0→1はまだ未解決。スタートアップスタジオ「combo」が挑戦する社会課題

2021年7月、新規事業を創出し、成長させるスタートアップスタジオ「combo」が始動しました(プレスリリース)。スタートアップスタジオ事業とアクセラレーション事業を中心に、スタートアップや新規事業をブーストさせるべく活動を開始しています。

comboを設立したのは、未来の体験を社会実装するクリエイティブ集団PARTY。ブランディングやUI/UXに強い彼らの脇を、エンジニアリング・PR・人材等に長けたパートナー企業が固め、全方向からスタートアップ等を支援します。

comboの始動にあたっては、凸版印刷は出資かつ、社外取締役と事業推進担当に人材を派遣しました。今回は、combo代表の中村さん、取締役の田中さん、社外取締役の坂田さん、事業推進担当の内田さん4名を招いて、comboについて詳しく話を伺います。

0→1、1→10の課題を総合的に解決

── comboの概要について教えて下さい。

中村:
2021年7月19日、スタートアップスタジオ「combo」を始動させました。comboは、私と田中が所属するPARTYをはじめ、複数のパートナー企業と共に、スタートアップの成長にコミットする会社です。

中村:
キャッチコピーには「スタートアップをつくる。伸ばす。」を据えているのですが、言葉の通り、「つくる」と「伸ばす」の事業がそれぞれあります。この2つは似て非なるもので、全く違うんです。

「つくる」はいわゆる0→1で、アイディアはあるけど事業開始時点で悩む起業家や、それこそ凸版印刷のような大企業の新規事業プロジェクトの初期フェーズのサービスを想定しています。「事業アイディアはあるんだけどな」「経営者人材はいるんだけどな」という状況に対して、サービス実装、マーケティング、クリエイティブ制作、UI/UX、PRといった課題に、超高速に対応していきます。つまりcomboが0→1の段階でスタートダッシュできるように支援するのです。

他方の「伸ばす」。これはある程度のトラックレコードがあるスタートアップや大企業の新規事業を想定しています。各社共通してこの段階で悩むのは、ブランディング、PR、UI/UX、ファイナンス等。これらの課題に対して各分野のスペシャリストがお手伝いします。


(image: combo)

田中:
もちろん幅広い課題に対応するのは大変です。しかしどんな課題にも対応できる布陣にしないと、スタートアップスタジオとして価値を出せないと、これまでの経験から実感しています。

私と中村が所属しているPARTYは、ブランディングやUI/UXに強い会社です。ただ当然ながら、それらは事業の中のひとつの側面にしか過ぎません。だからこそcomboをやるからには、様々な側面をバックアップできて、事業全体に伸ばしていけるような構造にしないと意味がない。そのために各分野のプロフェッショナルと提携しています。

面白いアイディア、時代を捉えたアイディアを抱える一方で、「アイディアを形にする」「ビジネスの仕方がわからない」「かといって人を探すのも大変そう」と立ち尽くしてしまうという起業予備軍の方はたくさんいると思うんです。もちろん最終的には、自社でプロダクトを開発する体制は整えるべきです。しかし事業の初期フェーズでは、誰かが手を添えてあげないと形にならないこともある。comboはそこをお手伝いします。

坂田:
comboの船出に際して、凸版印刷からは出資をしています。加えて私は社外取締役として参画し、内田はビジネスディベロップメントとしてチームに参画しました。

凸版印刷は基本的にはBtoBの会社というのもあって、SaaSのようなBtoBビジネスと相性がよく、CVCからの出資もそういった案件が多いんです。他方で目の前の業務の効率化ではなく、市場を創造するようなtoCビジネスを手掛けたいという思いもずっとあった。(後述するように、)comboは特にtoCビジネスに注力するということもあって、出資や人員連携に至っています。

── (取材時点で)combo設立のプレスリリースを出してから2週間程経ちました。反響は如何でしょうか。

中村:
問い合わせはあるのですが、現状は「サービスはあるが資金調達のために磨きたい」「事業をリブランディングしたい」等の1→10、10→100のお問い合わせをたくさんいただいています。今はその問い合わせに対応しながら「悩みってたくさんあるんだな」と改めて感じています(笑)。立ち上がったばかりでリソースも限りがあるので、仕事を選ばせていただいている状況です。

もちろん10→100も手掛けるのですが、PARTYでもやっていたことではあります。0→1の方がチャレンジングだし、社会的な課題で世の中に必要とされているテーマだと認識しています。なので0→1をもっと手がける方向に持っていきたいですね。

── comboとして注力したい、または得意な分野はあるのでしょうか。

内田:
基本的には何かしらのデジタル技術が絡むもの、特にスマホ等オンスクリーンのtoCサービスが最初は中心になると思います。個人的に興味のある領域は各人にあって、僕は特にスポーツ領域を手掛けたいですね。

中村:
スポーツについての思いは今始めて聞きましたが(笑)。

内田:
そうなんです(笑)。

田中:
元々PARTYで担当していた案件がスクリーン完結型のものが多く、経験があるので素早くかつ完成度の高いサービスが作れると感じているので、最初はオンスクリーンの案件を担うと思います。ただもちろん、PARTYでは大規模インスタレーションやIoT等も扱ってきました。なのでハードウェアもソフトウェアもcomboでは扱っていきますよ。

坂田:
凸版印刷から社外取締役という立場でcomboに参画している立場から言うと、やはり凸版印刷だけでは作れない尖ったサービスを手掛けたい。ネクスト印刷、ネクストスマホのような、新しい産業ですね。凸版印刷は、田中さんが取締役を務める株式会社The Chain Museumと、ArtStickerという事業でご一緒しているのですが、こういう案件を扱いたいです。
田中:
ArtStickerは一言で語ると、「アート・コミュニケーションプラットフォーム」ですね。アーティストが直接ファンとコミュニケーションをとれたり、Stickerと呼んでいるチップのようなものを受け取れたり、アート販売も可能なプラットフォームになります。

(image: The Chain Museum)

田中:
個人的には「コミュニケーションを作る」というテーマに興味があります。ArtStickerもデジタル化することによって関係者が増えるという意味では、これも一種のコミュニケーションです。熱いコミュニティができていく過程はワクワクしますよね。坂田さんの言う通り、こういう案件は引き続き手掛けていきたいです。

VCとは異なる「スウェットエクイティ」

── comboから投資するスタートアップの、理想的な成長パターンを教えて下さい。

内田:
0→1を前提とすると、共同創業に近いイメージで、事業のアイディア段階から起業家とcomboが伴走します。当然ながらcomboも利益を出さなくてはならないので、その際はエクイティをもつこと、つまり出資させてもらうことが前提となります。

その後例えばUI/UXはPARTY、エンジニアリングはサンアスタリスク、人材はフォースタートアップスと、パートナーの力も借りながらスタートアップを支援していく。そうした中でPMF(Product Market Fit)がみえて事業が順調に成長し、次の資金調達が必要になれば、凸版印刷やパートナー、外部のVCから調達する。そこからは普通のスタートアップと同じですね。M&AやIPOといったExitを目指すことになります。会社設立からマザーズに上場するまでの平均期間は11年程だと思いますが、comboとして支援するからにはさらに早いExitを目指したい。Exitで資金が回収できたら、それを原資にまたスタートアップスタジオに投資をする、というサイクルが理想ですね。


(image: combo)

中村:
事前に投資をしてExitで回収するという意味ではVCと似ています。ただcomboは、自分たちで手を動かす分だけ効率が悪いとも言える。僕は「スウェットエクイティ」なんて呼んでいますが、愚直に働いて結果を出すことで対価を得て、サービスと世の中のニーズを繋げたいというのがcomboの考えです。マクロで見ればまだまだVCの数が足りないなんて言われますが、それでも結果を出しているVCは数多くいます。彼らとは違う面でバリューを発揮していくことが目標ですね。

正直に言うと、PARTYやパートナー企業の人たちは凄腕のエンジニアやデザイナーといったプロフェッショナル人材で、普通に仕事を発注するとかなり高額になってしまいます。そのため一般的なやり方で起業したスタートアップが0→1の段階で発注するのは難しい。しかし現実には、0→1の段階でマッチングした方がいいケースもあるはずなんです。つまり既存のシステムでは見逃され、解決されていない課題がある。comboとして最適なやり方をみつけ、課題解決にフォーカスしていきたいです。

── 株式の放出割合等の条件はどういったものになるのでしょうか。「実装なきアイディアに価値はない」と言われる中でアイディアだけをもち、サービス制作やブランディング、PR等を多方面で手伝ってもらうのですから、起業家としてはかなり厳しい条件を覚悟しなければいけないような気もします。

内田:
正直、今パターンを考えているところですし、状況や案件次第で当然条件は変わってきます。

とはいえ、例えば株式の過半数を取得するようなことがあれば、次の資金調達が苦しくなってしまったり、そもそも「本当にフェアなんだっけ」という疑問が出てきます。なので今まで先輩方がつくってきたエコシステムを壊さないような、起業家にリスペクトをもった条件をフェアに設定するのが大前提です。

中村:
アンフェアな契約にしない、は当然ですが、そもそもスタートアップでは「起業家が事業に責任をもつこと」が重要ですよね。覚悟がないと、アイディアを実装したところで事業が前に進まない。以前、歪(いびつ)なエクイティ構造で事業を進めた経験があるのですが、やはり上手くいきませんでした。そのため株式の放出割合も含め、起業家が事業にコミットできるような内容にすることが大切です。

田中:
comboが手伝ったからといって、当然ながら成功が確約されているわけではありません。事業が上手くいかなければピボットしたりするわけで、起業家は人生を懸けて挑戦する必要がある。少なくとも僕個人は、結局最後は「人」だと思っているので、起業家が納得して事業にコミットできる条件にしなければなりません。

(image: combo)

スタートアップスタジオとしての凸版印刷のチャンス

── 凸版印刷からみたcomboについても教えて下さい。凸版印刷はcomboに出資もし、坂田さんが社外取締役、内田さんが事業推進担当として参画しています。狙いを教えて下さい。

内田:
先程も話に上りましたが、凸版印刷は以前からArtSticker等でPARTYとご一緒していて、そのクリエイティブや事業デザイン能力の高さは身を以て知っています。そんな方々が起業家やイントレプレナーと事業を作っていくというのだから、必ず成功するという確信があったので、一緒に取り組みたいと直感しました。坂田や私も含め凸版印刷から人を巻き込むことで、凸版印刷としては人材育成にもなるのもポイントです。

坂田:
大きな目的は、凸版印刷としての新規事業をつくることです。ただ新規事業をつくる上では戦略と実行力が大事。それらを実現する力があるPARTY・comboと組めるというのは、大きなチャンスだったんです。

実は以前から、凸版印刷の技術シーズを用いながら新規事業を作るような取組みができないかという相談を、中村さんや田中さんにしていたんです。しかし色んな事情が重なって、なかなか実行に移せなかった。ただその間も中村さん達とはArtStickerでご一緒したり、我々CVCの投資先にも支援をしていただいていたんです。そんな中PARTYがスタートアップスタジオを作るということで、やっとご一緒できることになりました。

── 凸版印刷としての新規事業を考えているということは、comboが育てたスタートアップが大きくなって独立する際には、凸版印刷が投資をしたり、将来的に投資をすることがあり得るのでしょうか。

坂田:
むしろそれが一番の狙いです。投資したり、共同で事業を作ったり、もちろん将来的にはM&Aの提案をする可能性もあります。ちなみに、スタートアップファーストで考えていますので、凸版印刷が優先交渉権をもつとか競合との取引を制限するとか、動きを縛るような契約は、よっぽどのことがない限りしません。フラットにお付き合いできればと思っていますので、あまり警戒しないで下さい(笑)。

── 凸版印刷からの出資とcomboからの出資には、どのような違いがあるのでしょうか。

内田:
凸版印刷からスタートアップに出資する際は業務提携もするので、投資だけでなく何か業務をご一緒することが前提です。なので「いいスタートアップなんだけど、凸版印刷としての支援は難しい」ということも多々あって、投資できないということもしばしばあるんです。

しかし凸版印刷とcomboの投資基準は異なるので、凸版印刷では投資できないけどcomboではできる、もしくはその逆もあります。現に、昔凸版印刷から投資はできなかったのですが、現在comboとして俎上に載っている案件があります。凸版印刷からみれば投資の方法が2つになったというイメージですね。

起業家に必要な「やり抜く力」

坂田:
またcomboという名前の通り、パートナー企業とコンビネーションを組んで、全体としてスタートアップの課題を解決していくのもcomboの特徴です。どう連携するのが最もスタートアップのバリューアップに繋がるか。解決すべき課題に対してサンアスタリスクやユーザーベース等のパートナーとどういう布陣で臨むのがいいか、案件毎に関わることになるでしょう。

田中:
それで言うと、まだまだパートナー企業も募集しています。業種・機能毎に1社以上いていただけると嬉しいです。

中村:
先程、お膳立てしたから勝てるわけではなくて「経営者のやり抜く力が大事」という話をしましたが、経営者が「これをしたい」と思ったときに、comboが協力して「あ、もう事業できてるじゃん」みたいな状況が理想です。一緒に寄ってたかって面白いスタートアップを見つけ、協力してユニコーン企業をつくるということに興味がある!という企業は、問い合わせフォームからご連絡下さい。

坂田:
パートナーという意味では、VCとも連携したいんです。決して僕たちはVCとトレードオフの関係ではありません。途中から投資してほしいというだけでなく、VCが投資したけどマーケティングやUI/UXが弱いというスタートアップのお手伝いだってしたいですし、シード投資段階でリソースが不安だからcomboが手伝うということもしたい。社会課題に一緒に立ち向かっていきたい。なのでこちらも是非問い合わせフォームからご連絡下さい。

── 最後に、comboが気になっている起業家はどうやってアクセスすればいいですか?

中村:
こちらも応募フォームです。すべてHPの問い合わせフォームからお願いします(笑)。

── 問い合わせがたくさんある中で、一緒に仕事したいと思ってもらえるコツはありますか?

中村:
toCのオンスクリーン等、今のcomboと親和性の高い事業はもちろんあります。ただ繰り返しになりますが、結局一番大事なのは「人」です。スタートアップの大半が失速してしまう中で、壁を乗り越えられるであろう起業家とご一緒することは、comboとしても必須。基本的にはオンラインで一旦お話を伺うことになると思いますので、個々の事業はもちろん、人となりや人間性を教えてほしいです。

── では起業家は、人となり等もわかるように、問い合わせフォームからご連絡下さい(笑)。

中村:
我こそはという事業アイディアがある方、事業アイディアはないんだけど経営者になりたい方、事業アイディアはあるけど「自分が経営者なれるのだろうか」と不安な方は、問い合わせフォームから(笑)、ご連絡ください。お待ちしています!

(アイキャッチ: combo)
(取材・執筆:pilot boat 納富 隼平)