IPOってどうするの?株式上場までの流れと事前準備

※本記事は2021年1月時点での情報になります。

ベンチャー企業の多くが目標の一つに掲げる「IPO(株式公開)」。株式の上場には大きなメリットがある反面、非常に複雑な手続きと長い準備期間が必要です。IPOを目指す経営者は、事業計画の段階からしっかりと出口戦略を見据え、IPOまでの流れや成功させるポイントについて、知識を深めておくことをおすすめします。

IPOとは

「IPO」とは、Initial Public Offeringの頭文字を取った経済用語で、日本語では「新規株式公開」「株式上場」などと記されます。ベンチャー企業におけるEXIT(出口)戦略のひとつで、今まで取締役などの限定された株主で所有していた株式を、証券取引所で一般へ譲渡することが可能になります。近年ではM&A(買収と合併/Mergers and Acquisitions)が増加傾向にあるとはいえ、「興した会社を自らの手で成長させたい」と願う経営者にとっては、経営権が移行しないIPOは大きな魅力です。

関連記事:ベンチャー企業のEXITとは|IPOとM&Aの2つの方法

なお、日本国内の証券取引所は東京、名古屋、札幌、福岡にありますが、取引のほとんどが東京証券取引所(東証)に集中していると言っても過言ではありません。各証券取引所は市場区分によりいくつかに分れており、東証であれば東証一部、東証二部、東証マザーズ、JASDAQ(スタンダード/グロース)に区分されています。これらは上場においての条件が異なり、ベンチャー企業の場合は条件が比較的緩和されている東証マザーズやJASDAQに上場する会社が大半です。

現在、東証は一部を「プライム市場」、二部を「スタンダード市場」、スタートアップを中心とする「グロース市場」として3つの区分に再編成し、2022年4月に一斉移行することを目指しています。この新市場区分により、現在東証マザーズに上場している企業は他の市場に移行するに当たり、手続きや新規上場と同様の審査が必要になります。

■現在の東証の市場区分

 

株式上場するメリット

IPOを行い、株式市場に上場するメリットは数多くあります。以下に代表的なIPOのメリットを列挙します。

  1. 投資家からの効率的な資金調達につながる
    株式市場の上場には厳しい審査基準があり、これをクリアすることで大きな信用を獲得することができます。その結果、投資家から効率的に資金を調達できるほか、公募による時価発行増資も可能になります。
  2. 企業の知名度や信頼性のアップにつながる
    上場の審査を通過したことにより、会社や経営者に対する知名度や信頼性が高まります。また、新規取引先の開拓や優秀な人材の確保もつながります。
  3. 従業員のモチベーションが上がる
    上場企業と言うステータスを獲得したことで、従業員のモチベーションが上がります。また、従業員が住宅ローンなどを組むときにも、審査の際に信頼性が高まるメリットもあります。
  4. 経営の見直しができ、透明性が高まる
    厳格な審査基準に照らし、経営体制を見直すことで業務の改善ができます。また、企業情報を開示するにあたり第三者のチェックが入るため、経営の透明性が高まり健全な社内環境が整います。

株式上場にはデメリットも想定される

IPOを行い株式上場することで生まれるデメリットもあります。代表的な項目をリストアップしました。

  • IPO準備、実行時、上場後に大きなコストが必要になる
  • 経営の透明性を維持するための管理コストが増える
  • 知名度や信頼性の向上と同時に、失墜時のインパクトも大きくなる
  • 有価証券報告書などにより、株主に情報開示の義務がある
  • 幅広い株主が出現し、買収リスクも増大する

 

IPO株式上場までの流れ・スケジュール

IPOによる株式上場には、3年以上の長い期間と複雑な手続きが必要です。また、コンサルタントや監査法人など、社外の専門家のサポートも必要です。主な流れをまとめましたので、参考にしてください。

1.申請の3期前(N-3期)
本格的な準備がスタートします。社内で専任の担当者(またはチーム)を選出し、IPO専門コンサルタントと契約。相談しながら監査法人や証券会社を選びます。

2.申請の2期前(N-2期)
前段階のショートレビューで指摘された事項を改善し、会計監査を受けます。また、会社法により取締役会や株主総会の開催が義務付けられています。

3.申請の直前期(N-1期)
社内体制や規定の運用を徹底し、上場企業として適格であることを証明します。株式公開に向け、各種提出書類や準備業務が忙しくなってきます。

4.申請期
証券会社、証券取引所の順で審査が行われ、クリアすれば株式公開の運びとなります。その後、定款の変更など数々の上場にまつわる業務があります。

さらに上場後も、有価証券届出書や有価証券報告書、大量保有報告書などの金商法に関わる書類の提出が義務付けられています。IPOに際しては、これら全体的な流れをしっかり把握しておきましょう。各段階ごとの主な準備項目を以下にリストアップします。

申請の3期前

1.株式公開準備担当者の決定
株式上場には多大な業務が課せられるため、他業務との兼任では務まりません。専任の担当者、またはプロジェクトチームを結成して臨みましょう。

2.IPOコンサルタントの決定
専門家の立場から、的確なアドバイスをくれるコンサルタントは強い味方です。扱う業界や市場区分など、各社の得意分野を比較し、自社に合うコンサルタントを選ぶことが重要です。

3.監査法人、主幹事証券会社を選定
IPOの成否を決めると言われるのが、この両者。上場に適格であるかの審査や、株式の引受・販売など、主要な業務を任せることになるため、対応の速さや専門的能力はもちろん、担当者のコミュニケーション能力などを吟味し、選定は慎重に。

4.ショートレビューの実施
準備のスタート時、監査法人が行う短期調査がショートレビューです。会計だけでなく労務やガバナンスも含まれ、これにより改善するポイントが明確になります。

申請の2期前

1.ショートレビューを受けて改善 ・会計監査開始
ショートレビューで指摘された改善点を見直し、上場企業にふさわしい会社づくりに取り組みます。また、証券取引所の規則により会計監査が行われます。

2.取締役会や株主総会の開催
大会社の場合は、取締役会および監査役会、監査等委員会などの設置が必要になります。また、取締役会や株主総会などを毎月1回以上開催することが求められます。

3.会計方針の変更
現在税法ベースの会社は、金商法ベースへ会計方針を変更する必要があります。上場後は正当な理由を覗いて会計方針の変更が認められないため、変更する場合はこの時期までに行います。

4.株主名簿管理人と契約
上場審査の形式要件では、株主名簿の管理を代行する信託銀行や証券代行などの業者(株主名簿管理人)を設置することが必須となっています。

申請の直前期

1.改善された社内体制や規定などを徹底
ショートレビューで指摘された改善点が、実際に徹底されているかチェックします。この時期は上場審査に向け、完全に整っている状態が理想です。

2.公開に向けた市場の選定
どの市場で自社の株式を公開すれば最も収益が見込めるかを、コンサルタントを交えて選定します。事前の市場分析も重要になります。

3.主幹事証券会社との契約
主幹事証券会社は、証券取引所の審査に先立ち引受審査を行います。また、申請日程や手続きの管理、証券取引所との折衝などを行う重要な存在であるため、慎重に検討しましょう。

4.各種書類作成、印刷会社と契約
上場申請書類の作成に入ります。また、上場後の有価証券報告書等、開示書類の作成のため、印刷会社と契約する企業がほとんどです。印刷会社では法に適した開示書類作成システムを提供し、株券の電子化にも対応しています。

申請期

1.証券会社による引受審査
証券取引所の審査に先立ち行われる、公募や売り出しに相応しいかどうかの審査です。送られてくる質問項目に対し、期限内に回答を返信します。

2.証券取引所からの上場審査
株主数など要件を満たしているかを審査される「形式要件」と、上場企業としての適性を審査される「実質審査基準」があり、後者は書類審査に加えヒアリングや実地調査も行われます。

3.機関投資家に対するロードショー、IRサイト作成
機関投資家に対する公開価格決定資料として、ロードショーやIRサイトを作成、ローンチの準備を進めます。主幹事証券会社や印刷会社では、情報漏洩防止サービスも用意されています。

4.上場セレモニー
上場当日、証券取引所において上場セレモニーが開催されます。数々のイベントが実施されますので、自社の広報に利用する場合は撮影などの準備をしておきましょう。

 

上場させるための3つのポイント

上場までの流れを大まかに説明しましたが、この中で上場を成功させるポイントは以下の3つに絞られます。3年前から準備に入るので「じっくり取り組めばいい」と思いがちですが、IPOには複雑で多くの業務が必要となるため余裕を持って進めましょう。

●上場に向けて社内の管理体制を強化
●上場準備期間の流れの把握
●上場のための審査対策

以上のポイントをしっかり掴んで、確実に上場までの道のりを歩むことが重要です。次にそれぞれのポイントについて解説していきます。

上場に向けて社内の管理体制を強化

上場審査では、業績動向に加えて社内管理体制がチェックされます。社内規定の整備、経理と財務の部門分離、適切な内部監査、予算実績の管理などが内容に含まれますが、取締役会が活発に機能しているかどうかも重要なポイントです。会社法では、上場準備段階で大会社になっていない場合、取締役会などの設置は義務付けられていないものの、コーポレート・ガバナンスの確立という観点から、しっかりと機関設計をしておくことが望まれます。取締役会の議事録も整備しておくようにしましょう。

上場準備期間の流れの把握

株式の上場までには複雑で多大な手続きが必要となるため、コンサルタントや証券会社、監査法人などプロフェッショナルのサポートが必要になります。しかし、「プロにお任せしておけば大丈夫」と考えるのではなく、経営者自身が全ての流れを正確に把握しておくことが重要です。上場までのプロセスの中には、社運を左右する重要な意思決定が数多く含まれます。また、IPOであるからには上場後の経営を見越した判断も必要になります。現段階の進捗状況を理解し、先々必要となる法知識や社内体制の整備などを進めておくことが上場成功の秘訣です。

上場のための審査対策

株式公開に向けて、最大の山場と言えるのが証券取引所による「上場審査」です。特にデータ以外の要件を審査する「実質審査基準」については、事前の対策が決め手となります。例えば東京証券取引所の場合、書面による質問への回答提出のほか、ヒアリングによる口頭での説明が求められます。これはおよそ4回ほど行われ、経営の健全性やコーポレート・ガバナンス、事業計画の合理性など、1回に半日から1日を費やすほど多くの質問がなされます。そのため、明確で説得力のある説明ができるよう、事前にリハーサルを行っておくことをおすすめします。

まとめ

IPOを成功させるには、余裕を持った期間と十分な資金、そして入念な事前準備がポイントになります。様々なメリット得ることができるのが、IPOの最大の魅力です。ぜひしっかりと準備を行い、株式市場に挑戦をしてみてください。

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