M&AによるEXIT -メリット・デメリットや国内外の状況について-

ベンチャー企業のEXITは、株式公開によるIPOと、合併・買収によるM&Aに大別されます。これまで日本では、IPOを目指す起業家が大半でしたが、昨今はM&Aを選択肢に入れる企業が増加しています。この記事ではM&Aの現況や日米での比較、実行においての注意点、今後の流れなどを掘り下げていきます。

EXITの方法

EXITは日本語で「出口戦略」とも言われ、株の保有者がベンチャー企業や企業再生などに投資した資金を回収することを意味します。EXITには大きく分けて株式を新規上場させて利益を得る「IPO」と、合併・買収によって事業を売却する「M&A」があります。必要とされる期間やコスト、EXITまでのステップなど、両者の違いや注意点を以下の項目で解説します。

● M&A
「Merger & Acquisition」の頭文字を取ったもので、「合併および買収」という意味があります。短期間での実行が可能で、アメリカではベンチャー企業の約80%がM&AでのEXITを選択しています。

● IPO
「Initial Public Offering」の頭文字を取ったもので、「新規株式公開」や「新規上場」とも言われます。日本では主流の方法で、企業のステータス工場や投資家からの高評価にもつながります。

なお、この他にも株式公開を行わず事業を長期存続させるベンチャー企業もありますが、数としては非常に少数となります。

参考)ベンチャー企業のEXITとは|IPOとM&Aの2つの方法

M&Aとは

M&Aは「合併と買収」を意味し、企業が他の企業を取得することを言います。ベンチャー企業においてはEXITを実行する手段として用いられ、他社に吸収統合される形での合併や、株式の譲渡、新株引受、第三者割当増資、株式交換などによって事業を譲渡します。大企業が有望なベンチャー企業の事業を買収(バイアウト)したり、株式の過半数を得て経営を支配するなど、様々な方法と目的があるのがM&Aの特徴です。

ひと昔前の日本では、ネガティブなイメージを持たれることもありましたが、近年ではM&Aに対する考え方が変化し、新たな事業展開や経営資源の獲得などに利用する企業が増えてきました。アメリカではM&Aで事業の売却をしては新たに起業し、資金と事業規模を拡大させていく「シリアル・アントレプレナー(連続起業家)」というM&A活用法も話題になっています。

IPOとは

「IPO(Initial Public Offering)」を直訳すると「最初に公開される売り物」という意味になります。その名の通り、それまで未上場であった企業が、新規に証券取引所に株式を公開し、広く一般の投資家から資金を調達することを言います。

IPOを実行すると、上場前は創業者や関係者のみで保有していた株式が投資家たちの目に留まり、知名度や信用が上がることで、優秀な人材の確保が有利に行えるようになります。また、日本では上場企業であることが一種のステータスと考えられるため、ベンチャー企業を創業する人たちの多くが、IPOを成功への通過点として目標に掲げています。

ただし、IPOは長い準備期間と莫大な費用、様々な制約や責任が発生します。また、投資家保護のため定期的な企業情報の開示(ディスクロージャー)が必要となるなど、社内体制の整備も必須となります。

参考)IPOってどうするの?株式上場までの流れと事前準備

M&AによるEXITとは

ベンチャー企業のM&AによるEXITには、一対一で交渉を進める「相対方式」と、オークションによる「入札方式」があります。一般的なのは相対方式ですが、優れたビジネスモデルの企業であれば、オークションで高値がつくこともあります。なお、その際に採用される手法には、買収・合併ともに様々なものがあります。代表的な手法を以下にリストアップしました。

[買収]

● 株式譲渡
個人や法人が保有する株式を譲渡し、株主を法人化することで子会社とし、そのまま事業を継続します。

● TOB(テイク・オーバー・ビット)
「公開買付」とも呼ばれ、金融商品取引所を通さず不特定の株主に公示されます。日本のTOBは海外で一般的な敵対的M&Aと異なり、双方合意の友好的M&Aが実行されます。

● MBO(マネジメント・バイアウト)
経営陣や社員が自社株を購入し、経営者として独立する手法です。経営体制の見直しなどに活用されます。

● その他
新株引受、株式交換・株式移転、事業譲渡など。

[合併]

● 吸収合併
買収先の会社に吸収され、合併後も元の会社の事業が存続します。

● 新設合併
新設した会社に事業を統合し、買収元の会社はなくなります。

● 会社分割
会社を複数の法人格に分割し、それぞれが組織、事業、資産を受け継ぎます。

メリット

M&Aは実績の浅いベンチャー企業にとって、魅力的なメリットが多くあります。M&Aにおけるメリットの代表的なものを挙げてみました。

● シナジー効果
相手先企業の経営ノウハウや販売網、設備を共有できる「シナジー効果」はM&Aの大きなメリットです。大企業の傘下に入った場合、金融機関からの信用が高まり、資金調達力も強化されます。

● コストが抑えられる
IPOは上場までに数千万円の資金と3年~5年の準備期間が必要ですが、M&Aでは不要です。ただし買収相手からの評価を高めるためには、事業内容や社内体制の整備は必要です。

● 株式を即現金化できる
IPOでは株価暴落を防ぐため、上場後一定期間の株式売却が禁じられていますが、M&Aは双方の合意があれば、売買の成立と同時に株式が現金化されます。

● 売却条件がなくスピーディー
M&Aでは当事者同士が納得すれば、資本金や利益額などの条件を満たす必要がなく、早い場合は1回の面談でスピーディーに契約が結ばれることも珍しくありません。

デメリット

M&Aは組織の形態が変わるため、予想外のトラブルが発生することがあります。事前に入念な対策を練っておくことが肝心です。

● 経営権の消失
M&Aを行うと、買収された側は譲渡した株式に応じて経営権を失います。M&Aでは買収先企業が株式の過半数を取得するケースが多いため、自ら育てた事業への関与が制限されることも覚悟してきましょう。

● 取引先への影響
経営者や幹部が変わり、経営方針が変更された場合、既存の取引先に不都合が発生する可能性があります。取引条件や担当者の変更などは、予め対策を講じておく必要があります。

● PMI(Post Merger Integration)が必要
PMIとは、M&A後の統合プロセスを意味します。社員間の摩擦、業務上のミス、優秀な社員の離職、顧客離れなど、M&A後に起こりやすい業務混乱を未然に防ぐには、しっかりとPMIを講じておく必要があります。

● 予想より収益が少ない
M&AはEXIT後の収益予測が難しく、想定していた額と実際の額が剥離することがよくあります。また、株を譲渡しているため、株価上昇にともなうキャピタルゲインも期待できません。

M&AによるEXITを成功させる方法

成功するM&Aに必要なものは「売れる会社」です。買収側の企業に「投資額を回収できる」と思わせるためには、以下のような条件をそろえ、入念な準備をしておくことが重要です。

● 自社の評価を正確に把握する
条件にマッチする買収先を見つけるためには、自社の評価を正確に見極めることが最初の一歩です。過少・過大評価になならいよう、外部の意見を聞くことも大切です。

● 安定した利益と将来性
安定した収益をあげてきた実績や、将来的に事業を拡大できる明確な理由があれば、買収先は投資金額の回収予測を立てやすくなるため、有利に交渉を進められます。

● シナジー効果・独自ノウハウ
買収先にとっても、相乗効果が期待できるシナジー効果は魅力的です。特に自社の事業を発展させる技術や独自のアイデア、知的財産権、優秀な人材や優良な取引先などは大きな交渉材料になります。

● 人気のある業種
どんな業種でもM&Aは可能ですが、近年特にニーズの高い業種にこのようなものがあります。
調剤薬局・ドラッグストア/介護・福祉・病院/インターネット関連サービス/人材派遣/ビルメンテナンスなど

日本とアメリカのEXITの状況

アメリカの市場は世界最大規模であり、2019年に公表された雇用統計や景況指数では、史上最長の景気拡大期にあるとされています。日本の市場もアメリカ経済から大きな影響を受け、追随を目指していますが、ベンチャー企業に関しては数に大きな差があり、EXITの流れも異なります。

特に明確に違うのが、IPOとM&Aの比率です。アメリカでは約80%がM&AでのEXITを行うのに対し、日本ではIPOが主流です。しかし近年では、日本でもM&AでのEXITが急速に増加しており、この傾向は将来的に継続すると見られています。次の項では、アメリカと日本のM&Aについて、特徴や今後の流れを見ていきます。

アメリカではM&AによるEXITが主流

2014年から2019年まで6年連続で、アメリカのM&A取引額は1兆ドルを超えており、今後も活発化が進むと予測されています。ベンチャー企業のEXITに関しても約8割がM&Aを選択し、アメリカではスタンダードとなっています。その理由はアメリカ市場の歴史の中で、1970年代に急増したコングロマリット(複合巨大企業)に端を発します。巨大な企業は「規模が大きいほどよい」とされるアメリカの価値観に適したものではありましたが、混沌として無駄に企業が肥大する負の側面もありました。そこで1980年代に入り効率化が見直され、採算が取れない事業をM&Aで整理する動きが活発になりました。これがアメリカでM&Aが盛んになった経緯であり、合理性と効率性を重視する国民性も手伝って、現在の伸びにつながっています。

日本ではIPOが多い

経済産業省のデータによれば、2017年の日本におけるM&AとIPOの件数は、47対86件で圧倒的にIPOが主流と言えます。その理由をリストアップしました。

● ステータスの獲得
日本では上場していることがステータスであり、社会からの信用につながるため、上場を目標に掲げるベンチャー企業経営者が少なくありません。上場には厳しい基準をクリアする必要があり、新規取引先の獲得や優秀な人材の確保にも好影響があります。

● 資金調達のしやすさ
投資家は創業後何年で上場したかを、判断基準とする傾向があります。また、上場後は一般投資家に株式を譲渡することで資金を調達でき、金融機関からの融資もスムーズになります。

● 創業者利益の確保
上場後に創業者が保有する株式を売ることで、まとまった収益(キャピタルゲイン)が確保できます。ただし売却する持株の比率が大きいと、議決権の消失や評価の下落につながるので注意が必要です。

このように、IPOが根強い日本の市場ですが、年々M&Aの比率が大きくなっています。M&Aが増えている理由を次項で分析します。

IPOではなくM&Aが増えている理由

2020年、日本のM&Aは4,289件で、金額は前年から5.3%増加の24.4兆円。そのうち1,000億円以上の案件が25件で総額17兆円、前年から7.4%増加しています。そのうちベンチャーキャピタルから投資を受けた企業に限れば、IPOが89件に対しM&Aは42件(経済産業省『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書』)。まだまだ日本ではIPOが根強い人気ですが、近年ではM&Aの件数や金額が伸びてきています。

最も大きな理由は社会環境の変化で、経営者が高齢化して後継者がいない場合に実行される、事業継承型のM&Aがその代表例です。また、少子高齢化により若い働き手が減少したことで、従業員を確保できない中小零細企業が、技術を提供する形で大手に合併吸収されるケースも増えています。

なお、ベンチャー企業に関しては、アメリカのように合理性とスピードを優先し、成功までの近道としてポジティブにM&Aを選択する会社が大半です。

M&AによるEXITの今後の流れ

日本だけでなく世界的な傾向として、今後M&Aは増加していくと予測されます。前項で述べた後継者や働き手減少によるM&Aだけでなく、「クロスボーダーM&A」による海外進出が増加傾向にあるためです。

クロスボーダーM&Aは海外に拠点を持つ企業への事業売却を行う手法で、特にベンチャー企業においては、人口減少に比例して縮小する国内市場から、海外のマーケットに活路を見出すケースが増えています。

さらには、従来のM&Aは大手企業が買収側でしたが、ベンチャー企業が他のベンチャー企業をバイアウトする件数も伸びています。以上のような現況から、今後M&Aは日本でもアメリカのように多様化し、積極的に行われていくと考えられます。

まとめ

日本では長らく「EXITと言えばIPO」というムードがありました。しかしアメリカでM&Aが主流になったことで、今後は日本にも影響が及ぶと予測されます。IPOとM&A、どちらを選ぶにしても、ますます多様化する出口戦略を成功に導くには、グローバルな視野を持ち情報をアップデートしていく必要があります。

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