事業会社がファンドを設立している例として、経済メディア「NewsPicks」や企業・業界情報のプラットフォーム「SPEEDA」などを運営する株式会社ユーザベースはスタートアップへの投資を目的に、2018年2月に株式会社UB Venturesを立ち上げました。
その後2018年6月にベンチャーファンド「UBV Fund-I 投資事業有限責任組合」を組成し、UB Venturesが運営。電通、福岡銀行、産経デジタル、GMO VenturePartnersなどから出資を受け(*1)、2019年1月にセカンドクローズ時点でのファンド規模は15.3億円と発表されています(*2)。
投資領域はデジタルメディアとB2B/SaaSが中心。2021年にマザーズ上場を果たした、就活クチコミサイト「ONE CAREER」を運営する株式会社ワンキャリアなど(*3)、これまで累計21社(*4)に投資をしています。

またソニーグループ株式会社が2016年に立ち上げた「Sony Innovation Fund」もあります。革新的なテクノロジーを持つスタートアップへ重点的に投資しており、その投資先は世界各国に広がっています。日本とアメリカが4割強で、そのほかEU諸国やインド、イスラエルなどおよそ120社に投資を実行してきました。

運用開始以降、15,000社をスクリーニングし、5,000社と面談してきた同ファンドでは、投資先のおよそ4割と何らか協業をしているといいます(*5)。

2021年7月には100%子会社としてソニーベンチャーズ株式会社を設立し、新たに「Sony Innovation Fund 3 L.P.」を組成。Sony Innovation Fundの運用総額は累計600億円を超える見込みとなりました(*6)。

最後に紹介するのは、株式会社NTTドコモです。2013年に株式会社NTTドコモ・ベンチャーズを設立し、ファンドを運営。ファンド規模はおよそ850億円で、これまで日本を含めたアジア、アメリカ、EU地域の120社以上に投資し、14社が上場しています。

主な投資先は、パーソナルモビリティ(電動車いす)を開発するWHILL, Incや、グルメアプリを運営するRetty株式会社など。NTTグループ各社とのシナジーを持った連携ができる点が、単独企業のCVCとは異なる強みの1つです。

*1 https://www.uzabase.com/jp/news/ub-ventures-1st-fund/
*2 https://www.uzabase.com/jp/news/ub-ventures-fund-second-close/
*3 https://ubv.vc/news/onecareer1007/
*4 UB Venturesウェブサイトのポートフォリオから算出(記事執筆時点)。
*5 https://thebridge.jp/2022/02/sony-innovation-fund-3
*6 https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/202202/22-0217/

 

2.二人組合


CVCの形態の2つ目は二人組合の形をとるパターンです。

パターン1では、企業が主体となって出資することでファンドを設立しましたが、二人組合の場合、事業会社とベンチャーキャピタル(VC)の2社でファンドを組成します。これが「二人組合」と言われる由縁です。

VCにファンドの管理運営やスタートアップのソーシングを委託できるため、事業会社としては自社内にノウハウがない場合でも、効率的にファンドを組成できます。

またパターン1のような複数の企業や投資家から出資を受けているファンドの場合、前述の通り、必ずしも自社の狙う領域や企業に対して投資できるとは限りません。その点で、二人組合の場合は事業会社の意向を投資判断に反映しやすい点が魅力と言えるでしょう。

ハウス食品やセイコーエプソンはこれに近いケースのようです。
ハウス食品グループ本社株式会社は2017年、SBIホールディングス株式会社の100%子会社であるSBIインベストメント株式会社と共同で、「ハウス食品グループイノベーションファンド」を設立。ファンド規模は50億円です(*7)。

オープンイノベーションの一環として、CVC投資をスタート。農産物の生産販売事業を展開する「株式会社ファームシップ」や、非プラスチックのエコ製品の卸売・製造販売に取り組む「株式会社アミカテラ」など、ハウス食品グループとの事業シナジーが見込まれる近接領域への投資が目立ちます。

セイコーエプソン株式会社も、2020年に子会社として「エプソンクロスインベストメント株式会社」を設立。独立系VCのグローバル・ブレイン株式会社をパートナーとして、50億円規模のファンドを立ち上げました(*8)。

ハウス食品同様、オープンイノベーションによる成長加速などに紐づく戦略の一環です(*9)。

宇宙用汎用作業ロボットを開発する「GITAI Japan」や無人・省人店舗ソリューションの開発、提供をする「Cloudpick Limited」などロボティクスやスマートインフラ、xRなどの領域において日本、アメリカ、中国、韓国の計6社への投資を明らかにしています(*10)。

*7 https://housefoods-group.com/newsrelease/pdf/cvc_20180124.pdf
*8 https://www.epson.jp/osirase/2020/200401.htm
*9 https://www.epson.jp/osirase/2019/190314.htm
*10 エプソンクロスインベストメントウェブサイトのポートフォリオから算出(記事執筆時点)。

3.事業会社からの直接投資


CVC投資の3つ目のパターンは、事業会社が直接ベンチャー企業に対して投資をする方法です。

新たにファンドを組成したり事業体を立ち上げたりする必要がないシンプルな方法のため、短期的な視点で見れば始めやすいやり方だと言えるかもしれません。また直接投資を行うため、事業連携の視点などが強まりやすいとも考えられます。

その一方でパターン1や2のように外部のVCと組むわけではないため、スタートアップ投資をする上では、社内に投資やファンド運営のノウハウがないことが課題にならないよう注意が必要です。またCVCの取り組み自体が、事業会社本体の経営判断に大きく左右されるといったリスクも一般的によく言われるところです。

凸版印刷のCVC活動は主にこのパターンに当てはまります。
当社、凸版印刷は2016年、経営企画本部内に戦略投資推進室を設立し、その中でCVC活動がスタート。これまで50社以上に投資をしてきました。
大きな特徴として、「幅広い業種・領域のスタートアップと連携していること」「すべての投資が『資本業務提携』であること」の2点が挙げられます。
1点目の投資先の幅については、印刷業という事業の特性上、常日頃から幅広いクライアントとビジネスを進めており、スタートアップとの連携においても幅広く対応してきた実績があります。
そして2つ目の特徴が、すべての投資が「資本業務提携」である点です。出資をして終わり、ではなく、業務提携を結んで、スタートアップとの共創にコミットします。

凸版CVCの立ち位置・取り組み


凸版印刷では、ベンチャー企業・スタートアップ企業様との資本業務提携によるシナジー創出を目指しております。CVC投資に限らず、幅広く新事業を一緒に創っていく手法をスタートアップ企業様と日々ディスカッションしておりますので、ご興味がある企業様は以下のリンクからお問い合わせください。

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