事業構想力を高めてM&Aも見据える。TOPPAN CVCがPARTNERS FUNDにLP出資した目的と舞台裏

TOPPAN CVCは2025年、独立系ベンチャーキャピタルであるPARTNERS FUNDが運営するファンドへのLP出資を実行しました。PARTNERS FUNDはシード前後・オールジャンルを投資対象とするシードVCです。

「LP出資はあまりしない」というTOPPAN CVCはなぜPARTNERS FUNDへ投資したのでしょうか。話を聞くと、一般的な目的以上の狙いがあったようです。

PARTNERS FUNDの山田優大さんとTOPPAN CVCの内田多に聞きました。

※以下、会社法人種別(「株式会社」などの表記)を省略します

TOPPAN CVCの内田(左)とPARTNERS FUNDの山田さん

オールジャンルのシードファンド

── まずはPARTNERS FUNDの紹介をお願いします。

山田(PARTNERS FUND):
PARTNERS FUNDは「全身全霊、つくる、勝たせる、結果を出す」を標榜するVCです。投資哲学には、0→1での共同会社立ち上げを意味する「Co-Founder」、起業家に徹底的に寄り添う「Love the Founder」、永続するVC組織を目指す「Evergreen」を掲げています。

2025年にPartners Fund 2号投資事業有限責任組合(前身ファンドを含めて3号ファンドに該当。以下「3号ファンド」)を立ち上げました(プレスリリース)。

私自身はグリーに新卒で入社後、インキュベイトファンドに転職しています。その後2018年にFull Commit Partnersを立ち上げ、2022年に現在のPARTNERS FUNDに改名。好きな領域はモノづくりで、パーソナライズ冷凍食品D2CブランドのGreenspoon(2024年に江崎グリコがM&A)や女性向けファッションブランド「SOÉJU」を展開するモデラート、他にも農産物流通のアグリペディア、産直鮮魚流通DXのウーオなどを担当しています。

山田 優大|YAMADA Yudai
PARTNERS FUND 代表パートナー
グ リーで4年間社長室及び財務戦略部にてオリンピック協賛等のコーポレートブランディング、投資案件のデューデリジェンス、IR、子会社事業管理等に従事。その後、インキュベイトファンドへ参画、アソシエイトとして新規投資先発掘、投資先バリューアップ、人材採用支援等を担当。2018年に独立、Full Commit Partnersを創業。2022年に2号ファンドとなるPartners Fundを設立。国際基督教大学卒。

── 投資方針などを教えてください。

山田(PARTNERS FUND):
PARTNERS FUNDの投資ステージは、前ファンドまではプレシード・シード期でしたが、3号ファンドからポストシード・プレシリーズAも対象としました。基本的にはリード投資を前提としていて、初回投資は3千万〜2億円、必要に応じてその後のラウンドでフォロー投資も実行します。

また我々はIPOだけでなく、M&AやセカンダリーもExit戦略として重視してきました。事業提携のタイミングで株式の一部を売却するなど、戦略的なM&Aを推進しています。

PARTNERS FUNDには5人のパートナーがいて、それぞれ得意分野が異なるんです。それもあって投資分野は定めていません。BtoBにもBtoCにもDeepTechにも幅広く投資しています。

── 山田さん、中村さん、種市さん、藤井さんの4人が代表パートナー(GP)で、イコールパートナー(上下がない対等なパートナー)というのは珍しい形態ですね。

山田(PARTNERS FUND):
私はこれまで、プレシードでの投資をメインに対応してきました。そこに、自身も海外育ちだったり海外に縁がありグローバルを担当する中村雅人、大学発を含め地方発スタートアップを担当する種市亮、過去に幅広いステージを担当しておりシードやプレシリーズAにも対応できる藤井智史が参画してくれました。東京大学で自動運転の研究をして工学修士を取りアカデミアの事業化支援やDeepTech投資を担当する黒田藍子もインキュベーションパートナーとして参加予定です(編注:インタビューは黒田氏が参加する前で、後日参画済)。異なるバックグラウンドをもつメンバーが集まることで、オールジャンルへの投資が可能となりました。

(左から)山田さん、中村さん、種市さん、藤井さん

山田(PARTNERS FUND):
私が元々運営していたFull Commit Partnersは、自分一人のファンドで、だからこそ一人の限界がわかっていたんです。自分をもっとアップデートしたいという気持ちもあり、複数人でファンドを運営するなら、違うタイプの人間と対等に議論をしたいと考えていました。それで今の形態になったんです。

VCはGPがすべてだと思っています。今後もGPを増やして、ダイバーシティに富んで喧々諤々と議論できるような組織にしていきたいですね。

新しい事業を創るための事業構想力

内田(TOPPAN):
そんなPARTNERS FUNDの3号ファンドに、TOPPAN CVCから出資しました。実は我々はLP出資をほとんどしていないんです。

内田 多 | UCHIDA Masaru
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ビジネスイノベーションセンター  戦略投資部
2010年 TOPPANホールディングス(旧凸版印刷)入社。法務本部にて、BookLiveやマピオン等のデジタルコンテンツ領域を中心に法務業務に従事。広告企画・開発部門を経て、2016年より、ベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当。サウンドファン、キメラ、combo、ナッジ、Liberaware、オシロ、Anique、Chai、INDUSTRIAL-X、Ascendersなどを担当。早稲田大学大学院 経営管理研究科修了。早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所招聘研究員。

── にもかかわらず、なぜ3号ファンドにLP出資をしたのでしょうか。

内田(TOPPAN):
PARTNERS FUNDにLP出資した理由は主に4つ、即ち「情報収集」「事業構想とM&A」「人材育成」「世代」です。

まず、一般的なLP出資の目的として挙げられるのは「スタートアップに関する情報収集」や「自社でのソーシングの補完」でしょう。これらはTOPPAN CVCでも考慮はしています。

TOPPAN CVCとしては、4名の投資担当が自らソーシングすることを重視していますが、事業会社・CVCとして、投資先スタートアップの成長戦略に貢献することを考えると、シード期のスタートアップよりもアーリー期のスタートアップへのソーシングが多くなります。一方で、シード期に投資しないわけでもなく、接点は早くいただきたいと考えているので、シード期のスタートアップへの接点も広く持ちたい。そうした背景からシードVCへのLP出資が選択肢になります。魅力的なシードVCが多くいらっしゃる中で、メーカーでもあるTOPPANとしては、モノづくり系のスタートアップもカバーされている等、一定のファンドサイズをお持ちでより幅広い領域をカバーされているVCがLP出資の候補になってきたという背景があります。ただ、PARTNERS FUNDにはこれらの役割ももちろん期待しているものの、主目的というわけではありません。

そもそもTOPPAN CVCとして大きく目指すところは「新事業の創出」です。そのため投資に際してはスタートアップとTOPPANの「事業構想」を描かなければなりません。しかし、これまで必ずしもそれが上手くできていない面もあり、TOPPAN側の事業構想力を強化したいという課題がありました。

一方で、山田さんが前述したように、PARTNERS FUNDは共同創業のような「Co-Founder」という方針を掲げています。例えば、国内外の事例を調べて、変曲点等を抽出して事業案を構想し、そこに合う起業家を探してくる、といった形で正に「共同で」起業している。VCとして、自ら事業構想を描くことを基本形に投資されている。そのノウハウを習得したいという思いが我々にはありました。

内田(TOPPAN):
またこれも山田さんが先述していたように、PARTNERS FUNDはExit戦略としてM&Aも強く意識しています。どうしたらスタートアップが事業会社にM&Aできるのかという点に腐心していて、スタートアップ目線で、資本政策やエクイティストーリーを一緒に構築している。TOPPANとしても投資先が成長してグループインしてくれることは歓迎しているので、その点でも両社の方向性が合いました。

山田(PARTNERS FUND):
確かに近年M&Aの機運が高まっているものの、とはいえスタートアップのM&Aに慣れている事業会社は多くありません。そのためPARTNERS FUNDとしても、事業会社にM&Aのプロセスをインプットしたり、サポートしたりすることは心がけています。

── とすると、PARTNERS FUNDにその投資先との事業構想を描いてもらい、紹介してくれるのがベターなのでしょうか?

内田(TOPPAN):
PARTNERS FUNDとは毎月定例会を開催していて、もちろんTOPPANと相性のいい投資先などを紹介いただくケースもあります。

ただこの定例会では、山田さんたちが「なぜこの起業家とこういう会社を共同創業したのか」「逆に共同創業型ではなく、なぜソーシングして出資に至ったのか」「その際の評価ポイントはなんだったのか」という点や、投資に至らなかったケースでは、個別情報は除いた領域やテーマなどの観点で「投資を見送ったのならなぜ見送ったのか」という、「なぜ」や着眼点の話を中心に聞いているんです(編注:NDAや個社事情に配慮した形で情報は共有されています )。ここからTOPPAN CVCとして事業構想力を高めていくことが、LP出資の目的の一つです。

山田(PARTNERS FUND):
投資委員会資料も共有しつつ、「なぜ良いと思ったか」「逆に課題は何か」といった論点について、考え方の整理・プロセスを共有しています。

内田(TOPPAN):
TOPPAN CVCの目的は、TOPPANの事業ポートフォリオを変えられるような新規事業を創ること。そういう意味では、売上で100億円以上を見据えた事業構想をする必要があります。共同創業スタイルやM&A重視の姿勢は、我々のニーズとの相性がよかった、というわけですね。

LP出資を後進育成に繋げる

内田(TOPPAN):
またTOPPAN CVCも、後進を育てていかなくてはなりません。もちろん私も含め、メンバーが中心となって教育はしているものの、同じ組織の同じ人から同じことを言われ続けたら、どうしても偏りが生じてしまいます。そのため、社外の力を活用したメンバー育成の仕組みが必要だと考えるに至りました。

その点PARTNERS FUNDはバックグラウンドの異なるメンバーが5人いて、我々のメンバーとも近い年代です。元々の関係性もあって距離も近く相談しやすい関係でもありました。そこでLP出資を契機に、メンバー育成の観点でもPARTNERS FUNDの力を借りたいなと考えました。

例えば大島さんは、TOPPANのエンターテインメントやコンテンツビジネスの事業開発部門も兼務していて、CVCではエンタメのスタートアップ市場を担当しています。とはいえ、彼自身は今年から事業構想や投資をメインに担当してもらっています。。そこでPARTNERS FUNDとの定例等で、エンタメ関連の事業アイデアを複数ぶつけて頭の中を整理したり、アイディアをブラッシュアップしてもらったりして、エンタメ関連の事業構想力を急ピッチで習得してもらうようにしました。「こういう切り口もあるのでは」「これとこれを組み合わせるとどうなるか」といったフィードバックをもらっていて、私から見ても力をつけているのがわかります。

TOPPAN CVCの大島さん

内田(TOPPAN):
3号ファンドにLP出資した最後の理由として「世代」もあります。

PARTNERS FUNDのパートナーは30代です。必ずしも年代が重要というわけではないものの、先ほどのメンバー育成にも関連しますし、幅広いスタートアップやイノベーションを生み出すためには異なる世代の異なる感性が必要 と考えています。

このタイミングで30代のGP4名が集って、DeepTechやグローバルも挑戦していく。これまで述べてきたTOPPANの戦略的な狙いに加えて、リスクリターンの面でもワクワク感や頼もしさを感じるのがPARTNERS FUNDだなと感じました。これは蛇足ですが、私自身も30代後半で、PARTNERS FUNDの皆さん世代の挑戦をリスペクトしています。

山田(PARTNERS FUND):
そう言っていただけて嬉しいです。事業構想の段階から新規事業を仕掛けていきたいという企業とは、TOPPANに限らずご一緒していきたいです。

── ちなみに、他のLPはどういった目的で出資しているのでしょうか。

山田(PARTNERS FUND):
3号ファンドにはTOPPAN以外にも、複数の事業会社から出資いただいていますが、これからCVCを組成するにあたっての勉強的な意味合いもあれば、ソーシング目的、社内新規事業プロジェクトとの連携など、目的は各社で異なりますね。

山田(PARTNERS FUND):
いずれにせよ、まずは我々が成果を出さないことには始まりません。次の案件を生み出し続けるためにも、IPOだけでなくM&Aやセカンダリー、出資の区別なく仕掛けていきたいですね。

内田(TOPPAN):
最後にちょっとしたエピソードを紹介させてください。

TOPPANグループには、電子チラシメディア「Shufoo!」の運営などをしているONE COMPATHという会社があります。このONE COMPATHがPARTNERS FUNDの2号ファンドに出資しているんです。

その時点のLPはあくまでONE COMPATHなので、TOPPANは(親会社ではあるものの)無関係。にもかかわらず、TOPPAN CVCのメンバーに「リード投資とはどういうことか」「シードVCはどういった考え方や姿勢で投資して、スタートアップに寄り添うべきなのか」といった内容をテーマにした勉強会を開催してもらったり、個別に悩みを聞いてもらったりしていました。そういった利他の精神で対応してくださったことに感謝していました。こういったことの積み重ねが、引き続きPARTNERS FUNDとご一緒すべきというTOPPAN内の合意形成にも影響しました。

TOPPAN CVCとしてPARTNERS FUNDを応援しています。ゼロから事業を構想し、セカンダリーやM&Aを通じてTOPPANの新事業を創っていきたいです。引き続きよろしくお願いします!

山田(PARTNERS FUND):
こちらこそ、よろしくお願いします!

(取材・執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:ソネカワアキコ)