事業部との連携、どうしてる? 資本業務提携を生むための事業部の巻き込み方|CVC対談 三井不動産×凸版印刷

凸版印刷は新事業創出のため、2016年から現在までに国内外60社強のスタートアップ企業へ出資・提携をしてきました。その中で、スタートアップ企業と凸版印刷の橋渡しをしているのがTOPPAN CVCです。

近年増加しているCVC ( Corporate Venture Capital ) ですが、一口にCVCと言っても、その形態や目的、運用形態等、実態は各社によって様々。そこでTOPPAN CVCはその実態を探るべく、不動産業界の雄である31VENTURES(三井不動産 CVC)を訪ねました。

2015年にCVCを立ち上げた三井不動産。自社単独ではなく、独立系VCとのファンド共同運用の道を選択し、これまでに約50のスタートアップに投資してきました。今回は三井不動産の塩山さん・桐山さんに、31VENTURESの運用実態や協業への考え方、社内の協力体制等を聞いています。三井不動産に質問するだけでなく、凸版印刷のこともお話しながらのディスカッションとなりました。

独立系VCと共同でファンドを設立。なぜ?

滝本(凸版印刷):
CVC対談に三井不動産の塩山さん、桐山さんをお迎えしました。よろしくお願いします。まずは三井不動産CVCについて簡単に教えて下さい。

桐山(三井不動産):
三井不動産ではスタートアップに関わる活動を「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」と呼んでいて、CVC活動に加え、THE E.A.S.T.ブランドで展開しているスタートアップ向けワークプレイスの運営もしています。

凸版印刷CVCとの最大の違いは、三井不動産はグローバル・ブレイン(編注:独立系ベンチャーキャピタル)と共同でファンドを運用していることでしょう。2023年3月時点で3つのファンドを運用しています。スタートアップとの協業は三井不動産のメンバーが率先して検討しているのですが、投資に関するデューデリジェンスや投資先のモニタリングはグローバル・ブレインと共に実施しています。

投資ステージはシリーズA以降で、領域としては不動産テックはもちろん、IoTやサイバーセキュリティまで、幅広く投資対象としています。というのも、三井不動産という会社はtoB・toC両方の顧客接点を有していますし、オフィス、商業施設、ホテル、住宅等、多様な施設もあることから、協業としては色んな可能性を見出だせるからです。2023年3月現在約50社のスタートアップに投資しており、日本だけでなく海外へも投資してきました。CVCで投資に関わるのは約7名(管理職を除く)という体制になっています。

三井不動産のポートフォリオ(提供:三井不動産)

内田(凸版印刷):
おっしゃる通り、凸版印刷は(ベンチャーキャピタルとではなく)自社運用型でベンチャー投資に取り組んでいますし、ファンドも設立せずに直接投資しています。三井不動産はどうして自社単独ではなく、グローバル・ブレインと共同でファンドを設立したのでしょうか。

桐山(三井不動産):
CVCをはじめとした組織の運営にあたっては、いかに持続的な仕組みを構築するかが重要だと考えています。三井不動産の人間はスタートアップ投資のプロではないし、ノウハウを蓄積しても、人事異動で知見が断絶してしまうおそれもある。だったらスタートアップ投資のプロであるグローバル・ブレインの力も借りて、持続的に運営できる仕組みが必要だという話になったんです。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部・31VENTURES 桐山 篤之|KIRIYAMA Atsuyuki
2013年三井不動産入社。三井不動産レジデンシャル(株)に出向し、住宅開発業務に従事。不動産コンサルティング・営業部門を経て、2020年より、(一社)日本経済団体連合会(経団連)に出向。経団連では主にスタートアップ振興に係る政策提言業務を担当し、2022年3月に「スタートアップ躍進ビジョン」を公表した。2022年4月より出向復帰し、ベンチャー共創事業部にて、当社の新規事業創出に向け、CVC活動等を担当。

内田(凸版印刷):
なるほど。シナジーと財務リターンのバランスについてはどう考えていますか?

塩山(三井不動産):
明確に「何割がシナジー投資」と決めているわけではありません。戦略を求めてたら結果として財務リターンもついてくるというのが理想ではあります。といっても財務リターンが出ていないと組織が永続的に運営できないので難しいところですね。そのため、ベンチャー投資のプロであるグローバル・ブレインと協議しながら、適切な水準で財務リターンも期待できる案件に投資していくことが重要だと考えています。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部・31VENTURES 塩山 裕介|SHIOYAMA Yusuke
大学を卒業後、KPMGあずさ監査法人での会計監査を経験し、その後英国へ留学。帰国後はデロイトトーマツコンサルティングで新規事業開発支援、都内コワーキングサービス会社でのスタートアップ支援・イベント企画等を経験。2019年三井不動産へ入社し、CVCを通じた出資やスタートアップとの協業を担当。

滝本(凸版印刷):
なるほど。私は社内で投資ポートフォリオ管理を担当しているのですが、投資先が60社にもなると各社の情報を把握するだけでも大変なんです。三井不動産は投資先管理はどのようにしていますか。

桐山(三井不動産):
三井不動産の場合、凸版印刷や他の会社とはちょっと事情が違うかもしれません。出資先の状況に応じ、というのも、三井不動産の担当者が直接スタートアップとやりとりしている場合もあれば、グローバル・ブレインの担当者が間に入る場合もあるからです。必要に応じて三井不動産の担当者がフォローするケースもありますし、グローバル・ブレイン経由で情報を取得することもあります。

事業部との連携、どうしてる?

内田(凸版印刷):
TOPPAN CVCの案件は基本的にすべてが協業を前提とした資本業務提携です。三井不動産も純粋に投資するだけでなく、協業前提が多いと聞きましたが、協業ではどんな点に苦労していますか?

塩山(三井不動産):
CVCが協業を推進する際には事業部を巻き込む必要があります。でもそれって、ある意味で人のふんどしで相撲を取るわけです。しかも社内だけで済まないときさえあります。例えば最近話題のクライメートテック。脱炭素に有効な素材が誕生して、三井不動産CVCが投資するとします。でもデベロッパーが自分で建物を建てるわけではないので、ゼネコンにその素材を使ってもらわないといけない。そうすると事業部を通すためにゼネコンを説得しなければいけないわけで、両者を説得しないと協業できないというのは非常に大変です。

滝本(凸版印刷):
なるほど。(資本)業務提携を前提とすると、事業部との連携は必須ですよね。三井不動産はもう何年もCVC活動をしていますが、社内は協力的なのでしょうか。

凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資部 滝本 悠|TAKIMOTO Haruka
大学を卒業後、新規事業開発支援を展開するGOB(株)を創業・取締役に就任。大手企業における新規事業創出やアクセラレーションプログラム等の運営に携わる。またIoTスタートアップの立ち上げに参画し、多数のメディア掲載、大手店舗での取扱い、資金調達等に繋げる。2021年に凸版印刷に入社し、ベンチャー企業との資本業務提携および事業開発を推進。AVITA、オルツ、KabuK Style、ナッジなどを担当。早稲田大学経営管理研究科修了。

桐山(三井不動産):
人や部門にによりけりな面はあると思うので、いかに興味を持ってもらえるようにするかが重要だと思っています。例えば私は新卒で住宅ビジネスに携わっていました。そうするとその事業を取り巻く環境や事業構造はわかるので、スタートアップの話を聞いた際に、より具体的な協業アイデアを持って、各事業部門が興味をもってもらえるよう話ができる点は強みかと思います。

塩山(三井不動産):
例えば2022年に投資したGaussy株式会社は三菱商事からスピンアウトした会社なのですが、この案件は物流施設の開発を所管している部門がCVCに話をもちかけてくれて投資に至りました。とはいえ、この例のように事業部から「ここに投資検討したいんだけど」と相談が来るケースは多いわけではありません。もっと事業部にCVCの活動を知ってもらうのが大事なのはもちろんなのですが、凸版印刷はどうですか?

内田(凸版印刷):
社内からの持ち込みは徐々に増えてはいます。スタートアップと共に既にクライアントに共同提案していて、サービス上の補完関係があるので、CVCに投資もどうかと紹介してくれるケースが多いですね。

凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資部 主任 内田 多|UCHIDA Masaru
2010年 凸版印刷入社。法務本部にて、BookLiveやマピオン等のデジタルコンテンツ領域を中心に法務業務に従事。広告企画・開発部門を経て、2016年より、経営企画本部 にて、ベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当。オシロ、サウンドファン、キメラ、combo、ナッジ、Liberawareなどを担当。早稲田大学大学院 経営管理研究科修了。早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所招聘研究員。

塩山(三井不動産):
なるほど、いいですね。

内田(凸版印刷):
塩山さんがおっしゃた通り、社内での草の根活動は大事ですよね。特にDXやSaaSなどのIT領域とは異なる研究開発案件は研究開発部門の協力が不可欠なので、どうやって連携を深めていこうか腐心しています。

塩山(三井不動産):
オープンイノベーションでは、自分達の守備範囲外の話も出てくるので、その際の技術の目利きが難しいですよね。社内に理解してもらうというプロセスにおいて、凸版印刷だと研究開発部門が技術的な話をできるかもしれませんが、三井不動産には大型の研究開発部門があるわけではないので、プロダクトとして完成しているサービスの方が検討しやすいという側面はあります。一方で、技術や研究開発力をコアとするスタートアップとの投資や協業の検討は担当者の腕の見せ所です。

塩山(三井不動産):
そもそもなのですが、最初の投資時点で、どの程度の確度の協業案を作っていますか?

内田(凸版印刷):
スタートアップがいる市場や社会課題、それを解決するソリューションのためにお互い何ができるのかをとことん議論します。例えば凸版印刷はマーケティングのフィールドを用意したり想定顧客を紹介したり、スタートアップは最先端の情報を収集するとか。そうした役割分担を業務提携としてまとめています。

塩山(三井不動産):
全てのスタートアップと業務提携を結ぶんですもんね。

内田(凸版印刷):
はい。その後月次定例で協業についてディスカッションして解像度を高め、実際に行動に移していく。とはいえ60社も投資していると、出資当時から状況が変わって協業プランを考え直すケースも当然ありますけどね。

協業するためには出向したほうがいい?

桐山(三井不動産):
CVCのメンバーについても話したいのですが、CVCメンバーの採用はTOPPAN CVCはどのようにしていますか?

内田(凸版印刷):
外部からの採用と社内異動、どちらもありますね。異動は(CVCに限らず)希望を申告できる制度があって、そこで手を上げてくれたら異動を検討します。またスタートアップとの協業を担ってくれた方がCVC部門に異動してきてくれることもあります。

滝本(凸版印刷):
私自身は約2年前に内田さんからのリファーラルがあって、中途入社でTOPPAN CVCに参画しています。私のように中途入社しているメンバーが3分の1〜半分くらいでしょうか。

桐山(三井不動産):
なるほど。三井不動産も同じですね。31VENTURESの3分の1程度が中途入社です。私自身は新卒で三井不動産に入社してCVCに異動してきましたし、塩山さんは外部から即戦力として期待されてCVCに採用されています。とはいえどちらが良い悪いではなく、バランスの問題でしょうね。

塩山(三井不動産):
CVCメンバーの話でいくと、凸版印刷はスタートアップに出向しているメンバーがいますよね。出向までするのは素直にすごいなと思ったのですが、出向の目的などを聞きたいです。

協業を推進するための出向。それでも大事なのはカルチャーフィット|TOPPAN CVC出向の狙い(前編)

内田(凸版印刷):
出向の目的のひとつは、協業の推進です。ただ実際には協業よりも、出向先のスタートアップのいち社員として働き、スタートアップの事業に普通に従事していると言った方が正確かもしれません。そうすることで社内の色んな方と関係が築けますし、結果的に社長や社員にも協業について気軽に相談できるようになるんです。

実際、私もcomboという会社に出向経験があります。凸版印刷としては珍しくシード投資した会社ということもあって、経営企画という名前ですが、社内の「これ誰がやるの?」という仕事に対応する仕事をしていました。最初の仕事は自分で使う「office 365」の導入でしたよ(笑)。

0→1はまだ未解決。スタートアップスタジオ「combo」が挑戦する社会課題

内田(凸版印刷):
でもそういうことをしているから、私は出向先の色んな事情をわかっているわけですし、協業の相談もできるわけです。凸版印刷としても投資先の情報をちゃんと把握することにも繋がりますし、大変ですけどメリットも大きいですね。

桐山(三井不動産):
一口に協業と言っても粒度があるじゃないですか。単純なサービス導入もある意味で協業だと思いますが、とはいえ世のCVCが狙っているのはスタートアップとの新しいビジネス創造だと思います。ですが正直、そこまでなかなか至れていない案件が多いのが現実ではないでしょうか。出向というのはあくまでも手段ではあるのですが、それぐらいスタートアップに入り込まないと新規事業なんて創れないんじゃないのかとも最近思っているんですよね。

内田(凸版印刷):
難しい問題ですよね。これは完全に個人の意見ですが、業務提携に影響力を持たせすぎるのも弊害があると思うんです。スタートアップからすれば、まず今あるプロダクトを売って、売上を立てるのが最優先だと考えています。中長期的に「こういうソリューションを作りたいですね」という話はお互いの視座を上げるという意味では有益なのですが、スタートアップにとっては短期的に売上をあげることも大事なわけです。それもあって凸版印刷は、投資しているスタートアップの商品の販売代理もしています。

滝本(凸版印刷):
最後に聞いておきたいことがあるのですが、スタートアップとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

塩山(三井不動産):
相手によって出せるバリューが変わるという点は考えるようにしています。例えば学生起業家に対しては「大企業向けに提案を通すならこういうアプローチがいい」という話をしたり、不動産業界の経験がない人に対しては業界構造や攻めるべき勘所をなるべく共有するようにしているつもりです。人によってすぐに出せるバリューがあるので、それを発揮できるように普段からスタートアップと接するのが大切かなと思っています。

滝本(凸版印刷):
なるほど。ありがとうございます。今回は大変勉強になりました(上には書けないオフレコなこともたくさんありました)。まだまだ聞ききれていないことがたくさんあります。またお話しましょう。

桐山・塩山(三井不動産):
こちらこそありがとうございました。

(執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:taisho)