上場基準の変更が変更される?見直し内容やその理由

2022年4月は、いよいよ東京証券取引所の再編成が行われます。それに先駆け、2020年10月「市場区分の再編に係る第一次制度改正事項」が発表されました。今後の市場に大きな動きが予測されるため、しっかりとした理解と先手の対策が必要です。上場基準の変更点や注意すべきポイントなどをまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

変更される上場基準の内容

2020年7月29日、東京証券取引所(東証)より「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)」が発表され、11月1日から施行となりました。

これは、2022年に予定されている市場区分の再編成に先駆けたファーストステップと言えるもので、今後も既存市場を対象に「第二次改正」「コーポレートガバナンス・コードの改訂」が段階的に実施される予定です。第一次改正内容の目玉としては、新規上場基準等の見直し、債務超過に係る上場廃止基準等の見直しなどが挙げられます。詳しい変更点を、以下の項目で区分ごとに解説します。

●市場第一部の新規上場基準
流通時価総額は一気に10倍と、新規上場は非常に厳しくなります。また、マザーズや第二部からの移行も、条件が厳格化されました。ただし、ベンチャー企業などの赤字上場に関しては、将来性重視の酌量措置が盛り込まれています。

●市場第二部の新規上場基準
ジャスダック(スタンダード)と基準が統合されます。基準は小規模企業にも対応の幅が広がっていますが、コーポレートガバナンスなど細則が追加されました。

●JASDAQ の新規上場基準
スタンダードは東証第二部と基準が統合され、取締役会やコーポレートガバナンスに関する新たな原則が適用されます。グロース市場は新規上場申請が締め切られました。

●東証マザーズの新規上場基準
マザーズから第一部への移行における緩和策が廃止され、今後の基準は本則市場と同様になります。また、「事業計画及び成長可能性に関する事項」などの提出が新しく追加されています。

市場第一部の新規上場基準

2022年の東証再編成の大きな目的が、膨らみすぎた第一部の整理という事もあり、新規上場に関してはかなり厳しくなると覚悟しておきましょう。中でも、第二部やマザーズから一部への変更条件が、時価総額40億円以上→250億円以上と大幅に厳格化されたのは大きな変更点です。

一方、従来は難しかった「赤字上場」に関しては緩和され、「中長期的な企業価値の向上のための投資によって一時的に赤字を計上している場合」には、成長性が重視されることになりました。スタートアップ企業の中にはITやバイオなど成長著しい分野も多いため、その点では期待が持てる改正と言えるでしょう。第一部新規上場に関する主要な見直し項目は、以下のようになります。

■市場第一部の主要改定項目

項目 見直し前(新規上場) 見直し後
株主数 2,200人以上 800人以上
流通株式時価総額 10億円以上 100億円以上
時価総額 250億円以上 250億円以上
純資産の額 10億円以上 50億円以上
収益基盤 次のa又はbに適合すること

a.最近2年間における利益の額の総額が5億円以上

b.最近1年間の売上高が100億円以上 かつ 時価総額が500億円

次のa又はbに適合すること

a.最近2年間における利益の額の総額が25億円以上

b.最近1年間の売上高が100億円以上 かつ 時価総額が1,000億円以上

★注目すべき変更ポイント

  • 流通株式時価総額が10倍の100億円に。純資産も5倍の50億円以上になります。
  • 収益基盤も金額が大幅にアップしました。流動性の高さが重く見られます。

市場第二部の新規上場基準

見直し後、第二部はJASDAQと同じ基準に統合され、これら二区分からは再編成後の「スタンダード市場」に多くの銘柄が移行すると考えられます。この時期の新規上場に関しては、再編成後に上場申請が認可された場合、自動的にスタンダードに組み込まれることになりますので、将来的な事業計画を踏まえて慎重に進める必要があります。

■市場第二部の主要改定項目

項目 見直し前(新規上場) 見直し後
株主数 800人以上 400人以上
流通株式時価総額 10億円以上 10億円以上
流通株式数 4000単位以上 2,000単位以上
時価総額 20億円以上
純資産の額 10億円以上
流通株式比率 30% 25%
利益額 最近2年間における利益の額の総額が5億円以上 最近1年間における利益の額の総額が1億円以上

★注目すべき変更ポイント

  • 新規上場申請書類は、従来の様式を維持します。
  • コーポレートガバナンス・コード全原則が適用されます。

JASDAQ の新規上場基準

市場第二部の項目でも触れましたが、JASDAQ スタンダードの上場基準と共通化されることが最も大きな特徴です。個別の変更条件としては、取締役会の設置や本則市場の審査基準と同様になること、コーポレートガバナンス全原則の実施などが挙げられます。

■JASDAQスタンダードの主要改定項目

項目 見直し前(新規上場) 見直し後
株主数 200人以上 400人以上
流通株式時価総額 5億円以上 10億円以上
流通株式数 2,000単位以上
純資産の額 2億円以上
流通株式比率 25%
利益額 最近1年間における利益の額の総額が1億円以上、または時価総額50億円以上 最近1年間における利益の額の総額が1億円以上
取締役会の設置 上場申請日から起算して、1年以前からの取締役会を設置していること(協同組合組織金融機関である場合には、これに相当する期間) 上場申請日から起算して3年以前からの取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること

★注目すべき変更ポイント

  • 新規上場申請書類は、従来の様式を維持します。
  • コーポレートガバナンス・コード全原則が適用されます。
  • 取締役会の設置に関する条件が厳格化されました。
  • 上場審査基準が本則市場(第一部・第二部)と同様になりました。

※JASDAQ グロースへの新規上場申請の受付は停止されました。

東証マザーズの新規上場基準

従来、マザーズから第一部への昇格に関して緩和されていた要件が廃止されました。そのため、一部上場への足掛かりとして事業計画を練っていた企業は、見直しが必要と考えられます。また、今後は「事業計画及び成長可能性に関する事項」の継続的な開示が必須となります。

■マザーズの主要改定項目

項目 見直し前(新規上場) 見直し後
株主数 200人以上 150人以上
時価総額 10億円以上
流通株式数 2,000単位以上 1,000単位以上
純資産の額 2億円以上

★注目すべき変更ポイント

  • 新規上場時の「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が必要。
  • 従来は上場日であった上記書類の開示が、上場申請時に繰り上げられました。
  • 上場後も1事業年度に対して1回以上、進捗状況の開示が制度化されます。

 

市場区分も見直される

上の項目でも触れたように、東京証券取引所は2022年4月より、現在の5区分から3区分体制へと再編成されます。その移行をスムーズに行うため、2020年度より様々な改正が段階的に実施される予定です。上場申請には長い年月を費やしますので、既にIPOを睨んだ事業計画を立てていた企業も多いと思います。特にスタートアップ企業では既存市場の上場基準厳格化や、再編成後の市場選択などに関して、計画の練り直しを余儀なくされるケースも少なくありません。2022年の再編成に向けてしっかりと検討し、より有利な戦略を構築しましょう。

■新しい3つの市場区分の特長

【プライム】
時価総額で100億円以上を目安とし、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする、高い流動性とガバナンスを備えた企業が対象となります。主に既存の第一部上場企業での構成となり、基準を維持できない企業は区分から落ちるリスクもあります。現在第一部で新しい上場基準を充たしていない場合、再編後一定期間は希望によりプライムを選択できるよう猶予が設けられます。

【スタンダード】
従来の第二部とジャスダック(スタンダード)は機能の重複により問題視されていましたが、再編後は両者の多くが新区分のスタンダードに統合される見込みです。機関投資家の投資対象になりえる、一定の時価総額を維持し、上場企業としての基本的なガバナンス基準を備えることが条件です。

【グロース】
現在のマザーズ、および新規上場申請が廃止されたジャスダック(グロース)銘柄がメインの構成になる見込みです。高い成長性を持つ企業が、事業計画や進捗状況を開示することで、投資家の判断基準や評価とします。スタートアップ企業や今後IPOを目指すベンチャー企業の多くが、この区分に集中すると予測されます。

見直し前 見直し後(仮称)
第一部
第二部
マザーズ
スタンダード(JASDAQ)
グロース(JASDAQ)
プライム市場
スタンダード市場
グロース市場

すでに上場している企業に関しては、2021年6月末までに新しい3つの市場区分のうち、どの上場維持基準に合致しているかを確認し、2021年9月~12月に上場市場を選択します。なお、今回の東証再編成に関しては、膨大かつ混沌となりすぎた第一部の整頓や、第二部よりも第一部に優位性があるイメージを払拭するなど、様々な目的があります。詳しくは次の項目で解説します。

上場基準が見直される理由

今回の上場基準見直しは、2022年市場再編成のための段階的な措置であり、市場の混乱が生じないよう設けられたものです。

東京証券取引所の上場企業数は、第一部2186社、第二部476社、ジャスダック1005社、マザーズ347社(2021年1月6日現在)で、約6割の銘柄が第一部に集中しています。これは「東証一部=優良企業」というイメージが日本では根強いことが理由のひとつで、多くの企業が一部上場を目標にする反面、上場したものの業績が低迷している企業も多く存在します。また、上場基準も比較的緩かったため、流動性の高い企業と低い企業が混在するのが一部の実情です。

新区分による再編成は、その混沌とした第一部を整理し、さらには市場区分を事業規模でランク付けするのではなく、事業の特性で区分けすることで、市場全体の動きを活性化する狙いがあります。スタートアップやIPOを目指すベンチャー企業にとっては、この変換期をいかに躍進のチャンスとするかが社運を左右するでしょう。

 

上場基準が変わることによる変化

上場基準の改正により、多くの企業に影響が出ることが予測されます。既に上場している企業と、これから上場を予定している企業、それぞれに対する影響を挙げてみました。

■すでに上場している企業
今回の新規上場基準の見直しに関しては、既存上場企業には波及しませんが、2021年6月末までに新区分の維持基準に照らし、9月から年末までに新区分を選択する準備を進める必要があります。再編成後は上場基準だけでなく「維持基準」も求められますので、努力できない企業は淘汰されることになります。高い流動性を保つため、この機会に事業内容の見直しが必要になるかもしれません。

■これから上場を予定している企業
マザーズからの第一部移行を計画していた企業においては、緩和策が撤廃されたことで計画を練り直す必要があるでしょう。また、再編までに「第二次改正」「コーポレートガバナンス・コードの改訂」が行われます。これも早急に対策を講じるべき事案です。

今後IPOを予定しているスタートアップやベンチャー企業においては、新基準に合わせた出口戦略を練るだけでなく、将来の活躍の場となる「グロース市場」のリサーチも必須です。

まとめ

新型コロナの影響で、当初より発表が遅れた「市場区分の再編に係る第一次制度改正事項」。市場再編成の時期は2022年4月で決定しているため、今後は速いスピードで第二、第三の改正が進んでいくと思われます。発表から2年以上の猶予をもって行われる再編成ですが、既存企業、新規上場予定の企業にとっては、もうすでに移行が始まっていると考えていいでしょう。

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