2024年4月25日、TOPPANホールディングス株式会社は、資本業務提携先であり、スモールビジネスを対象としたLINEで完結するオンラインショップのECプラットフォーム「BuyChat」を提供するスタートアップである、株式会社Chai(以下「Chai」)と共同で「コミュニケーションの新潮流〜スモールビジネスで世界を彩る〜」と題したセミナーを開催しました。登壇したのはChaiの西澤理花代表と、デジタルプリントを使った小ロット製造が可能なパッケージ通販サイト「EASY ORDER PACK」を牽引するTOPPAN株式会社執行役員 九州事業部長 吉田幸司と、同課長の南浩紀です。
セミナーでは両サービスの紹介に加え、近年の消費者の変化がスモールビジネスに及ぼす影響から、一貫した体験を提供することの重要性とその方法などを語り合いました。
(左から)TOPPAN(株) 南 浩紀、Chai 西澤 理花氏、TOPPAN(株) 吉田 幸司
LINEで完結するオンラインショップ「BuyChat」
2社の対談の様子を紹介する前に、両社の事業を確認しましょう。
Chaiが提供する「BuyChat」は、LINEで完結するオンラインショップのECプラットフォーム。「商品をオンラインで売る」という機能を備えていることはもちろん、顧客エンゲージメントの向上やおもてなしにフォーカスを置いています。購買体験を通じてスモールビジネスならではの良さを顧客に提供することで、売上向上にも寄与。初期費用無料の手数料モデルのため、気軽に始められるのも特徴です。
一昔前まで、商品に求められるのは「商品力」でした。しかしリーズナブルで高品質の商品が溢れる現代において、商品そのものの価値だけで戦うことは難しくなっています。そのため近年では、付加価値としての優れた購買体験が重視されるようになってきました。特にスモールビジネスにおいては、顧客一人ひとりとのコミュニケーションやニーズへの対応が他社との差別化に繋がっています。
大事なのは、お客様にファンになってもらうこと。そのためには適切なタイミングでの情報提供や、個別化されたオススメ商品の紹介、問い合わせへの迅速・的確な対応などが必要です。高度なITスキルは一切不要で、誰でも簡単にそれらを実現できる。それがBuyChatです。(西澤氏) |
BuyChatには大きく3つの特徴があります。1つ目に、決済や顧客対応といった購買体験すべてがLINEで完結する点。お問い合わせはメール、決済は外部ページ……といった煩わしさはショップにも顧客にも発生しません。2つ目に、継続的なコミュニケーションによって長期的な信頼関係が構築できる点。過去に何を買ったか、どんな会話をしたかなど、顧客の情報はすべて一元的にBuyChatで確認できるため、ショップはその情報を参考に顧客対応ができます。最後に、販促やコミュニケーションを効果的に実現できる点。性別や年齢、過去の購入情報などに基づいたグループ化を行い、メッセージ配信が可能なため、女性に男性用の服をオススメするといった事態は生じません。
西澤氏によれば、BuyChatは、飲食や農家、ハンドメイドなど、幅広いショップで使われています。「商品への熱意が高い」「自分たちの思いをしっかりと伝えたい」「パーソナライゼーションのニーズが強い」「お客さまとの関係構築を大切にしたい」といったショップとは、特に親和性が高いそうです。
京都・宇治の100年以上の歴史をもつ老舗の茶屋も、オンラインに商圏を拡大するためにBuyChatを導入しています。顧客から「こういったお茶はありますか?」「こういったお茶が好きなんですけれど、オススメはありますか?」といった質問にBuyChatを使って個別に回答しているそうです。また個別のチャットやセグメント配信、シナリオ配信を活用し、オーダーメードな販売体験も提供。商品が届いたら「このお茶のおいしい飲み方」といった情報を配信することで、購入後の体験提供にも抜かりがないそうです。
食品にも使える小ロット対応可能なデジタルプリントサービス「EASY ORDER PACK」
TOPPANが開発するEASY ORDER PACKは、デジタルプリントを活用したパッケージ通販サイトです。オリジナルパッケージを小ロットで必要な時に必要な分だけ高品質に製造できます。ウェブで入稿・注文ができるため、24時間いつでも好きなタイミングで注文が可能。ハンコを使わずに直接プリントできるデジタルプリントが、低価格での小ロット印刷や可変印刷を実現しています。
EASY ORDER PACKの特徴は4つ。1つ目に、最小1,000枚の小ロット印刷が可能な点。2つ目に、TOPPAN独自処方の強密着接着剤によって、レトルト殺菌ができる点。これによりベビーフードやカレー、スープといった食品のパッケージでも利用ができます。3つ目に、版代不要でオリジナルデザインの印刷が可能な点。シール貼りと比較して作業効率が向上するため人件費を削減でき、人的ミスも防止することでトータルでのコスト削減に繋がります。最後に、短納期である点。通常、パッケージの制作には2〜3カ月が必要ですが、EASY ORDER PACKは約1カ月での納品が可能にしました。
EASY ORDER PACKは、本セミナーのテーマであるスモールビジネスでも利用が進んでいます。例えば赤ちゃんの成長に合わせた商品を多数開発しているベビーフードブランド「the kindest」を提供するスタートアップ、株式会社MiLはEASY ORDER PACKで多品種小ロットプリントを実現し、印刷関連のコストを半分にしました。他にも、商品のこだわりやブランドの魅力を伝えるパッケージにするため、EASY ORDER PACKを採用したスモールビジネスも少なくないそうです。
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各サービスの紹介も終わったところで、ここからはChaiとTOPPANの対談の様子を紹介していきます。
コミュニケーション設計や商品ブランディングが必要になった社会背景
── ChaiとTOPPANは2023年に資本業務提携契約を締結しています。どのような経緯で提携に至ったのでしょうか。
西澤(Chai):
購買体験に重きを置いたECプラットフォーム「BuyChat」と、TOPPANのパッケージングの技術やノウハウ、リソースを掛け合わせることで、新しい顧客体験価値を提供できると考えたからです。
西澤 理花 | NISHIZAWA Rika 株式会社Chai 代表取締役CEO 1996年生まれ。UC Berkeley学士号とColumbia University修士号を取得。2018年に卒業後、帰国し株式会社Chaiを創業。ドッグフードのD2C事業を立ち上げグロースさせる中で、顧客接点における課題を現行のECツールに見出し、独自のECプラットフォーム「BuyChat」を開発。「ECを軸にスモールビジネスをエンパワーする」をミッションに掲げるとともに、日本の地域の魅力を発信するために国内のみではなくグローバル展開も視野に入れて活動中。 |
吉田(TOPPAN㈱):
TOPPANでは、近年多様化しているパッケージのニーズに対応するために、小ロット多品種生産ができる軟包装のデジタルプリントサービスを2016年から提供しています。また2021年にはEASY ORDER PACKをリリースしました。スモールビジネスという意味でChaiとは親和性が高く、資本業務提携に至っています。
BuyChatが作る一気通貫の購買体験。スモールビジネス×ECで実現する、温かみのある接客 | Chai × TOPPAN 協業への扉 |
── 両社の強みを活かしてスモールビジネス向けにソリューションを提供していくということですね。両社が感じる、近年のスモールビジネスを取り巻く環境変化について教えてください。
西澤(Chai):
デジタルツールの普及によって、スモールビジネスによるEC参入の難易度はかなり下がりました。また近年は消費者ニーズが多様化し、ニッチな市場やニーズに合わせたサービス開発が必要になってきています。リソースが限られるスモールビジネスではこうしたニッチを攻略することが成功の近道となっていると言っていいでしょう。
また現代はモノ消費からコト消費・ヒト消費へと移っていることも、市場の変化だと言えます。つまり、昔は品質が高ければ商品が売れていましたが、現代はブランドのストーリーや、ショップオーナーさまの商品への思いが重要視される時代になってきているのです。スモールビジネスを成功させるにあたっても、商品そのものにフォーカスを置くだけではなく、コミュニケーション設計や商品ブランディングが大切になってきていると感じています。
吉田(TOPPAN㈱):
西澤さんから「コミュニケーション」という指摘がありました。パッケージを通したコミュニケーション戦略を考える上でも、商品を通して得られる感情や共感が重要になってきているのは間違いありません。
TOPPAN株式会社 執行役員 九州事業部長 吉田幸司
スモールビジネスの体験価値を上げるのに大事な「一貫性」
西澤(Chai):
Chaiでもサービスを提供していく上で「共感」は大事なキーワードとなっています。パッケージにおいて共感を生み出すヒントはありますか?
南 (TOPPAN㈱):
商品、商品パッケージ、ネーミングなどすべてにおいて、提供価値を一貫させることが重要です。例えば、オンラインで商品を購入して手に届き開封した際に、ブランドアイデンティティが損なわれないようにする必要があります。
TOPPAN株式会社 九州事業部第二営業本部第一部 課長 南 浩紀
── なぜ一貫性が大切なのでしょうか?
南 (TOPPAN㈱):
お客さまが認識していた商品の魅力と、クリエイティブデザインやキャッチコピー、パッケージの間にミスマッチがあるということは「企業側がお客さまに伝えたいことを伝えられていない」ということを意味します。商品設計から商品ブランディング、パッケージに至るまで細部にこだわり一貫性をもたせることこそが、企業が設計した価値をちゃんとお客さまに伝えることに繋がるんです。
西澤(Chai):
確かに、ショップオーナーさまとお話ししていると、商品へのこだわりが溢れている方は少なくありません。しかし今の時代は商品だけではなく、商品を通してお客さまにどう感じてもらいたいのか、どういう体験をしてほしいのかを考えることも同じくらい重要です。誰から買うのか、どういう思想の人から買うのかといった透明性も、企業に対する信頼に繋がっていくでしょう。
みんなが知っている大きなブランドであれば、口コミや認知力が一定の信頼性を担保するかもしれませんが、スモールビジネスにおいてそれは望めません。そのため、信頼を構築するための一貫性あるブランディングやコミュニケーション設計は、特に大事になってきます。スモールビジネスにおいては、パッケージを含めそういった設計への細やかな配慮で体験の価値を高めていってほしいですね。
─ スモールビジネスがオンラインで「体験の価値を高める」ためには、具体的にはどうすればいいのでしょうか。
西澤(Chai):
オフラインだと、例えば何回も来店しているお客さまの名前を覚えたり、接客を通してコミュニケーションを取ったりすることで、お客さまの体験価値は上がりますよね。しかしオンラインで問い合わせがあっても、管理画面上では1人という数値にしか見えないからか、丁寧な対応ができていないというケースは珍しくありません。「いい体験」をしてもらうためには、オンラインでも、何をオススメしたら喜んでもらえるか、自分が相手の立場だったらどういう商品を提供してほしいのかを考え、ちゃんと行動する必要があります。
── そういった「いい体験」を提供するためにもBuyChatは有効ということですね。ちなみにBuyChatは規模が大きい事業者でも活用できるのではないでしょうか。
西澤(Chai):
はい。BuyChatのメインターゲットはスモールビジネスですが、規模が大きいショップでの利用も進んでいます。面白いところでは、シークレットショップとしてBuyChatを使っている例があります。大きく成長したECサイトは既にあるのですが、顧客ロイヤリティが高いファンの方向けの小規模なショップを新しく開設したいと考え、BuyChatに興味をもっていただいたようです。
── コミュニケーション設計において今後予想されることや、未来に向けて意識しておくべきことを教えてください。
吉田(TOPPAN㈱):
繰り返しになりますが、現代は情緒的価値が重要視される時代です。商品によっては、社会課題を解決していることの訴求が有効なケースもあるでしょう。
TOPPANにも影響のある事例として、ある医薬品企業の包装に関する事例が挙げられます。薬の包装もパッケージですよね。同社は環境負荷低減を目的として、包装に使われるインキを減らすことを公表しています。彼ら自身が包装を作っているわけではありませんが、サプライチェーン全体で環境負荷を減らすためにこの施策を実施したそうです。薬の効果という直接的な価値だけではなく、パッケージを通して社会課題に取り組んでいるという間接的な価値の訴求を通して消費者とコミュニケーションをとっていることがわかる、いい事例だと感じています。
西澤(Chai):
今後はオンラインにおける「パーソナライズ」が重要度を増すでしょう。とはいえ、すべてのパーソナライズに手動で対応するのは現実的ではありません。過去のデータを活用し、適切なコミュニケーションを図ることが必要でしょう。
また同じく「透明性」も重要になっていくと感じています。あるアメリカのD2Cブランドでは、生地にどんな原料を使っていて、どのくらいのコストがかかっているかといったことを開示したら売上が上がったそうです。こんな事例が増えてくると予想しています。
海外販売や生成AIによるデザインも? 両社の協業の今後
── ChaiとTOPPANの協業は、今後どのように進化し、スモールビジネスに貢献できるでしょうか。
西澤(Chai):
現時点でChaiはECプラットフォームサービスのみを提供していますが、TOPPANと提携することで、その周辺領域にもサービスを拡張できるのではないかと考えています。例えばChaiでパッケージデザインを代行して、TOPPANに印刷してもらうなど、よりスモールビジネスに寄り添って気軽に独自のパッケージを作れる環境を整えていきたいです。またパッケージだけに留まらず、テストマーケティングができる体制を構築できたら嬉しいですね。
南 (TOPPAN㈱):
ちなみに、パッケージ印刷においてはデザインをTOPPAN側で担っているケースもあるのですが、EASY ORDER PACKは現時点ではパッケージの印刷のみに対応しています。ただ今後は生成AIなどを使って、商品パッケージの構造設計や素材、材質、デザインなどに対応できないか検討しているところです。
吉田(TOPPAN㈱):
ChaiとTOPPANの協業の今後に話を戻すと、西澤さんが言われたように、TOPPANとしてもパッケージ面ではより深い連携をしていきたいと思っています。また海外展開に際してはTOPPANのネットワークを使うことで、日本で受注して印刷は海外でするといったこともできるかもしれませんね。
── BuyChatはLINEを前提としていますが、今後海外進出を考えた際には他のメッセージアプリにも対応するのでしょうか。
西澤(Chai):
はい、そのつもりです。日本においてはインフラとなっているLINEで事業を展開していますが、海外ではWhatsAppやWeChatなど、国・地域ごとにインフラとなっているメッセージングアプリが異なります。今後海外に商品を販売したいというショップが増えれば、海外への対応もできるようにしていきたいですね。
── お三方、本日はありがとうございました。最後にスモールビジネス事業者の方々にメッセージをお願いします。
吉田(TOPPAN㈱):
EASY ORDER PACKは本日紹介した以外にも、様々な使い方がされています。色んなニーズに応えられると思いますので、皆さんが考えているアイディアを、ぜひご相談ください。
西澤(Chai):
今回のセミナーで、スモールビジネスにおけるコミュニケーション設計の重要さと、スモールビジネスこそが世界に大きな変化をもたらせるということが伝わっていれば嬉しいです。TOPPANさまとの協業を通して、サポートできる事業の幅をより広げていきたいと思っています。EC販売で悩んでいる方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。本日はありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:加藤寛之)