スタートアップ企業に関する用語で「ラウンド」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。成長スピードの速いスタートアップ企業を、フェーズ(段階)に分けて表す指標で、「資金調達ラウンド」は投資家が企業の有望性を判断する目安にもなります。各フェーズの特徴と、それぞれにおける資金調達方法について紹介します。
目次
資金調達ラウンドとは
「資金調達ラウンド」の「ラウンド」という言葉は、投資家がスタートアップ企業に資金を投資する際に目安となる、成長度(ステータス)の指標です。もともとはアメリカのシリコンバレーで投資家が使う専門用語でしたが、近年では日本でも使われるようになりました。投資家サイドからは「投資ラウンド」とも呼ばれます。
この指標は、投資家がスタートアップ企業の状況を明確に判断するために生まれました。スタートアップ企業は上場後の企業や実績の長い企業と違い、起業からEXITを目指して速いスピードで成長していきます。そこで、成長の段階をいくつかの段階に分けて明確化することで、実情がわかりにくい企業のステータスを、外部から把握しやすくしたのがラウンドです。「資金調達ラウンド」は、投資家が金額やタイミングを判断する上で役立つのはもちろんですが、スタートアップ企業側としても自社のステータスを客観的に認識することができ、成長戦略や事業計画を作成するための大きな助けになります。ラウンドの考え方には様々ありますが、今回はその中でも4つのラウンドに区分けをして、解説をしていきます。
資金調達ラウンドのフェーズ
資金調達ラウンドの考え方は様々ありますが今回は、「シード」「シリーズA(エクスパンション)」「シリーズB(グロース)」「シリーズC(レイタ―)」という4つの段階の説明をします。これらの区分は「ステージ」と呼ばれ、下の表のような状態を意味します。投資家からの資金調達を計画しているスタートアップ企業は、自社がどのフェーズに当てはまるか認識しておく必要があります。
(例)
資金調達ラウンド | 企業の状態 |
シード | 起業前/これから事業で収益をあげる計画を立てている段階。 |
シリーズA (エクスパンション) |
サービスやシステムが本格的に稼働し、収益につながり始める初期段階 |
シリーズB (グロース) |
順調に成長し収益が拡大、IPOやM&Aの検討を始める段階 |
シリーズC (レイター) |
企業としての信頼が確立され収益も安定、出口の準備を実行する段階 |
シード
シードは「種」を意味し、文字通りまだ発芽してない起業準備段階を言います。具体的な状況としては、大枠としてどのような事業を行うのか、業種や方向性は決定しているが、具体的な業務内容や利益を生み出す仕組みなどは確立されていない、または起業をした直後といった様な段階です。
このフェーズは、事業計画を練っている時期でもあるため、まだ大きな資金は必要としない企業が大半です。特にスタートアップ企業に多いIT系の会社であれば、初期費用が小さなビジネスモデルが主流です。しかし、業種によっては商品開発費や研究費用として、起業に至るまでに莫大な資金が必要になる事もあります。
投資家にとっては将来性の判断が難しいフェーズであるため、もしもこの時期に資金調達が必要な場合は、起業前であったとしても綿密な事業計画や資本政策を立案し、投資家に将来性をアピールすることが重要になります。また、投資が現段階では必要ない会社も、市場調査や設立費用など、ある程度の資金は確保しておくよう準備を始めましょう。
シリーズA
シリーズAはエクスパンションとも言われるフェーズで、事業が推進し始めて間もない段階を指します。順調であれば徐々に事業に勢いがつき、安定した収益が得られる時期になります。また、事業のアウトラインが明確になり、成長の予測も立てやすくなるため、投資家からの資金調達がしやすくなるのも大きな変化です。シリーズAはまだまだ新規顧客の開拓や人材の確保が必要な企業が多いことに加え、新しいサービスのローンチや販売促進など、次々と資金を注入すべき事案が発生します。ここでいかに効率的に資金を調達できるかが、経営者の腕の見せどころです。
なお、注意したいのが株の保有比率です。未上場の株式は投資家との交渉次第で価格や数が変動します。大きく事業を推進したい一心で、高い評価をしてくれる投資家に大量の株を発行するケースも見られますが、特定の投資家に株式が集中してしまうと、今後の経営上の意思決定に影響してくる場合もあります。
シリーズAは事業の拡大のため、まとまった資金調達が不可欠ですが、株の保有率を調整しながら慎重に進めることが重要です。
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シリーズB
シリーズAがさらに成長し、事業の基盤がしっかり固まる時期がシリーズBです。グロースと呼ばれることもあります。この時期になると、事業規模や顧客数も拡大し、そろそろ実績から明確な将来の予測が出しやすくなります。そのため、投資家から資金調達をするスタートアップ企業が増加します。順調に成長を続けている事業であれば、億単位の投資を受ける会社も少なくありません。
また、シリーズBになると出口戦略をスタートする会社が多くなります。中にはこのフェーズでEXITをしてしまうスタートアップ企業もありますが、IPOが目標であれば巨額の資金と3~5年の準備期間が必要です。無理をして出口を目指すのではなく、上場後も着実に経営が持続できるよう、しっかりとした体制づくりと資金確保が求められます。
シリーズC
事業が安定し、シリーズBの段階以上に会社・事業が成長している状態になればシリーズCです。レイタ―と表記されることもあります。この時期になると未上場のスタートアップ企業であっても、大会社に匹敵する勢力を持つ会社も出てきます。また、収益の増加により資金調達が不要になる会社も多くなる一方で、事業の範囲を国外に広げたり、新しく設備を導入するために、数十億の資金調達を行う会社もあります。その際、安定した事業運営を維持している実績があれば、シードや起業直後では難しかった金融機関からの借り入れも容易になります。
また、シリーズCを迎えたスタートアップ企業であれば、多くがIPOやM&Aの準備段階、もしくは実行段階になっていると思われます。確実に出口戦略を成功させるのはもちろん、引き続き安定した収益の確保と、社内体制の整備、上場後の株主構成など、中長期を見据えた事業計画を用意しておきましょう。
スタートアップが資金調達する方法
4のフェーズについて、それぞれどのような段階であるかを説明しましたが、その中でも資金調達が難しいシードラウンドを少し掘り下げていきます。この時期のスタートアップ企業は実績がないため、金融機関からの融資が受けにくいことが大きなネックです。しかし、起業後は市場開拓や人材の確保のため、ブースターとしての資金注入が必要な時期でもあります。ここで首尾よく資金調達を行うことが、次のフェーズの成長力を決定する決め手と言えるでしょう。
■「シード」における資金調達のポイント
起業前の計画段階であれば、多くの会社はそれほど資金を必要としない時期です。もし開発や研究などに大規模な資金が必要な業種であれば、資金調達の目途が立つかどうかで起業時期が変動します。
また、事業が動き出した場合でも資金が足りない時期であり、多くのスタートアップ企業が赤字覚悟で動いている段階ですが、しっかりした事業計画で将来性をアピールできれば、投資家からの資金調達が実現可能です。
シードラウンドの資金調達
起業前の計画段階や起業しても間もないため、まだ実績がない状態がシードです。このフェーズでは銀行など民間の金融機関からの融資は、ほぼ受けられないことを覚悟しておきましょう。
起業の計画段階で必要となる資金は、およそ500~1000万円、調達までの期間は数日から2カ月程度とされており、自己資金で賄う経営者も少なくありません。ただし、研究や開発など多額の準備資金が必要な場合は、事業の将来性を証明できるエビデンスを準備して、投資家にアプローチする必要があります。
また、起業して間もないタイミングでは、最も赤字経営が多いフェーズです。事業が動き出すまでには、多額の資金投入が必要になるため、事前に綿密な資金調達の手筈を整えておきましょう。まだまだ実績がないので、将来性を立証する事業計画が必要であり、実績が積み重なるに従い金融機関や投資家からの信頼が高まります。事業が順調に進んだ場合は、2000~5000万円以上の資金調達が可能になることも。ただし金額が大きくなると投資家の目線も厳しくなるため、出資に至るまでに長ければ数カ月を要することがあります。
【シードラウンドで活用できる資金調達】
- ベンチャーキャピタル、コーポレートベンチャーキャピタル、エンジェル投資家
投資家は実績のない企業には慎重になる傾向がありますが、説得力の高い事業計画を提示できればチャンスはあります。近年では「シードアクセラレーター」という、シード専門の投資もあります。ビジネスモデルよりも事業内容や創業者の経営方針を重視し、経営アドバイスなどのサポートも受けられます。また、この時期積極的に投資を行う投資家の場合、スタートアップ企業のIPOでのEXITを前提としているケースが大半です。
- 日本政策金融公庫
政府の出資100%の金融機関であり、条件によっては無担保・無保証人で低金利の融資を受けることが可能です。創業7年以内を対象とした新規開業ローンでは、運転資金7年以内、設備資金20年以内の返済期間が設定されています。※詳しくは日本政策金融公庫のWebサイトをご確認ください。
- その他
シードでは、自己資金や家族などからの借入れで乗り切る経営者も少なくありません。また、近年ではクラウドフ
クラウドファンディング、売掛債権の買取り(ファクタリング)、仮想通貨を用いたICOによる資金調達のほか、国の補助金や助成金など、公共の創業者支援もメジャーです。
資金調達の注意点
勢いをつけたい起業前後のスタートアップ企業にとって、投資(出資)や融資は頼みの綱ですが、注意が必要なポイントもあります。投資と融資それぞれに気をつけるべき項目をまとめました。
【投資に関する注意点】
資金を確保するために株式を放出しすぎると、特定の投資家から経営に介入されるリスクがあります。20%を超えれば実質的な経営の支配も可能になるので要注意。株式を譲渡する=議決権を譲渡する、と考えておきましょう。また、投資ファンドの償還期限にも気をつけましょう。満期(通常は10年)までにリターンをつけて返済できるよう、事業を軌道に乗せる必要があります。
【融資に関する注意点】
民間の金融機関、日本政策金融公庫、いずれの融資を受けるにしても、厳しい審査に通ることが大前提です。シードの場合、事業計画がしっかりしていても、約半数が断られるのが実情です。また、審査に通っても希望の融資額から減額される場合もあります。少しでも審査を有利に進めたい場合は、認定支援機関を通じて申し込むことをおすすめします。
まとめ
資金調達のステージの考え方は、明確な定義が無く様々な考え方が存在します。今回は4つをご紹介しましたが、シードよりも前のエンジェルラウンドや、シリーズAに入る前のプレシリーズA、ラウンドとラウンドの合間に設計するブリッジラウンド、シリーズC以降にもシリーズD、E…や上場直前のラウンドであるPre-IPOラウンドなど多くの目的に沿ったラウンドが存在します。多くのスタートアップ企業にとって、必要不可欠な資金調達。それぞれのフェーズによって戦略は大きく異なります。融資や投資を受けにくい起業直後から、EXITを考える時期まで、事業の現況を緻密に分析し、ステータスに合わせた資金調達を行うことで、事業を成功へ導きましょう。
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