SPAC(特別買収目的会社)とは|注目の理由や概要について

近年、新規上場の手法として話題に上がる「SPAC」(特別買収目的会社)。株式未公開企業の買収を目的として設立される会社で、アメリカではすでに株式上場のためのメジャーな選択肢のひとつです。日本ではまだ解禁されていませんが、近い将来導入される可能性が示唆されています。SPACのシステムやメリット、デメリットなど、ぜひ今から予備知識を蓄えておきましょう。

SPAC(特別買収目的会社)とは

SPAC(スパック)とは「Special Purpose Acquisition Company」の頭文字を取った略語で、日本語では「特別買収目的会社」と訳されます。SPACは新規上場の際に用いられる手法のひとつで、SPAC会社は上場後に投資家から資金調達を行い、未公開のスタートアップを買収することで上場させます。最も大きな特徴は、買収されたスタートアップが従来の上場のステップを省いて上場できることです。SPACの主なポイントをまとめてみました。

  • SPACとは買収を目的として設立された会社である
  • 買収される企業は資金調達と同時に上場ができる
  • 投資家にとっては未公開株と同様のリスクがある

なお、SPACは企業買収のみを目的として設立され、事業を行いません。そのため、「空箱」や「ブランク・チェック(白紙の小切手)・カンパニー」などと呼ばれることがあります。SPACはアメリカでは盛んに行われている方法ですが、日本では2008年に東京証券取引所が導入を検討した例があるものの、まだ解禁されていません。ただし近年世界市場におけるSPACの活用が急速に進んでいることから、近い将来日本でも導入されるのではないかという予測が大勢を占めています。

SPACの仕組み

SPACの流れに沿って、仕組みを解説していきます。事業を行わない組織なので、手順自体は非常にシンプルです。

  1. 株式会社を設立します。設立者が自己資金を投入し、それが唯一の資本となります。
  2. IPOにてSPAC会社が上場し、株の譲渡により投資家から資金調達します。
  3. 買収を行う相手企業(スタートアップ)と交渉して買収・合併を行います。
  4. 合併により相手企業が存続会社として上場します。

様々な条件次第にはなりますが、スタートアップ側がSPACに買収される準備が整っている場合は、IPOよりも短期間での上場が実現する可能性があります。

ここで多くの人が疑問に思うのが「なぜ事業を行わない会社に資金が集まるのか」ということではないでしょうか。SPAC会社を設立する場合、多くは世界的に名のある経営者や投資家など、ネームバリューのある人物が代表に就任します。過去にはアップル・コンピューターの元幹部や、元副大統領などがSPACに参画して話題を呼びました。投資家はこれら代表者に対する信用や、将来必ず買収を行うという意思表示を受け、期待値の大きさに応じた投資を行う仕組みです。

SPACの歴史

SPACの歴史は1980年代、証券取引所非上場かつナスダック非登録の株式が取引される「OTCブリティンボード」で始まりました。しかし当時は不正の温床になりやすい市場であったため、良いイメージは持たれていませんでした。実際に起こっていた不正には以下のようなものがあります。

・投資家から調達した資金を、SPAC設立者が私的に流用する

・自分が出資している会社をSPAC会社が高額で買収する

・買収のうわさを市場に流し、株価を釣り上げた後に売り抜ける

そのため、1990年代に米国証券取引委員会(SEC)が、資金信託や買収期限設定、買収承認プロセスの厳格化、買収が失敗した際の資金返還など、投資家を保護する目的でSPACの規制を厳格化し、現在では厳正なるルールに則った取引が行われるようになりました。

なお、1990年代から2000年代にかけてSPACの活用は下火になりました。その理由はシリコンバレーを中心に起こったITバブルの影響により、IPOが盛んになったためです。ブームが収束した2006年ごろからはまたSPACが盛んに行われるようになりました。

SPAC(特別買収目的会社)のメリット・デメリット

SPACを利用しての上場の場合は、SPAC会社との交渉で上場できるため、手順の簡素化や上場の短期化の可能性があり、スタートアップの企業にとっては魅力的なEXITです。しかし、従来のIPOやM&Aではない手法であるため、メリットやデメリットに様々な違いがあります。例えば、投資家保護規定や買収完了までの期間など、不正を取り締まるための厳しいルールがあり、それらを理解した上で自分の会社に合うかどうかの判断が重要になります。

次の項目では、アメリカでの事例に基づいた、SPACのメリットとデメリットについて掘り下げていきます。将来、日本でSPACが導入された場合も同様のケースが想定されるため、予備知識としてSPACの仕組みと同時に頭に入れておくことをおすすめします。

SPACのメリット

SPACについて、買収される企業側、資金を投じる投資家側、両サイドから代表例をピックアップしました。

■買収される企業側のメリット

  • 買収と同時にまとまった額の資金調達ができる

SPAC会社に買収されることで、まとまった額の資金調達ができるのは、特にスタートアップ企業にとっては大きなメリットです。

  • 上場までのスピードが速い

通常のIPOでは少なくとも2~3年以上の準備期間を想定して計画を立てますが、SPACに買収される準備が整っている場合は、IPOよりも短期間での上場が実現する可能性があります。

  • 上場審査が簡素になる

IPOでは審査の際の条件が厳しく、特に実績の浅いスタートアップには難関でした。SPACでは適切な準備を行うことで、審査が簡素化され、上場への負担が軽減される可能性があります。

■投資家側のメリット

  • 少額の資金で投資に参加できる

通常の未公開株は投資できる条件が厳しく設定されていますが、SPACは上場企業であるため、個人投資家でも小額から投資が可能です。

  • 株式の途中売却が可能

一般的に未公開株は途中売却が難しいですが、SPACは上場企業であるため、株式を途中売却することが可能です。

  • 投資を回収できる可能性が高い

SPACは投資家保護の規定(買収期限や信託など)があるため、投資を回収できる可能性が高く、買収が進まなかった場合は投資資金のほとんどが返還されます。

SPACのデメリット

SPACにはもちろんデメリットもあります。こちらも買収される企業側、資金を投じる投資家側、両サイドから代表例を挙げています。

■買収される企業側のデメリット

  • 準備不足の懸念

SPACのデメリットは投資家側に焦点が当てられがちですが、買収される側にもリスクがあります。本来であればEXITは事業計画や資本政策を入念に練って進めます。しかし、SPACにより一足飛びに上場することで準備不足に陥り、期待値と上場後の評価がシンクロせず、信頼と株価が急落する危険性があります。

■投資家側のデメリット

  • 買収までの期間が決められている

SPACには、「上場から24カ月以内に未公開企業を買収しなければいけない」という規定があり、締め切り日が迫っている場合は、不利な価格交渉に応じざるを得ないこともあります。

  • 買収に失敗する場合がある

好条件で買収ができるかどうかは設立者の能力に左右されるところが大きく、株主総会での承認が必要なため、買収が成功しないリスクもあります。

  • 未公開株式への投資リスク

未公開株式は情報が不十分な場合も多く、100%安全な投資先とは言えません。アメリカで起こった「二コラ問題(※)」のように、上場後に不備が露呈して株価の暴落につながることもあります。

※「二コラ問題とは」

2014年6月に設立し、SPACを用いて短期間で上場したアメリカの電動自動車メーカー「二コラ」は、GMとの資本提携や技術提携により株価が8倍に跳ね上がり、時価総額3兆円でフォードを超えました。しかし虚偽広告の疑いで、上場後わずか3カ月で創業者のトレバー・ミルトン氏が辞任。株価が大暴落して大きなニュースになりました。

SPACを活用したスタートアップの上場

次は、スタートアップに絞り込んだSPACの活用について考えてみましょう。日本ではスタートアップのEXITと言えばベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を行い、事業を成長させてIPOでの上場を目指すのが最もスタンダードです。アメリカでも2000年くらいまでは従来のIPOが主流でしたが、近年はSPACを始め様々なオプションの中からフレキシブルにEXITの方法が選ばれています。

SPACによるスタートアップの上場が盛んになると、上項で述べた様々なメリットを享受できるだけでなく、市場全体の活性化にもつながります。投資家は有望なスタートアップを取り込むために競争が活発になり、起業家もEXITのプレッシャーに押しつぶされることなく、自社に合う方法を選択することができます。

アメリカでは既にIPOに代わってSPACでの上場がメジャーになっており、2020年度は前年度59件から156件へ、資金調達額も136億ドルから583億ドルへと、大幅な増加を続けています。その理由を次項で詳しく解説します。
参考)https://www.spacresearch.com/

SPACが米国で注目されている理由

2020年7〜9月におけるアメリカIPO市場が調達した資金は630億ドル。その約半分はSPACが占めています。これはアメリカ市場にとっても記録的なペースで、現在も増加は続いています。その理由として以下が挙げられます。
参考)SPAC Listing Boom Drives Record $63 Billion January for IPOs

  • 従来のIPOを選択しない企業の増加

今までのIPOは長い準備期間や厳しい審査に加え、莫大な資金というハードルがありました。SPACであればIPOよりも短期間で、上場の負担を軽減したステップで上場の可能性があるため、多くの企業が活用するようになったと考えられます。

  • 著名人の参加による注目度のアップ

2021年春、ヴァージンアトランティックの創業者リチャード・ブランソン氏が、SPACによる衛星打ち上げベンチャーとの合併を発表して話題になりました。実績のある実業家がSPACに参加することで、買収の信頼度や期待値が上昇して多くの資金が集まります。昨今ではスポーツ選手やラッパーなど著名人の参加も目立っています。

  • 新型コロナウイルスによるIPOからの乗り換え

2020年は新型コロナウイルスの影響で、従来のIPOによるEXIT計画を取りやめた企業が多く、投資家が乗り換え案としてSPACの活用を選んだことも理由のひとつと考えられます。

SPACの今後|日本での解禁

日本ではまだSPACは解禁されていませんが、2008年に東京証券取引所で導入が検討されたことがありました。その際は様々な問題がクリアできなかったことから見送りになりましたが、政府はスタートアップ育成を目的として、SPAC導入の検討段階に入りました。今年3月の成長戦略会議において、加藤勝信官房長官が「投資家保護を図りながら、創業間もない未上場企業にリスクマネーを提供する制度整備を検討していく」と述べたほか、内閣官房や東証、金融庁などが参加した「」でも、「起業家の資金調達手段が増えることや、個人投資家にも未公開企業やベンチャー企業に投資する機会が開かれることは好ましい」と論じられています。
参考)内閣官房 成長戦略会議
スタートアップの育成の在り方に関するワーキンググループ(第1回)

今後の課題としては、日本市場でも投資家の保護や不正を排除するルールを策定し、SPACが活用できる世界基準の市場に成長させることが期待されます。2020年にはソフトバンクが米当局にSPACの新規株公開を申請し、合併の行方が注目されています。日本でも、SPACの新しい波が押し寄せる日が近いかもしれません。

まとめ

ITバブル収束後、怒涛の勢いでアメリカ市場を席巻している「SPAC」。日本でも、導入を待っている人は多いようです。EXITの選択肢が増えることで、スタートアップの事業計画にも変化が起こることは必至です。SPACはリスクも含まれる手法なので、アメリカの事例を参考にしながら、今からしっかりと仕組みを理解しておきましょう。

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