CVC投資から生まれた新規事業。「デリくる」は飲食店のフードデリバリー対応を圧倒的に効率化する|メトロエンジン×凸版印刷

2019年5月、凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」)は、メトロエンジン株式会社(以下「メトロエンジン」)への出資を実行しました。メトロエンジンはホテル・レンタカー等の各業界向けダイナミックプライシングを中心として、Google Hotel Adsに掲載可能な「メトロブッキング」、長期滞在者向けのホテル予約サイト「マンスリーホテル」等のサービスを提供するスタートアップです。

メトロエンジンの強みは、機械学習を利用したダイナミックプライシングを様々な業界に適用できること。また同社は、ダイナミックプライシングを提供する上で、多くの外部システムと連携をしてきました。ダイナミックプライシングはもちろん、メトロエンジンの持つマルチプラットフォームマネジメントシステム(一元管理システム)を上手く活用できれば事業の幅を広げられる。そう判断した凸版印刷は2020年、マルチプラットフォームマネジメントシステムを使った共同新規事業構築を前提に、メトロエンジンに2回目の出資を実施しました。

この新規事業が2021年にベールを脱ぎます。その名は「デリくる」。飲食店向けに、コロナ禍で急速に拡大したフードデリバリーのマルチプラットフォームマネジメントシステムです。


事業概要イメージ

なぜメトロエンジンと凸版印刷は、マルチプラットフォームマネジメントシステムで手を組むことになったのか。どうしてドメインにフードデリバリーを選んだのか。両者の役割分担は。メトロエンジンと凸版印刷のキーマンに、お話を伺いました。

※写真撮影時のみ、マスクを外して撮影しております。

【スピーカー】

  • メトロエンジン株式会社 取締役COO / 統括責任者 小阪 翔
  • メトロエンジン株式会社 アシスタントマネージャー / プロジェクトマネージャー Kachura Ekaterina(カチューラ エカテリーナ)
  • メトロエンジン株式会社 アシスタントマネージャー/デザイナー 河尻 あゆみ
  • 凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター 坂田 卓也
  • 凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター 吉田 光志
  • 凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター 高橋 琢朗

凸版印刷の小売りソリューションに、需要予測機能を組み合わせたい

吉田(凸版印刷):
今日の本題はマルチプラットフォームマネジメントシステムなのですが、メトロエンジン社は最初、レベニューマネジメントツール『メトロエンジン』を始めとした、ダイナミックプライシングから事業を始めたんですよね。

凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター  吉田 光志

小阪(メトロエンジン):
はい。メトロエンジンは民泊の管理ツールで創業して、この管理ツールの中に、民泊の金額を最適化するダイナミックプライシングの機能がありまして、非常に評判がよかったのです。それで色々とヒアリングをしていたら、この機能はホテル業界にこそ必要だとわかりました。そこでホテル向けのレベニューマネジメントツール「メトロエンジン」を独立させることにしたんです。


メトロエンジン株式会社 取締役COO / 統括責任者 小阪 翔

エカテリーナ(メトロエンジン):
ただ開発には非常に時間がかかりました。メトロエンジンはその特性上ホテルの基幹システムとも連携させなければならないのですが、ホテルのシステムはレガシーなものが多く、ホテル毎に使っているシステムも異なるので、それぞれに対応するのが大変だったんです。1年半くらいは問い合わせがあってはシステムを繋げ、あっては繋げ……をずっと繰り返していました。あまりにも大変だったので、今ではこれが逆に参入障壁になっています。

メトロエンジン株式会社 アシスタントマネージャー / プロジェクトマネージャー
Kachura Ekaterina(カチューラ エカテリーナ)

高橋(凸版印刷):
鉄道会社へのダイナミックプライシングの適用に関するプレスリリースを出していたように、メトロエンジンは色々な業界にダイナミックプライシングを適用しようとしていますよね。

凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター  高橋 琢朗

小阪(メトロエンジン):
そうですね。ダイナミックプライシングはホテルに始まり、レンタカーや鉄道等様々な分野で使っていただいています。2019年頃からダイナミックプライシングという単語が盛り上がってきて、様々な業界からお声掛けいただきました。水面下でもいくつかの業界に適用しようと取り組んでいます。

坂田(凸版印刷):
そんな中凸版印刷のCVCから、2019年、2020年とメトロエンジンさんに投資させていただきました。メトロエンジンの強みはダイナミックプライシングに際しての需要予測アルゴリズム。凸版印刷は小売店で価格を表示する電子ペーパーやイベント等で、お客様の販促のお手伝いをしていて、ここに需要予測を上手く連携させられないかと思ったんです。最適な人的配置や在庫ロスを需要予測で解決できたら面白いなと思って。

凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター 坂田 卓也

小阪(メトロエンジン):
ダイナミックプライシングは事業会社と相性がいいのもあって、凸版印刷以外からのCVCからも出資いただいています。先程ホテルの話が出ましたが、ホテルの基幹システムを作っている会社との連携を意識して投資してもらったり、JR東日本スタートアップから投資を受けているのも、将来的な鉄道のダイナミックプライシングを見据えているという側面もあるんです。

小売業界でダイナミックプライシングを実現するには、電子棚札は外せない技術。とは言っても、自分たちでハードウェアを開発するのは難しい。だったら凸版印刷から出資を受けてパートナーとして一緒に取り組んでいきたいと思い、出資していただきました。

フードデリバリーの負をテクノロジーで解決

ダイナミックプライシングを前提に投資を実行した凸版印刷ですが、メトロエンジンとコミュニケーションをとるうちに、メトロエンジンが「マルチプラットフォームマネジメントシステム」にも注力しようとしていることを知ります。

坂田(凸版印刷):
定例ミーティングの中でマルチプラットフォームマネジメントシステムの話がぽっと出てきて「これめっちゃ面白いじゃないですか」と盛り上がったのです。他の業界にも横展開できる可能性を感じたのですが、スタートアップだけで展開するのは大変だとも感じました。だったら一緒にやりましょうと、凸版印刷からメトロエンジンに持ちかけたんです。2021年に凸版印刷からメトロエンジンに追加出資をするので、これを機に一緒に新規事業を作りましょうと。では実際にどの業界で使えそうかという調査を凸版印刷側で開始しました。

吉田(凸版印刷):
はじめに業種一覧を見ていき、更に各業種をBtoB、BtoC、CtoCと細分化し、どこの領域に最も課題があるか、競合はいるか、市場規模はどのくらいか等を調べ、業界のあたりをつけました。その後実際に業界の方々にヒアリング。最終的に「フードデリバリー」をマルチプラットフォームマネジメントシステム展開の最初の業界として選定しました。

高橋(凸版印刷):
2020年から2021年にかけ、新型コロナウイルスの影響もあって、フードデリバリーが盛り上がりを見せています。それに伴い本来は、お店側もオペレーションを整える必要があるのですが、仕組みが整わないままどんどんフードデリバリーの利用者が増えました。

ただ、チェーン店の本部は売上向上に繋がると思いフードデリバリーを導入したのに、現場は非常に疲弊している。昼になったら店内のお客さんを優先して注文を止めてしまうこともある。ここをテクノロジーを使ってなんとかしたいというのが、今回のチャレンジです。

小阪(メトロエンジン):
メトロエンジンとしても、フードデリバリー業界は興味のある業界でした。元々ダイナミックプライシングを様々な業界に適用していたこともあって、業界の好き嫌いはあまりないんです。ただ新型コロナウイルスの影響で、我々のポートフォリオであったホテルやレンタカー業界は軒並み経営が落ち込んでいました。逆にフードデリバリーはコロナ禍において伸びている業界。ポートフォリオを安定させるという意味でもバッチリの業界だったんです。

吉田(凸版印刷):
そうしてメトロエンジンと凸版が共同で、飲食店向けマルチプラットフォームマネジメントシステム「デリくる」を2021年10月25日にリリースしました。

小阪(メトロエンジン):
フードデリバリーサービスには、今Uber Eatsや出前館、menu等、多くのプレイヤーがいます。飲食店は売上を増やしたいので、なるべく多くのフードデリバリーサービスに出店したい。ただそうすると、1サービスあたり1つのタブレットで管理しなければいけないので、キッチンにタブレットをいくつもズラーッと並べなくてはならないんです。

飲食店には各フードデリバリーサービスに対応したタブレットがいくつも並ぶ

小阪(メトロエンジン):
ところがデリくるを使っていただければ、フードデリバリーサービスを一つの端末から簡単に使えます。デリくるがフードデリバリーサービスと連携していて、どこのサービスから注文が入っても同じUIで操作可能です。

河尻(メトロエンジン):
デリくるは、POSやキッチンプリンターとも連携しています。飲食店ではフードデリバリーだけではなく、お店に来ているお客様用の調理も必要です。そのため両者からランダムに注文が入ったら、オペレーションがぐちゃぐちゃになってしまって、何から対応したらいいかわからなくなってしまうんですね。デリくるをお店の注文システムと連携させればお店の注文とデリバリーの注文が整理されて、飲食店のオペレーションがシンプルになるようにデザインしました。

メトロエンジン株式会社 アシスタントマネージャー/デザイナー 河尻 あゆみ

エカテリーナ(メトロエンジン):
デリくるには他にも色々な機能があります。今まではPOSとフードデリバリーデータが連動していなかったので、フードデリバリーの伝票を溜めておいて後から手入力していることもありましたが、デリくるならその手間もなくなります。

また例えばハンバーガーショップでポテトがなくなったら、ポテト単品に加えてセット商品の販売も止めなければいけません。しかもすべてのデリバリーサービスで。そこでデリくるには一括売止(うりどめ)機能を付けました。これならポテトをクリックすれば、ポテトに関連するすべての商品をすべてストップしてくれます。

先行業界の事例をみて、フードデリバリーの問題も先回りする

メトロエンジンと凸版印刷が協力してローンチしたデリくる。メトロエンジンがサービス開発を、凸版印刷が事業開発を主な役割として担いました。スタートアップと大企業の協業において、大企業側は既存事業部が担当となることも多いのですが、今回凸版印刷は事業部ではなく事業開発本部である坂田、吉田、高橋がメトロエンジンとデリくるを担当しています。

吉田(凸版印刷):
開発はメトロエンジンにお願いして、それ以外の進行管理、販売戦略、飲食店開発等の事業開発を凸版印刷の事業開発本部の我々3人(坂田・吉田・高橋)が担当しました。

デリくるのビジネスモデルはSaaSを採用しています。他方で凸版印刷には主に単発で売上が立つビジネスが多く、デリくるとはビジネスモデルが異なります。そのため最初は戦略投資チームがPMとして立ち、一緒にサービスを作っていく判断をしました。現在は事業部のメンバーにも入っていただいており、今後ビジネスがまわってきたら事業部へ移管していくことも視野に入れています。

坂田(凸版印刷):
メトロエンジンのマルチプラットフォームマネジメントシステムは、ダイナミックプライシングと一緒になって世界に通じるプロダクトだと思っています。飲食店はその最初のステップという位置づけ。飲食店だけで終わりではなくて、凸版印刷も協力するので、今後マーケットをどんどん広げていきたいですね。

メトロエンジンのマルチプラットフォームマネジメント技術を元にして、デリくるを開発した2社。デリくるはテストとして既にいくつかの飲食店で利用してもらっています。実際のユーザーの声はどうだったのでしょうか。

小阪(メトロエンジン):
テストユーザーに試していただいたり、サービス構想をお話したりすると、非常に喜んでいただきました。「便利ですね」と。「今まで対応しきれなかったのでフードデリバリーは少ししか使っていなかったのですが、増やしても大丈夫そう」という飲食店もありました。

ただそう言ってくれた方に改めてメールを送ったら、なんと退職されていたんです。聞けば人の足りない現場のフォローでかなり忙しかったらしく、それで体を壊してしまったとのこと。デリくるなら飲食店の仕事を効率化できるので、こういった不幸な話も減らせるのかなと思います。

高橋(凸版印刷):
今後凸版印刷は、社内のネットワークや代理店と協力して、飲食店を開拓していきます。そこでさらに色々な課題や意見が出てくるはずなので、それを取りまとめてメトロエンジンにもフィードバックし、協力して機能開発していきたいですね。

スタートアップの武器を活かして事業を進める

凸版印刷からメトロエンジンへの出資から始まったデリくるの開発。そもそも凸版印刷はどうして出資だけでなく、一緒に事業を作り上げようとしたのでしょうか。

坂田(凸版印刷):

こちらにも記載されているように、凸版印刷はCVCからすでに50社以上のスタートアップに投資をしています。

凸版印刷の出資先スタートアップ(一部)

坂田(凸版印刷):
凸版印刷のCVCは単に財務リターンだけを求めているわけではなく、事業を作っていくというミッションも担っています。その挑戦の一つが今回のデリくるだったのです。

河尻(メトロエンジン):
コロナ禍で2社ともリモートワークになってしまって、開発のハードルが高くなった面もありましたが、大きなトラブルもなくよかったです。正直最初は、大企業と新しく新規事業を立ち上げるなんて大丈夫かなと心配でした。でも走り始めたら非常にやりやすかったです。

坂田(凸版印刷):
今回は必ずしも、凸版印刷の既存事業のケイパビリティを活かしたわけじゃなかった。凸版印刷は飲食店向けのビジネスが得意なわけでもなければ、マルチプラットフォームマネジメントシステムに強いわけでもない。

だけど市場環境とスタートアップのテクノロジーを組み合わせたら機会がありそうだとわかりました。事業部は動きにくいから僕ら事業開発部が動いて、なんとかローンチまで漕ぎ着けた。ここが今までの出資とは違うところです。メトロエンジンに限らずですが、この調子で第2、第3の事業をどんどん作っていきたいですね。

吉田(凸版印刷):
今回は共同事業ということで事業開発でかかった費用に関しては、両社で完全に50%でシェアしたんですよね。メトロエンジンの皆さんの能力が高かったというのは大前提で、収益も費用もコミットできるような仕組みにしたのはよかったと感じています。しかもフードデリバリーの隆盛や飲食店の人手不足という社会課題に取り組んでいこうと、両社が1つにまとまれたこともよかったと感じています。

小阪(メトロエンジン):
出資していただいていることもあって、利害関係が一致していて、コンフリクトがなかったことは成功要因の1つ。私も大企業に所属していたことがあるのでわかるのですが、関係者に話を通して稟議を上げて……って大変じゃないですか。スタートアップの武器であるスピード感が失われないかなと心配していたのですが、杞憂でした。

と言いますか、むしろ我々はプランニングを丁寧にするというよりは、さっさとやってしまうことの方が多いんです。ただ手戻りが発生したりして、結果的に非効率になることもある。その点凸版印刷はきっちりと進めていただいたので、その点は助かりました。

高橋(凸版印刷):
凸版印刷としてはドキュメンテーションをして、社内で確認しなければいけないこともあるので「とりあえずやってみる」ということがやりにくいんですよね。それが結果的によかったのだと思います。

坂田(凸版印刷):
ただメトロエンジンと一緒に仕事をして、スピード感やコミュニケーションの軽さは勉強になりました。Slackでやり取りしていたのですが、「ここはどうなっていますか?」と聞いたらすぐに「こう対応しています」と返答が来て。トップとメンバーがフラットにやりとりしている様子も見ていました。凸版印刷だとこういうスピードとフラットさはありえないです。

小阪(メトロエンジン):
それにしても3人でかなり素早く意思決定していましたよね?

坂田(凸版印刷):
いやいや、その後ちゃんと稟議通していますよ(笑)。ただ事業開発本部として予算を確保しているんですね。その範囲内でなら自分たちで意思決定している、という感じでした。

何はともあれ、まだローンチに漕ぎ着けたばかりで、ここからが本番です。メトロエンジンの皆さん、引き続きよろしくお願いします。

小阪・エカテリーナ・河尻(メトロエンジン):
よろしくお願いします。

CVCの出資から新規事業を作り上げたメトロエンジンと凸版印刷。ローンチしたものの、デリくるを成長させるのも、新たな新規事業を創っていくのもまだまだこれからです。デリくる、メトロエンジン、そして凸版印刷のCVC活動に、今後も是非ご注目下さい。凸版印刷のCVCへのお問い合わせがある方は、こちらからお願いいたします。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、写真:taisho、編集:pilot boat)

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