企業の投資や資金調達の手段として注目されているCVCですが、成功させるためには自社の強みや弱みを踏まえた投資戦略を練る必要があります。この記事では、CVCについて関心がある人に向けて、CVCの投資戦略で検討するべき5つのポイントを解説します。
投資戦略とは
「投資戦略」とはその言葉のとおり、投資を成功させるための戦略のこと。あらかじめ戦略を立てておくことで、投資が成功する可能性を高めたり、失敗の際には早い段階で撤退の判断をすることができます。
企業における投資の一例として、以下のような種類が挙げられます。
- 新規事業に向けた設備投資など自社の事業活動に対する投資
- 社内システムをより堅牢にするための投資
- 採用活動や社員教育などの人材に対する投資
この記事は1.の新規事業の創出に向けた投資の中でも、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)による投資に主な焦点を当てて解説していきます。
国内のCVCなどを主とした投資動向は年々注目が集まっています。その背景として、国内の事業会社による投資額や投資会社数の増加があります。2023年1月31日にINITIALが発表した「2022年 Japan Startup Finance – 国内スタートアップ資金調達動向決定版 -」によると、2017年の事業法人によるスタートアップ企業への投資額は1,669億円であったのに対し、2022年のそれは2,001億円となりました。また、2017年の投資を実行した事業法人の数は600社であったのに対し、2022年のそれは880社にまでのぼりました。こうした動きを踏まえて、事業会社によるCVCの潮流が来ていると言えるでしょう。
出典:2022年 Japan Startup Finance – 国内スタートアップ資金調達動向決定版 –
CVCはベンチャー企業の資金調達手段としてメジャーになりつつあり、また事業会社の既存事業の拡大や新規事業創出といった課題にも有効です。この記事では、CVCの投資戦略におけるポイントを解説していきます。
投資戦略で議論すべきポイント
CVCの投資戦略を立案する際、主に以下の5点をあらかじめ決めておく必要があります。
- 投資領域
- 投資ステージ
- チケットサイズ
- 投資する地域
- 事業提携・協業・将来的なM&Aの検討
いずれも、自社の成長計画や予算と切り離すことができません。CVCの投資戦略の検討を怠ると、目的とするリターンを得られない懸念や投資の失敗にもつながる可能性があります。
投資領域
自社の事業に既に関わりのある分野に投資をするのか、これまでに経験のない分野に新規参入するために投資をするのかなどを検討します。
投資領域の決定は、一般的には以下の流れで進めます。
- 自社がおかれている外部環境の分析
- 経営戦略と事業計画の立案
- 現在の自社の経営資源、強み・弱みの分析
- 投資領域の検討と決定
自社の経営資源や強みを活かしながら事業を広げていくに当たり、主に弱みをカバーしてくれる領域や強みを強化できる領域との協業を検討すると良いでしょう。
投資領域の設定には、以下のようなメリットがあります。
- 社内:ベンチャー投資の狙いやビジョンを共有しやすい
- 社外:設定した領域のベンチャー企業から関心を持ってもらいやすい
投資先が明確になることで、自社はまとまって動きやすくなり、社外にも理解しやすい形になるためベンチャー企業からも関心を得やすくなります。
投資領域は既存の事業ドメインから離れた領域を対象とすることも少なくありません。例えば凸版印刷は、創業当初のペーパーメディアに依存することなく、新たな領域に挑戦することで新しいコアビジネスの創出に挑戦しています。
投資ステージ
ベンチャー企業は成長段階に応じて必要な施策や投資が異なります。ベンチャー企業の投資ステージは一般的に「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」の4つに分類されます。それぞれの特徴について見ていきましょう。
投資ステージ | 主な特徴 |
シード | サービスを開始する前の起業の準備段階。市場調査や人材確保を行うステージで、実際の製品ができるのはこれから。 |
アーリー | サービス開始直後のステージ。設備投資や販売促進に多額の資金が必要となる。 |
ミドル | 事業が拡大・急成長するステージ。サービスや製品が出来上がり、売上や利益も十分に生じるようになり、企業の信用度も高まる。 |
レイター | 事業が安定し、上場やM&Aを検討する時期。事業拡大や新規事業の立ち上げのため、より多くの資金が必要になる。 |
戦略的リターンを獲得するためには、どのステージのベンチャー企業に投資をするかを検討する必要があります。また、ステージによって必要とされる投資額も異なります。
シード
一般的に投資額は小さいものの、本格的な事業構築前の段階が多く、大きな方針転換があり得るため、このステージでの投資はハイリスク・ハイリターンです。創業者の自己資本や政府系金融機関からの融資がベンチャー企業の資金源として重宝されていることも少なくありません。
アーリー
サービスを開始し本格的に成長する段階のため、CVCによる出資を検討する場合、事業会社は資金と事業リソースを提供し、ベンチャー企業の事業の成長サポートを期待される場合が多いと考えられます。
ミドル
一般的に、製品が市場から受け入れられ、企業の方針が固まってくる段階。急な方針転換が起こりにくく、今後の事業計画や見通しを立てやすいため、事業会社にとって事業連携や提携がしやすい段階と言えます。
レイター
事業拡大のフェーズでベンチャー企業の強み・弱み、市場でのポジションが明確になる段階です。事業会社とどのように強みを高め合い、弱みを補い合うかのビジョンが立てやすく、事業連携がしやすい段階です。一般的には、チケットサイズは大きくなる傾向があります。また、ベンチャー企業側がIPO準備前でリソース確保がままならない場合は、事業会社からサポートをして連携を進めることも考えられます。
一般的に、ベンチャー企業は事業のスピードが速く、ステージによって必要になる資金やサポートの内容が異なります。企業文化の違いからコミュニケーションに齟齬が生じることもあります。CVCを立ち上げる場合、事業会社側もベンチャー企業の実情を理解したうえで、投資戦略を組み立てましょう。
チケットサイズ
チケットサイズとは、ベンチャー企業への1回の投資における投資額のことです。投資ステージで上述したように、ベンチャー企業のステージによって適切なチケットサイズは異なります。事業会社はどのステージに投資するかによって、上限や平均的なチケットサイズを探らなければなりません。
チケットサイズが小さすぎると、ベンチャー企業の事業の成長をサポートできるだけの資金を提供することができない場合があります。また、小規模な投資を受け入れてくれるベンチャー企業の数が少なかったり、1回の投資が不十分で繰り返し資金調達をしなければならなかったりする可能性があります。
反対にチケットサイズが大きすぎると、事業会社がベンチャー企業の経営に対して影響を持ちすぎるといった問題が生じます。事業会社がCVCに割ける予算にも限りがあるため、出資が難しくなるケースもあります。
投資する地域
投資先は国内のみとは限りません。海外(主に欧州・北米・アジア圏)も含め、CVCの投資戦略を考えることができます。国内・海外の企業と協業する場合の主なメリット・デメリットを下表にまとめました。
投資する地域 | メリット | デメリット |
国内 | ・資金のみならず既に展開するブランド力や事業アセットを活用できる | ・企業の数が相対的に少なく、協業の対象が限られたり、獲得できる技術やノウハウが国内企業が保有しているものに限られたりする |
海外 | ・企業の数が多く、協業の対象が広がるため、国内企業が有していない技術やノウハウを獲得できる | ・言語や文化の相違から契約時などにコミュニケーションの壁が生じる場合がある
・現地の法規制に対応する体制を社内で整える必要がある |
海外の企業と協業する場合、言語や文化、法規制の違いを乗り越える必要があります。より多くのベンチャー企業と出会える可能性がある一方、上記のようなデメリットもあるため、自社の事業方針やリソースと相談のうえで決定すると良いでしょう。
事業提携・協業・将来的なM&Aの検討
CVCにおける投資戦略の中で、特に議論すべきポイントは、事業提携・協業・将来的なM&Aの検討の部分になってくるでしょう。
事業会社とベンチャー企業の連携によって目指す、事業会社側の戦略的リターンには主に以下の2種類があります。
- 既存の事業の拡大(事業シナジー)
- 新規事業の創出
事業シナジーとは、事業会社とベンチャー企業が弱みをカバーし合いながら強みを発揮できるようになり、既存事業が拡大する効果のことです。主な効果としては、コスト削減や売上の拡大、スケールメリット、ヒト・モノなどのナレッジの共有による付加価値向上などが挙げられます。
新規事業の創出はその名のとおりで、ベンチャー企業から技術やノウハウの手助けを得て、事業会社が新規の市場を開拓していくことです。
弊社のCVCの取り組みについてはこちらの記事をご参照ください。
まとめ
CVCの投資戦略においては以下の5点を議論しながら、戦略を練っていくと良いでしょう。
- 投資領域
- 投資ステージ
- チケットサイズ
- 投資する地域
- 事業提携・協業・将来的なM&Aの検討
事業会社とベンチャー企業の双方にメリットのある連携をするため、十分な議論をする必要があります。
凸版印刷は、競争力の向上を目標とし、自社の事業活動の多角化に取り組んでいます。ベンチャー企業の方のみならず、この記事を最後まで読んでくださった方、CVC・VCの設立を検討されている方など、TOPPAN CVCに興味を持たれましたら、以下からお問い合わせください。