知財戦略の実践で事業を成功させるためのポイント

「知財戦略」という言葉はよく耳にするけれど、経営にどう取り込めばいいのかわからない方は多いもの。知財(知的財産)という概念は曖昧に認識されがちですが、法的にはっきりとした定義があり、巧みに利用することで事業の成長につながります。この記事では知財戦略について、成功のポイントや事例を取り上げていきます。

知財戦略とは

「知財戦略」とは、読んで字のごとく知財(知的財産)を用いて、事業の成長を促す経営上の戦略です。ひと昔前は独自開発製品に対する特許戦略として考えられていましたが、近年では情報や技術などを含め、中長期的な利益を生み出す企業の財産を、戦略的に経営とシンクロさせる考えに代わってきました。

知財戦略をしっかりと練っておくことで、同業他社に対する競争力を得るとともに、盗用や訴訟をはじめとする様々なリスクを未然に防ぐことにもつながります。特にベンチャー企業に関しては、CVC機能を持つ大企業との協業を進めるケースにおいて、事業計画の段階でオープンイノベーションに対応する知財戦略を組み込んでおくことが、投資元のパートナー企業との関係性を透明化することにも役立ちます。

知財戦略が重要である理由

知財戦略が必要な理由は、社会環境の変化によるところが大きいと言えます。中でもこの数十年で全世界のデジタル化が進み、情報がオープンになってきたことが重要なポイントです。業種のクロスオーバーやCVCなどによる企業間のシナジー構築、顧客と企業の関連性の変化など、事業形態の多様化が加速する中で、以前は特許に集中していた知的財産権が、広範囲に及び複雑化してきました。

また、開発した製品を独自に権利化するための特許に関しても、以前は販売の目途が立ってから計画に加える企業が大半でしたが、現在ではもっと早いフェーズで知財の扱い方を策定する企業が増えています。知財戦力と経営戦略は別々に考えるものでなく、同時進行で事業計画に組み込んでおくことが昨今のスタンダードと言えます。

知的財産とは

「知的財産」と聞いて多くの人が思い浮かべるのが「特許」ですが、知的財産にはその他にも多くの種類があります。土地やお金など形がある「有体物」を保護する所有権に対し、発明や芸術、技術、営業秘密など形のない「無体物」を保護するのが「知的財産権」となります。いくつかの項目の概要と代表的な事例を挙げてみました。

  • 特許権
    発明(比較的程度の高い新技術的アイデア)を保護します。物、方法、生産方法の3区分があります。
    (例)電子エアロゾル供給装置、アバター作成ユーザインターフェース
  • 実用新案特許
    物品の形状や構造、組み合わせに係る考案を保護します。発明と違い高度な技術を必要としません。
    (例)NFCタグ付名刺、スマートフォンを用いた防犯システム
  • 意匠権
    物、建築物、画像のデザイン(意匠)に対する独占排他権。全体および一部を保護します。
    (例)家電製品の外観、店舗の内外装、アプリのアイコンやウェブサイトの画像
  • 商標権
    取り扱う商品やサービスを、他と区別するための文字やマーク等を保護します。
    (例)会社や商品のロゴ、トラックについているマーク
  • 著作権
    文芸、学術、美術、音楽において、作者の思想や感情が表現された著作物を保護します。
    (例)小説、音楽、絵画、地図、アニメ、漫画、映画、写真、コンピュータプログラム
  • 回路配置利用権
    独自に開発された半導体チップ、集積回路の回路配置を保護します。
  • 商号権
    商人が自己および会社を表すために使用する名称(社名)を保護します。

知財は保有しているだけでは意味がない

上記の知的財産権の中には、皆さんの事業内容と関わりの深いものも多いと思います。しかし、有用な知財を所有していても、それらを戦略的に利用しなければ意味がありません。特許庁の調べでは、権利を取得しただけで利用されていない「休眠特許」は、国内において半数にものぼるというほど、我が国では知財を生かし切れていないのが現状です。特許は権利を維持するだけでも特許年金が必要となります。自社の知財が事業のコア技術として生かされているのかを見直し、もしも保持しているだけで収益につながらない知財があるなら、売却などの判断をするのも選択肢のひとつです。

 

知財戦略の成功と事業成功の関係性

知財戦略で気をつけたいのが、それが事業の成功を必ずしも保証するものではないという事です。知財戦略は、事業計画にうまく取り入れて自社の強みを増幅させることが本筋です。例えば、いくら力を入れて知財戦略を練ったとしても、事業自体に勢いがない場合は意味をなさなくなってしまいます。また、事業が右肩上がりだったとしても、知財戦略で手を抜いたばかりに突然訴訟を起こされてピンチに陥るなどのリスクがあります。

知財戦略と事業戦略はどちらかだけを重視するのではなく、その両者がいかに機能的にリンクし、バランスが取れているかが大切です。ぜひ一度、自社の事業戦略に知財戦略が生かされているかどうか、見直しを行ってみてはいかがでしょうか。

 

知財戦略の方法

自社で新たに知財戦略を導入する際の、基本的なフローをご紹介します。ポイントは、早い段階で事業計画に取り入れるという事です。遅くとも商品やプロジェクトの企画段階からスタートし、権利化までの道筋を明確にしておきましょう。

  1. 他社の動向や現状をリサーチ

他社の動向を特許調査によって正確に把握し、自社が権利化しようとしている知財に照らします。従来にない新しいものか、改良型か、それにより自社の優位性が明確になるとともに、企画の修正が必要になる場合もあります。

  1. 他社の特許を侵害しないかどうかの確認

権利化する知財が何に該当するかが明確になった時点で、それが他社の権利を侵さないかどうかを確認します。もし侵害すると判断した場合、内容の変更や他社特許無効化の可能性、交渉などを検討することになります。

  1. 出願の準備をスタート

独自性が確認され、他の権利を侵害しないと認められたら、該当項目の出願に必要な手続きを始めます。通常は、弁理士資格を持つ専門家に相談し、手続きを行うための業務を代行してもらいます。

  1. 海外での権利化の検討

将来的に海外への事業展開を考えている場合は、外国での知的財産権を確保しておく必要があります。近年は模倣や盗用が横行しており、市場に出る前段階での措置を講じておくことが重要です。

  1. 出願

特許、実用新案、意匠、商標は「産業財産権」と呼ばれる、知的財産権の中でも主な項目です。全ての項目で、出願には特許印紙や登録料、審査に関わる費用や弁理士への謝礼などが必要になります。

  1. 見直しと改良

出願により権利化した後も、知的財産は常に見直しが必要です。特に特許は出願後1年半公開されないため、その間に他社に先んじて改良を進めておくことが、競争に勝ち抜くポイントになります。

知財戦略を成功させるポイントは「三位一体」

知財戦略を語る上で「三位一体」という言葉がよく聞かれます。これは、事業部門・研究開発部門・知財部門が連携することで、より相乗的な力を発揮するという考えで、2003年に経産省が発表した「知的財産の取得・管理指針」および、特許庁が2007年に発表した「知財戦略事例集」にも記述があります。

他社に抜きんでる競争力の核として知的財産を認識し、事業戦略の中にしっかりと位置付けることで、収益性を高め企業価値の最大化にもつながります。また、グローバル市場における厳しい競争下においても、三位一体による知財財産の活用と保護は不可欠な要素となっています。

知財戦略の事例紹介

具体的な知財戦略の成功例を二つご紹介します。業種や会社の規模、事業計画などによりパターンはそれぞれですが、早い段階で専門家のサポートを取り入れながら、地道な知財戦略を練ることが成功の秘訣と言えるでしょう。ぜひ、参考にして自社の知財戦略の方針検討に役立ててください。

  • 事例①【防衛策から「攻め」の知財戦略に転換】
    株式会社メルカリ 取締役社長兼CEO 小泉文明氏
  • 事例②【「知財意識」が企業経営を行う上で重要になる】
    三鷹光器 代表取締役社長 中村勝重氏

事例① 防衛策から「攻め」の知財戦略に転換(株)メルカリ

■防衛策から「攻め」の知財戦略に転換

株式会社メルカリ 取締役社長兼CEO 小泉文明氏

スマートフォンに特化した、フリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運用を行う株式会社メルカリ。知財戦略に関しては、小泉さん自身が重要性を認識しており、日々情報の把握に努めておられます。従来メルカリが行ってきた知財戦略は、知財権侵害(違反)の出品物に迅速に対応する仕組みなど、防衛的なものが多かったそうですが、現在では自社独自の新規事業や外部団体との連携によるイノベーションの成果を保護するような「攻め」の知財戦略を開始しています。直近では特許出願も重視。事業と知財担当者が密に連携することで、スピードを確保。特許取得に対してグローバル水準の報奨金制度を設定するなど、前向きな姿勢で臨んでいます。

※特許庁 経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】より
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/keiei_senryaku_2019/keiei_chizaisenryaku.pdf

事例② 知財意識が企業経営を行う上で重要(株)三鷹光器

■「知財意識」が企業経営を行う上で重要になる

三鷹光器 代表取締役社長 中村勝重氏

約20年前、それまでドイツ大企業の独壇場だった、脳神経外科手術用顕微鏡市場に参入した三鷹光器。現場のニーズを聞き取ることで、斬新なアイデアの特許製品を次々と開発。全米で50%という大きなシェアを獲得しました。そんな三鷹光器の最大の武器は、顧客との対話。社長の中村氏は「顧客との対話が重要となった今、これまで以上に経営戦略と知財戦略は密接に結びついていて、知財意識が企業経営を行う上で重要」と感じています。顧客の要望を真っ先に聞く営業マンにも「良いアイデアが閃いても客先で言わず持ち帰れ」と徹底し、知財担当に報告した後、特許出願してからお客様に伝えるようにしています。また、製品名も重要な要素であるため、技術的なアイデアと同じく商標として権利化するようにしています。

※特許庁 経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】より
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/keiei_senryaku_2019/keiei_chizaisenryaku.pdf

まとめ

企業にとって知的財産は、生かせば武器になります。ひと昔前のように、発明を権利化するだけではなく、様々な手法で知財戦略を事業に取り入れる企業が増えてきました。まずは自社の保有する知財で、最高のパフォーマンスを得られているかどうか再確認してみましょう。新しいアイデアや改良ポイントなどが、見えてくるかもしれません。

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