ブロックチェーンで創る「未来のステージ」を、個人情報流通技術が支え抜く| ZEROBILLBANK × TOPPAN 協業への道すがら(前編)

TOPPAN CVCは2023年、データ連携基盤「ZBB CORE」を中心にブロックチェーンサービスを展開するZEROBILLBANKと資本業務提携契約を締結。特定の案件だけでなく、様々な面から協業を仕掛けてきました。本稿では、ZEROBILLBANKの堀口社長とTOPPANの協業責任者に協業の詳細を聞いていきます。

前編となる今回は、ZBB COREが創る「未来のステージ」の話に加え、パーソナルデータストア(以下「PDS」)や個人情報流通といった面でのTOPPANとの連携について聞きました。

研究開発連携や、IR(統合型リゾート)におけるブロックチェーンの可能性について聞いた後編はこちらから。

先回りして作る「未来のステージ」

── 最初に、ZEROBILLBANKが提供するサービスについて教えてください。

堀口(ZEROBILLBANK):
ZEROBILLBANKは2015年2月にイスラエルで創業しました。それから継続的に開発しているのが「ZBB CORE」です。

 

堀口 純一 | HORIGUCHI Junichi
ZEROBILLBANK JAPAN 株式会社 CEO & Co-founder
日本アイ・ビー・エム株式会社での法人営業を担当した後、IBM Singaporeでの事業開発を経て、2014年末に退職。その後、株式会社サムライインキュベートの「イスラエル経由 世界行きプログラム」に合格し、2015年にイスラエルに移住してZEROBILLBANKを創業。Startup Nationとも言われるイスラエルで、ブロックチェーン技術を軸にした事業開発経験を積み、帰国。
現在は『Make a big stage』というミッションの下、既存のバリューチェーンや企業間の枠組みを超えて、これまでに見たことのない新しい組み合せ(ヒトとヒト、モノとヒト、情報と情報など)を作り出す新規事業支援サービス「ON-TOP STAGE」を提供。常に変化していくニューノーマルにも柔軟に対応できるような、大きな産業づくりを大企業向けに提案している。今後はさらに、ZEROBILLBANKの新規事業として、ESG・環境・エネルギー領域におけるSaaS事業も独自で手掛けていく計画を推進中。

堀口(ZEROBILLBANK):
前職のIBMでは、2012年からシンガポールで働いていました。そんなときに出会ったのが、黎明期にあったビットコインです。私は昔から「暗号(技術)」に関心があったこともあり、ビットコインを支えるブロックチェーンというものを知った瞬間に「これはもしかしたらインターネットを超える技術になるかもしれない」と感じました。

それで週末起業でブロックチェーンサービスの開発に勤しんでいたのですが、VCがイスラエルで起業家を募集するプログラムを実施するというので、応募してみたんです。何のご縁か合格をいただいたので、IBMを退職し、イスラエルに渡り、ZEROBILLBANKを創業しました。

そこで取り掛かったのが、企業がデジタルアセットをブロックチェーン上で開発する際の仕組みである「ZBB CORE」です。これはブロックチェーンを核としたエンタープライズ向けデータ管理基盤で、異業種間・会社間でのデータ連携を実現するものとなっています。

堀口(ZEROBILLBANK):
ZBB COREを提供する中で改めて感じたのは「ブロックチェーンは1社だけで使っても、その価値を最大化できない」ということです。特定の企業から「ブロックチェーンやZBB COREに興味がある」と声をかけていただくことは度々あって、実証実験に漕ぎ着けるもののなかなか成果を上げることが難しいので、その先に進まないのが課題でした。

であれば、ZEROBILLBANKが先に「未来のステージ」を創っておいて、そこに企業に来てもらったほうがいい、そう考えを変えました。未来のステージでは「デジタルアセットをどのように扱うか」「個人情報をどう管理していくか」と色々な課題が出てくるので、それをZBB COREで先回りして解決しているんです。

── 「未来のステージ」について、詳しく教えてください。

堀口(ZEROBILLBANK):
ZEROBILLBANKはミッションに「Make a big stage」を掲げています。これが何を示すかというと、私たちはステージづくりの脚本家になりたいんです。こういうシナリオで、こうキャスティングをして、こういう舞台を作れたら未来の面白いステージができる。そういったことを考えるのがZEROBILLBANKです。ブロックチェーンという技術的な優位性はあるものの、「未来のステージ」の脚本を考え、キャスティングしていくことが我々の存在意義だと思っています。

ZEROBILLBANKのクライアントは主に大企業ですが、ビジネスの中で強みになるところは自分たちで対応してもらい、非競争領域はZBB COREというブロックチェーン技術で管理してもらう。そういう世界観を先回りして創りたいですね。

── ZBB COREはどんな分野への展開を考えているのでしょうか。

堀口(ZEROBILLBANK):
例えばCO2排出権やESG分野への「デジタル証明」への展開を睨んでいます。

例えば私が「堀口純一」と書いた名刺を渡したとします。でも貰った方は「名刺を渡してきた人間が本当に堀口純一かどうか」は簡単には確認できませんよね。CO2排出権も一緒です。「これだけの排出権を我が社はもっています」と言われても、本当かどうかすぐには確認できない。もし既存の仕組みで証明しようとすれば、監査をするくらいしか手がありません。

しかしブロックチェーンやスマートコントラクトを使えば、この監査すら不要になります。つまり「名刺上の名前は住民票から取得する」「会社名は登記簿と対応させる」とルールを事前に合意しておくのです。そうすると名刺を貰った方は「これは住民票や登記簿と一致しているデータだから」と安心して名刺の情報を信頼できる、というわけです。

ちなみに、こういった仕組みを物流サプライチェーン管理に応用したのが「Trace Ledger」というサービスです。今後は上記の仕組みを様々な分野に横展開していきたいと考えています。

パーソナルデータサービスを共同開発へ

── それではZEROBILLBANKとTOPPANの共創について話を聞かせてください。両社は様々な取組みをしていますが、出会いのきっかけはなんだったのでしょうか。

堀口(ZEROBILLBANK):
ここまでZBB COREを中心にZEROBILLBANKが提供するサービスの概要をお話ししてきましたが、まだまだ課題もあります。その一つが個人情報の取り扱いです。

ブロックチェーンのメリットの一つに「記録された情報は改ざんされない」というものがあります。しかし逆に言うと、個人情報のようなセンシティブなデータも消せなくなってしまうんです。そうすると、どうしても個人情報をブロックチェーンで取り扱うことには慎重になってしまいますよね。でも「この個人情報は間違いない」と伝えたい場面はたくさんあります。

ではどうしようか、と考えていたときに声をかけていただいたのがTOPPANでした。

堀口(ZEROBILLBANK):
TOPPANは金融機関から個人情報を預かり帳票を作って送付する事業などを通して、国内でも有数の個人情報を取り扱っている会社です。こんなことができる会社は多くありません。

TOPPANの持つ個人情報管理基盤と、情報を正しく流通できるブロックチェーンの相性の良さは火を見るよりも明らか。両社がタッグを組んだら「未来のステージ」を作るスピードが加速する。TOPPANと最初に話をしたときにそう直感しました。

── それでZEROBILLBANKとTOPPANは、個人情報についての協業を始めたんですね。

堀口(ZEROBILLBANK):
はい。ZEROBILLBANK とTOPPANとは以下に紹介するように様々な取り組みをしていますが、端的に説明すると、個人情報をちゃんとした形で預かり、管理して、その上で複数の企業に流通させようという取り組みを中心に協業しています。

奥村(TOPPANエッジ):
TOPPANエッジの奥村です。最初にZEROBILLBANKに声かけしたのは我々でした。

奥村 尚志 | OKUMURA Takashi
TOPPANエッジ株式会社 イノベーションセンター イノベーション推進部 データビジネスチーム 部長

奥村(TOPPANエッジ):
2017年、ピッチイベントに登壇しているZEROBILLBANKを見て興味を抱きました。当時国内はまだブロックチェーンの勃興期。スマートコントラクトのサービスを開発している会社は多くなく、気になってコンタクトを取ったんです。

TOPPANエッジの祖業の一つは請求書や通知物などビジネスフォームと呼ばれる帳票類です。ですが周知の通りAIやIoTが発達し、ビジネスフォームにもデジタル化の波が押し寄せている。そのため我々としても、紙からデジタルへビジネスの場を広げることは喫緊の課題となっています。

この課題に対しスマートコントラクトは有効な一手段となりうるのではという期待もあり、ZEROBILLBANKに相談したんです。

── 具体的に両社はどんな取り組みをしているのでしょうか。

奥村(TOPPANエッジ):
ZEROBILLBANKと協働して、スマートコントラクトと個人情報に関するPDSを組み合わせたサービスを開発しました。その後、たくさんのお客様に一緒に提案させていただいております。これまでにZEROBILLBANKとTOPPANが協力して20社ほどに提案し、いくつかの実証実験を実施させていただきました。

堀口(ZEROBILLBANK):
現在はサステナブル関連の取り組みなどを共同で進めています。例えば紙で印刷物を作り送付すればCO2が発生しますよね。ですが印刷プロセスをデジタルに変換すればCO2の排出は最小化され、ブロックチェーンであればそのデジタル証明を創ることが可能です。これにTOPPANの個人情報管理ノウハウを組み合わせれば、個人の排出権管理に繋げることも可能でしょう。これも「未来のステージ」の一つですね。近い将来、このようなステージにたくさんの企業に参加してほしいと思っています。

技術力だけじゃない。斬新な発想力と企画力も武器に

── ZEROBILLBANKは個人情報の面では、「MyAnchor」とも協業していますよね。

宮田(TOPPAN HD):
私はTOPPANで、生活者が自分で自分の情報をコントロールするための個人情報流通プラットフォーム「MyAnchor」を担当しています。先程堀口さんから「協業の肝は個人情報の流通」というお話がありましたが、それに関わるサービスです。

宮田 智博 | MIYATA Tomohiro
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ビジネスインキュベーションセンター インキュベーション部 部長 チームリーダー

宮田(TOPPAN HD):
MyAnchorは、単独では効果を発揮できない、謂わば「バックエンドプラットフォーム」。そのため、営業するにしても価値の訴求が難しいんです。そういった事情もあって、ここにいる皆さんとの社内横串連携だけではなく、ZEROBILLBANKを始めとしたスートアップの皆さんとのオープンなシナジー効果の創出により、様々な手段で価値を伝えようとしてきました。その例の一つが、以前紹介したフォトシンスとのフロントエンドアプリの連携です。

「鍵」は個人情報の連携とセキュリティ。スマートロックAkerun × 凸版印刷 協業の舞台裏

宮田(TOPPAN HD):
では、ZEROBILLBANKとはどのような連携をしているのか。

MyAnchorの価値をクライアントに伝えるにあたっては、単に概念を説明するだけでなく、イメージできるアイデアや実際に動くモックを迅速に目の前に用意し、机上ではなく既に実現性のある事を示すことも有効な手段だと考えています。その点ZEROBILLBANKには、ブロックチェーンを始めとする技術はもちろんのこと、新しい発想での企画やモック開発によるスピード感を持った提案力を期待しているんです。

堀口(ZEROBILLBANK):
宮田さんが言うように、MyAnchorは、個人情報を生活者の同意に基づいて、規約に沿ってA社からB社に渡すための基盤技術でありバックエンドサービスなので、価値を訴求するのは確かに大変だと感じます。ブロックチェーンも同じような立場ですから本当によくわかります(笑)。

堀口(ZEROBILLBANK):
そんなときZEROBILLBANKはお客さまにサービスを紹介する際にどんなアプローチを取っているかというと、「未来新聞」をもっていくんです。これは「貴社のこの技術と他社のこの技術とZEROBILLBANKのサービスを、こうやって組み合わせてこういうユースケースを作りました」といったことを簡潔に説明したもの。そうすると先方は「こんなことできるの?」と興味を示してくれるんです。

資料だけでなく、今の時代だったら例えばChatGPTでアプリの試作も持参して、「ここでこういう技術をこういった形で使うと、貴社の事業はこう変わるはずです」と我々が企画・構想したものをプレゼンしたりもします。

宮田(TOPPAN HD):
ZEROBILLBANKに期待しているのは正にこういうことです。先日もこういったプレゼンをしてもらうために、クライアント提案の際に同席してもらいました。

私たちとしては、従来型の時間がかかる事業開発ではなく、お客さまの声を聞きながらスプリントを回すアジャイル型の事業開発をしたいんです。ZEROBILLBANKが持つそういった能力を、我々としても武器にしていきたいと考えています。

奥村(TOPPANエッジ):
堀口さんと話したり、一緒に提案に行ったりすると、発想力のすごさに驚くことが多々あります。発想が飛びすぎていて収めるのが大変なときもありますが……(笑)。

堀口(ZEROBILLBANK):
すみません(笑)。

奥村(TOPPANエッジ):
でも「未来新聞」のように、夢を語るのは本当に重要だと思っています。堀口さんとご一緒するときは、一旦夢を語れるだけ語っていただいて、関係者の共感を誘う。ただもちろん現実的な落とし所は必要なので、そこはTOPPANがまとめていく。そうやって連携していけたらいいのかなと思います。

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前編はここまで。研究開発連携や、IR(統合型リゾート)におけるブロックチェーンの可能性について聞いた後編はこちらから。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワ アキコ)