ストックオプションの基礎知識|制度の仕組みやメリデメ

「ストックオプション」とは、会社が社員に対してあらかじめ定めた価格で株式購入の権利を付与する制度です。株価が上昇するほど時価との差額で得られる収益が大きくなるため、社員にとっては労働のモチベ―ションアップにもつながります。この記事ではストックオプションの概要や注意点について、基礎的な知識をご紹介します。

ストックオプションとは

株式や社債を販売する際の付加価値として、アメリカで発展したストックオプション。社員などが定められた金額(権利行使価額)で自社株を購入する権利を与えられるインセンティブで、80年代にシリコンバレーのIT系ベンチャー企業で、ストックオプションにより巨額の収益を得た社員が続出して話題になりました。

日本では1997年5月の商法改正において認定されましたが、当初は対象者や権利行使期間,付与金額などに多くの制限がありました。その後、改定を重ねながら現在の制度に移行。権利対象者の制限が解除され、社外の協力者にも付与できるなど、様々な条件が緩和されています。なお、ストックオプションは会社法では「新株予約権」という名称です。ただし一般的には、新株予約権のうち社員などにインセンティブとして権利付与されるものを意味することがほとんどです。

ストックオプションの魅力は、何と言っても業績の上昇に応じた収益が期待できることでしょう。時価で売却した差額(キャピタルゲイン)がそのまま収入となるため、意欲のある社員にとってはモチベーション向上に直結します。特にスタートアップ企業においては、いかに優秀な人材を確保するかが鍵となるため、ストックオプションは非常に効果的な説得材料と言えます。

ストックオプションの種類

ストックオプションは、いくつかの種類に分類されます。その中でも代表的な3種について説明します。

●通常型ストックオプション
付与の際に費用がかからないため「無償ストックオプション」とも呼ばれるもので、最も一般的です。「税制適格」と「税制非適格」の二つがあり、前者は付与対象者や行使期間の条件を満たすことで、給与課税が免除されますが、後者は条件がないかわりに給与課税されます。

●有償ストックオプション
会社が発行したストックオプションを、役員や社員などが「発行価額」を支払うことで購入。業績や株価などの一定条件を達成することで、ストックオプション保有者が権利行使価額で株式に転換できる仕組みです。株式が有価証券として扱われるため、無償税制非適格に比べて課税回数などでメリットがあります。

●株式報酬型ストックオプション
退職金や取締役などに対する多額のボーナスに用いられることが多いストックオプションです。文字通り株式で報酬を支払う仕組みで、権利行使時と売却時どちらも課税されますが、権利行使価額を低額(例:1円)に設定することで、実質的にはほぼ時価が収益となります。

新株予約権との違い

「ストックオプション=新株予約権」と考えられがちですが、厳密に言うとこの2つには違いがあります。まず、新株予約権とは、会社法2条21号において「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう」と定められています。要約すると、会社が発行する株式に、あらかじめ決まった価格(権利行使価額)を設定しておき、社員やその他の対象者に購入権を付与する制度です。「それがすなわちストックオプションでは?」と思うかもしれませんが、新株予約権は単独での発行が認められているため、全ての一般投資家にも適用されます。

一方、ストックオプションはあくまでも社員、取締役、あるいは弁護士やコンサルタントなど外部の協力者に限られるもので、社内に向けてのインセンティブまたは報酬となります。両者は似ているので混同しがちですが、ストックオプションは新株予約権のうちの一部であると理解しておくと良いでしょう。

ストックオプションの仕組み

ストックオプションは、権利の付与→権利の行使→株式売却で成り立ちます。その仕組みを、実例と共に説明していきます。

  1. 会社が「権利行使価額」を決定します。この金額は今後もし株価が高騰したとしても、同じ価格で購入できることを約束するものです。
  2. 会社が社員、取締役、社外の関係者などに、権利行使価額で株を購入できる権利を付与します。
  3. 決められた権利行使期間内に、権利行使価額で株を購入します。
  4. 購入した株を市場で売却し、時価との差額(キャピタルゲイン)を得ます。

「例」
1株500円のストックオプションの権利を付与された人が、株価が1000円になった時点で権利を行使して株を購入しましたが、購入額は権利行使期間内であれば据え置きなので、1株=500円です。さらにその後、時価1500円になった時点で売却したとすると、差額は1株当たり1000円になるため、もし100株保有していたら10万円の売却益となります。

注意点としては、株の購入の際には権利行使のための条件を満たしている必要があります。条件は会社により様々ですが、上場による株式公開や、行使時に役員および従業員であることなどが通例です。

ストックオプション制度の導入方法

企業がストックオプションを導入する際の方法を、準備から行使までの流れに沿って解説します。ストックオプションの種類によっては特別な手続きが必要になる場合があります。

1.「決議」
ストックオプション(新株予約権)の発行には、株主総会の特別決議または取締役会決議により、割り当ての2週間前までに「募集要項」(発行株式数、権利行使価格、権利行使期間など)を確定し、株主に通知することが会社法で定められています。

2.「割り当て」
募集要項に応じた申し込みを受け「割り当て」を行います。ストックオプションであれば付与対象者が予め決まっているため、一般的には総数引受契約を締結することがほとんどです。

3.「新株予約権の発行」
「新株予約権原簿」に権利を付与される者の情報を記載し、新株予約権を発行して登記を行います。

4.「公正価格の決定」
現状の株価などから算出されたストックオプションの公正価格を決定し、有償ストックオプションの場合は発行価額も算出します。

5.「調書の提出」
多くの企業で導入される「税制適格ストックオプション」の場合、新株予約権を付与された者の情報のを記載した調書を、所轄税務署に提出する必要があります。

ストックオプション導入のメリット

ストックオプションの導入は、権利を付与する側にもされる側にも、多くのメリットがあります。特に知名度のない上場前のスタートアップ企業においては、優秀な人材が欲しくても高額な報酬を支払うことが難しい場合がありますが、ストックオプションをインセンティブとして導入することで、将来の成長に期待してもらうことが可能です。代表的なストックオプションのメリットをリストアップしましたので参考にしてください。

  • 知名度が低いスタートアップ企業でも、将来性があれば優秀な人材が獲得できる
  • 優秀な人材を確保するだけでなく、流出の防止もできる
  • 企業価値が向上すれば報酬が得られるため、モチベーションがアップする
  • 賞与など通常の報酬と比べて、税制面でのメリットが得られる事がある
  • もし株価が下がれば権利を行使しない選択ができ、損失のリスクがない
  • 賞与を廃止し、成功報酬型のインセンティブとしても導入できる

ストックオプション導入のデメリット

ストックオプションには、もちろんデメリットもあります。多くは経営者側の問題であるため、導入に際してはメリットとデメリットを天秤にかけて、しっかりとした設計を行うことが大切です。企業の状況によってデメリットの種類はそれぞれですが、その中でもスタートアップ企業に多い事例を取り上げてみました。

  • 導入時に付与条件が確定されるため、将来の変化に対応できない場合がある
  • 付与の対象者をどう選定するかで、社内の人間関係に影響がある
  • すでに上場している会社では、株価上昇による差額が少ない場合がある
  • 自社の努力や業績の及ばない、経済不振などによる株価下落リスクがある
  • 株価が上昇しなかった場合、社員のモチベーションが下がることがある
  • 大量にストックオプションを発行すると、既存株主が保有している株価が下がる
  • 権利行使後に社員が退職してしまうことがある

ストックオプションで得た利益に対する課税

売却時のキャピタルゲインに注目しがちなストックオプションですが、課税により実質的な所得は減少します。日本の税法は累進課税なので、額が大きい場合は最大55%の税率になることも。どのタイミングでどれだけの課税があるのか、明確に理解しておくことが肝心です。

「課税のタイミングと計算式の例」

課税のタイミングは、権利行使時(経済的利益)と売却時(譲渡益)のいずれか、または両方です。ストックオプションを①500円(権利行使価額)で付与され、②権利を行使したときの時価が1000円(経済的利益)、③売却したときが2000円(譲渡益)として、代表的な3種のストックオプションの課税を計算式にしてみました。

 

●通常型:税制適格ストックオプション

③-①=1500円に対して、売却時に課税されます。

 

●通常型:税制非適格ストックオプション

②-①=500円に対して権利行使時に、および③-②=1000円に対して売却時に、2回に分けて課税されます。

 

●有償ストックオプションの場合

③-①-1(※)=1499円に対して、売却時に課税されます。
※発行価額を1円として計算しています。

 

なお、これらのストックオプションによる収入は、翌年の確定申告が必要になる場合があります。自社が年末調整を行っているかどうか、予め確認しておくことをおすすめします。

条件によって異なる税制優遇措置

課税の仕組みに加えて、知っておきたいのが税法上の優遇措置です。多くの会社で用いられている「通常型(無償)ストックオプション」には税制非適格、税制適格の2種類がありますが、税制非適格の場合は売却時だけでなく、株を購入する際にも課税されるため、まだ利益を回収していないにもかかわらず、購入金額+税金の出費となります。場合によっては住民税と合わせて最大55%の税が課せられることもあり、納税が困難になる人も少なくありません。この「先払いの税金」負担を軽減するのが、「税制適格ストックオプション」です。

■税制優遇措置を受けるための条件

税制優遇措置が適用されるためには、「租税特別措置法第29条の2」および「租税特別措置法施行令第19条の3」で定められた要件を満たす必要があります。この要件に合う「税制適格ストックオプション」であれば、課税は株式の売却時のみになるため、回収した利益から納税することができます。また、税率も最大55%課税される「給与所得」ではなく、約20%の固定税率で課税される「譲渡所得」となるため、実利が大きく増加することが魅力です。税制適格となる10の要件をリストアップしました。

1.付与する対象者は、自社または関連会社の取締役と従業員に限る(監査役は不可)

2.付与する対象者は、発行済株式の3分の1以上を保有する大口株主に該当しない

3.権利行使期間は、決議日から2年を経過した日~10年経過日まで

4.権利行使価額は、付与契約時の株式時価以上に設定する

5.権利行使価額は年間1,200万円を超えないこと

6.他人への譲渡は禁止

7.無償ストックオプションであること

8.株式の交付に関しては会社法に反しないこと

9.証券会社等と契約していること、ただし付与時は不要

10.法定調書、権利者の書面などの提出が必須

まとめ

以上、ストックオプション(新株予約権)の概要を説明しました。これらはあくまでも「基礎知識」であり、導入するためにはさらに深い知識が必要となるため、設計の際には必ず専門家に相談しましょう。ストックオプションは株式公開を目指すスタートアップ企業には、特に強力な武器となります。ぜひうまく経営に取り入れてください

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