ベンチャー企業のEXITとは|IPOとM&Aの2つの方法

ベンチャーで起業を志す人が、準備段階で練っておくべきなのが「EXIT戦略」です。EXITとは「イグジットストラテジー」「出口戦略」とも呼ばれるビジネス用語であり、投資家がベンチャー企業に出資した資金を回収することを意味します。どのようなEXITを目指すかは、資金調達に大きく影響します。ぜひしっかりと理解しておきましょう。

EXIT(エグジット)とは

「EXIT」とは出口を意味する英語ですが、現代ビジネス用語では「ベンチャー企業において、株を保有する出資者が利益を回収すること」という意味で使われています。

創業時の資金調達は、主に「融資」と「投資」に分類されます。融資は銀行などの金融機関が行うもので、担保をもとに企業に資金を貸し付け、元本と利息を回収することで利益を得ます。一方、投資は投資会社や個人のエンジェル投資家などが行うもので、将来有望な未上場企業に資金を投下することで、成長後の利益から見返りを回収するシステムです。

実績のないベンチャー企業が事業をスタートさせる際、金融機関からの融資だけではなく、近年では投資会社から資金提供を受ける会社が増えてきました。単なる資金の調達だけでなく、お互いのリソースを共有することで得るメリットが期待できるのが特徴で、投資側にとっては若い企業が成長して収益を回収する段階が「EXIT」に当たります。ここでどのようにEXITするかが、企業にとっても投資会社にとっても非常に重要なポイントです。

ベンチャー企業のEXIT戦略が大切な理由

ベンチャー企業の経営者にとって、事業計画と同時に考慮しなければならないのが資金繰りです。投資会社から資金調達をする予定なら、真っ先にEXIT戦略は熟考しておくべき事柄だと言えます。逆に言えば、EXIT=出口戦略を明確にしておけば、そこへ到達する最適ルートが導かれるのです。

投資会社や投資家から資金を調達する際は、アプローチから審査へ移ります。その際に必ず確認されるのが「EXITの計画はどうなっていますか」ということです。EXIT戦略は経営方針でもあるため、事業の計画段階で明確にされていない場合は、投資会社を納得させることができなくなりかねません。

また、無事に出資が決まって事業がスタートした後においてもEXIT戦略は経営者にとって重要です。ベンチャー企業への投資は事業の成功が前提であるため、もし目標が達成できそうにないと判断されれば、投資会社は回収を早めるケースもあります。そのため、常にEXITを意識しながら経営を行う必要があるのです。

ベンチャー企業のEXITの2つの方法

ベンチャー企業にとってのEXIT戦略には、大きく分けて「IPO」と「M&A」の2種類があります。それぞれ特徴が大きく異なるので、自社の条件と照らし合わせながら選択することが必要です。

●IPO(新規株式公開)
「Initial Public Offering」の頭文字を取ったもので、日本語では「新規株式公開」や「新規上場」などと言われます。証券取引所に自社株が上場することは企業にとって一種のステータスでもあるとともに、株式の流動性が高い企業は投資家にとっても高評価のポイントになります。そのため、多くのベンチャー起業家が「いつかはIPOを」と掲げる目標になっています。

●M&A
「Merger & Acquisition」の頭文字を取ったもので「合併および買収」という意味で使用されます。短期間・低コストで資金回収ができ、シナジー効果で事業の成長が期待できるため、アメリカではベンチャー企業の多くがM&AでのEXITを行っているほどです。

それぞれについて、メリットやデメリットも合わせて詳しく解説します。

IPO(新規株式公開)

ベンチャー企業のEXIT戦略における「IPO」とは、株式を証券取引所に新規上場させ、外部に譲渡することによって投資会社が資金の回収を行うことを指します。それまで社内の役員や従業員などに限定されていた株式が公開されると資金調達の幅が広がりますが、その反面様々な制約や責任も発生する点には注意が必要です。

日本のビジネスシーンでは「株式が上場する」ということが信頼につながる傾向にあるため、ベンチャー企業の経営者にとっては成功への通過点として魅力を感じることも多いようです。日本の株式市場における上場企業数は年を追って増加の傾向にあり、2020年度の総数は3,822社。前年度(2019年度)より116社増えており、1990年の1,752社と比較すると倍以上の増加となります。

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IPOでのEXITのメリット

ベンチャー企業がEXIT戦略においてIPOを選択することで、得られるメリットの代表例をリストアップしました。

●経営権が保持できる
IPOの場合、全ての株を売り出さない会社が大半なので、経営権を保持したまま株式で収益が得られます。引き続き安定した業務が継続できるため、社員や取引先にとっても影響が少ない方法です。

●株価高騰による利益獲得
市場に株式を公開することにより、大きな収益を上げられる可能性があります。もちろん株価は業績によって変動するものですが、一般的にIPOではM&Aと比べて、より株価上昇が期待できます。また、自社株を定められた価格で取得できるストックオプションにより、キャピタルゲインを得ることも可能です。

●信頼性が向上する
IPOを実現した経営者は、投資家からの信頼性が高まります。また、業界での知名度が上がるため、事業拡大や優秀な人材の確保なども期待できるのもメリットです。

 

IPOでのEXITのデメリット

IPOにおけるデメリットは、主に以下の2点に集約されます。条件に関しては、自社の状況に合わせて確認してください。

●手間と費用がかかる
株式の上場には、数年単位の準備期間が必要と言われており、例えば東証マザーズの場合は、新規上場申請日から起算して、3年程度の期間をもって準備が開始されます。また、費用についても審査料や上場料に数百万円から場合によっては1,000万円以上、さらには監査法人やコンサルタントへの依頼費用、有価証券届出書や目論見書などの印刷で数千万円かかることがあります。

●IPOの条件が厳しい
株式市場により、上場できる条件がそれぞれ違います。例えばに上場する場合、株主数200人以上、時価増額が10億円以上、流通株式数2,000単位以上など、様々な条件が定められています。最もハードルが低いJASDAQグロースにおいても、株主数200人以上で純資産額が黒字などの条件が設定されているのです。

 

M&A(合併・買収)

ベンチャー企業のEXIT戦略におけるM&Aとは、事業を売却することで投資会社が資金回収を行うことであり、日本語では企業買収や合併とも称されます。日本では企業買収と聞くとネガティブなイメージを持たれることもありますが、アメリカやEU諸国では経営の一手段として積極的にM&Aが行われているのです。日本でも、近年ではIPOよりもM&AをEXIT戦略として取り入れる企業が増加しており、2017年の国内M&A成立件数は3,050件でした。この数値は2012年以降6年連続で過去最多を更新しています。

特に近年では欧米型の考えを持つベンチャー企業の経営者が多くなったこと、また既存企業の経営者の高齢化および継承者不足により事業を他者に譲渡する会社が増えていることから、ますます国内のM&Aは活発になっていくと予測されます。

M&AでのEXITのメリット

M&Aのメリットは数多くありますが、ここでは現在の日本市場で代表的な項目をリストアップします。

●労力やコストが抑えられる
IPOでは株式の上場に数千万円の費用が必要です。また、株価の暴落を防ぐ目的から、上場後一定期間の株式売却が禁じられることがあります。しかしM&Aであれば、基本的に専門家への委託費用は不要です。また、企業間の合意さえあれば、事業の売却と同時に株式の現金化が実現できます。

●売却条件がない
売却するための条件がないことも、M&Aの大きなメリットです。買い手さえ納得すれば、資本金や利益額などの条件を満たす必要はありません。そのため当事者同士が合意すれば、1回の面談で話が決まることも珍しくないのです。

●企業間のシナジー効果
合併・買収により企業のシナジー効果が生まれることも、M&Aのメリットのひとつです。ベンチャー企業にとっては相手企業の販売網や設備を共有できるため、様々なメリットが生まれ企業価値が上昇します。自社にとって強化したい部分がある場合は、シナジー効果を吟味して売却先を選ぶことも重要です。

 

M&AでのEXITのデメリット

M&Aでのデメリットは、経営権や労働環境の変化によるところが大きいと言えます。しかし、事前に起こりうる事態を予測し、しっかりと準備をしておくことで、混乱を最小限に防ぐことができます。

●経営権がなくなる
M&Aで最も大きな変化が、経営権の消失または縮小です。M&Aでは買収側が株式の過半数を持つケースがほとんどであり、その場合経営者はオーナーから被雇用者という立場になります。また、起業合併となった場合は、元の会社がなくなります。育てた会社を手放したくない経営者にとっては難しい決断となるでしょう。

●企業間の摩擦
一般的に企業買収、合併となった場合は、買収した側の社風やルールが適用されることになります。これにより、社員間に摩擦が起こるケースは少なくありません。また、取引先に関しても従来の契約方法が変更になるなど、業務に影響が出ることもあります。このようなトラブルを未然に防ぐには、M&A後の経営、業務、意識などの統合効果を最適化する「PMI(Post Merger Integration)」を、計画段階で練っておくことが重要です。

●想定収益と現実との乖離
M&Aは将来的な収益額の予測が難しいことから、EXITによる実際の収益と経営者の想定に乖離が生じることも少なくありません。また、売却により株式を失うため、将来的なキャピタルゲインの増加も期待できません。

 

EXITを目指す上でのVC、CVCとの付き合い方

EXIT戦略に不可欠なのが、投資会社(VC)との付き合い方です。近年では投資が本業ではない大企業が行う「CVC」(コーポレートベンチャーキャピタル)も急増しています。VCが主に企業の成長による収益回収が狙いであるのに対し、CVCは協業によるシナジーや新しい社会的価値の創生を求めます。どちらが自社に適しているかをしっかりと判断し、上手に付き合うことが重要です。

●協業によるシナジー効果
VCのEXITでM&Aを選んだ場合やCVCによる投資においては、自社より規模の大きな会社とのシナジー効果や、業務の上で数々の恩恵を得られることがあります。これらは事業を大きく発展させ、社員の成長にも役立つメリットです。しかし一方で、大企業のカラーに染められたり制約が厳しくなったりするなど、デメリットもあります。

●CVCは条件が絞られる
VCは利益回収の条件を重視しますが、CVCの場合はそれに加えて事業内容にも独自の条件が設定されていることが少なくありません。スタートアップ企業と大企業のそれぞれが発展するためのアイデアが必要であり、オープンイノベーションとして柔軟な経営理念を持つことが必要です。

EXITを成功させるためのポイント

EXIT戦略が成功するか否かは、経営者の判断力にかかっています。なかでも重要なポイントを以下にリストアップしました。計画段階からしっかりと出口を意識することが成功のカギと言えます。

●どのような経営を目指すか
最初に、経営理念の根底となる「なぜ起業するのか」「どんな会社にしたいのか」をはっきりとイメージすることが重要です。経営者のタイプや業種によって、EXIT戦略には向き不向きがあります。まずはビジネスの全体像を設計してみましょう。なお、あえて出口を設けない「非上場」という選択肢も、経営戦略のひとつとして考えられます。

●IPOかM&Aか
経営方針が決まったら、IPOかM&Aかを検討します。IPOの場合は長い準備期間と莫大な経費が必要になりますし、M&Aの場合は経営権が消失した後の展開も想定しておかなければいけません。目指す出口に向かって準備を怠りなく進めましょう。

●EXIT
EXITが終わった後も、企業間のつなぎや社員間の軋轢の緩和など、スムーズな業務の継続のためにはきめ細かいフォローが求められます。経営、業務、意識を統合し、EXTの効果を最大に引き出す「PMI(Post Merger Integration)」を早い段階から取り入れておくことが肝心です。

まとめ

ベンチャー企業の経営にとって、資金の流れの大きな柱となるのが「EXIT戦略」です。これが成功するかどうかによって、事業の価値が決まると言っても過言ではありません。株式に関する法律は難解かつ複雑ですが、ベンチャー起業を志すなら、事業計画の一部としてしっかり把握しておきましょう。

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