【前編】メガベンチャーと大企業CVCのタイアップセミナー 凸版印刷×ユニファ「CVC担当者が語るシナジーのリアル」

2020年10月29日(木)18:00-19:00開催にされたJstartup様、Venture Cafe Tokyo様のイベント内にてリブ・コンサルティング様が主催のウェビナー「ついに実現!メガベンチャーと大企業CVCのタイアップセミナー!」の凸版印刷に関連する部分を抜粋して記事化した前編となります。長文とはなりますが、ぜひご一読ください。

■登壇者プロフィール

登壇者名:朝田 大氏
会社名:凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター センター長

登壇者名:土岐(とき) 泰之氏
会社名:ユニファ株式会社 代表取締役CEO

登壇者名:権田 和士氏
会社名:株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役

登壇者名:坂田 卓也氏
会社名:凸版印刷株式会社 事業開発本部戦略投資センター課長

120年の歴史を持つ総合印刷会社「凸版印刷」では、2016年よりCVCをスタート。国内のアーリー&ミドルを中心に、さまざまな分野のベンチャー企業と独自の事業シナジーを構築しています。今回はリブ・コンサルティング様主催のウェビナーにおいて、代表的な投資先である「ユニファ株式会社」の土岐社長と凸版印刷事業開発本部戦略投資センターの朝田・坂田が、CVCのリアルを語りました。投資に至った流れや取り組みの内容、シナジーを創るための重要なポイントなど、普段なかなかオープンにされることのない、協業の現場を知る内容です。スタートアップ企業と大企業が、どのようにコミュニケーションを取り事業を成長させてきたかなどをお伝えしていきます。

■2016年、凸版印刷の新しい取り組みとしてCVCが始動

「リブ・コンサルティング」権田氏(以下 権田):
今回、進行役で参加させていただきます、「リブ・コンサルティング」の権田です。よろしくお願いいたします。まずはトークに入る前に、各社の事業内容やCVCの現況などをお伺いしていきましょう。土岐社長からよろしいでしょうか。

「ユニファ株式会社」土岐氏(以下 土岐):
土岐です、よろしくお願いします。我々の事業は「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す」というパーパス(存在意義)で進めております。

現在、保育士不足が深刻な社会問題になっていますが、雑務の負荷が高すぎることも辞職の要因です。これに対して我々はAIなどの最新テクノロジーを活用した保育支援サービス「ルクミー」シリーズおよび「キッズリー」の提供や「スマート保育園®」構想を掲げ、先生方が本来の業務に集中できるお手伝いをしています。また、ヘルスケア、フォト、ICTなどのサービスをオールインワンで導入していただくことで、保育の現場改善とともに、園児のバイタルデータが集積できるという特徴があります。現在のサービス導入数としては、1万件を超えるご利用をいただいております。

権田:
1万件以上はすごいですね。凸版さんとのCVCはいつからですか?

土岐
凸版印刷さんに初めて株主になっていただいたのは2017年です。こちらの図で言うと「シリーズB」からです。昨年夏からは「シリーズC」として追加出資をいただき、子育てに関する社会インフラを作る挑戦を、一緒にやらせていただいております。具体的には、凸版印刷さんの100%子会社「フレーベル館」さんという保育の商社が、我々の強力な販売代理店になっていただいています。現在はその先にあるB to Cなども議論しながら、事業シナジーや様々な協業を実現しているという状況です。

権田:
では凸版印刷さんにもお伺いしましょう。朝田さんの方からお願いします。

「凸版印刷株式会社」朝田氏(以下 朝田):
弊社は大きく分けて、前出のフレーベル館が含まれる「情報コミュニケーション」、「生活・産業」、「エレクトロニクス」という3つの事業から構成されています。この中の情報コミュニケーションが、デジタルトランスフォーメーション(DX)のど真ん中となります。
※詳しくは、印刷だけじゃない!?凸版印刷が行っている事業内容と成長領域の記事へ

2016年、若手数十名が集まり「次のステージにおいて凸版印刷がどういう方向に向かって行くべきか」について喧々諤々の議論を行い、新しい事業領域の設計がなされました。それがこれら4つの定義です。

ユニファさんとはこの中の「健康・ライフサイエンス」市場をどう創っていくのか、必要な投資をしながらどうバックキャストしていくのかを考えています。凸版印刷としては、このような取り組みを開始して5年が経っている状況です。

権田:
朝田さんの所属は事業開発本部というセクションですね。ずっとそちらですか?

朝田:
いえ、以前は経営企画という部署で10年以上M&Aを担当していました。現在の事業開発本部は、どちらかというとビルドするほうです。投資と共に研究開発(R&D)も推進していく部門で、この5年で40社強のマイノリティ出資を実行してきました。コロナ禍の外部環境変化においてデューデリが難しい状況ではありますが、積極的に投資活動を進めています。

権田:
凸版印刷さんは、創業115年目でCVCを始めたんですね。それはベンチャーとのオープンイノベーションという観点からだったのですか?

朝田:
そうですね。従来は近距離、地続きの投資をしていくことがほとんどだったのですが、それでは世の中の流れに合いません。そこで、どうにかこの仕組みを変えさせてくれと、2016年のタイミングで切り出したのが始まりです。

権田:
最初から朝田さんが責任者という形でやってらっしゃるのですか?

朝田:
実は、昨年社長に就任した麿(まろ)が当時の経営企画のトップでした。彼のもと、ここにいる坂田と私、あともう1名でこの仕組みを立ち上げた形になります。私はそれ以降、責任者をさせていただいています。

 

■提携のスタートは100%子会社「フレーベル館」から

権田:
では、いよいよ調達の話から始めましょうか。ユニファさんは、2015年に「シリーズA」で3億円の調達。2年後に「シリーズB」で10億円。さらに2年後に「シリーズC」で35億円ですね。特徴としてCVCが多いなという感想ですが、どういう戦略だったのでしょうか。

土岐:
我々の事業は、子育てや保育に関わりますので、単なるVCではなくさまざまな事業の出口があるだろうと考えた部分が大きかったのです。その意味では、「シリーズB」からお世話になっている事業会社のLITALICOさん。こちらは子どもの発達障害についてさまざまなサービスを行う会社で、中長期の連携ができるのではないかという考えがありました。

また、名古屋のエイチームさんはゲームやいろいろな事業を展開しておられますが、我々は当時IoTの事業をやっており、IoTの知見を使って協業ができるのではないかと考えました。まずは我が社の事業に共感をしていただき、その上で何かご一緒できればという軸で、VC以外の事業会社の方ともお話をさせていただいた結果になります。

権田:
その中でも、特に凸版印刷に期待されたことはありましたか。

土岐:
2016年にはもう、販売代理店のフレーベル館さんと協業がスタートしていました。ただ、フレーベル館さんは歴史が100年以上ある老舗。一方の我々は当時創業4~5年の会社で「信用ならん」と、あまり取りあってもらえてなかったです(笑)。

権田:
なるほど(笑)。

土岐:
そんな時、ジャフコさんの仲介で「フレーベル館の親会社の凸版さんにCVCがあるよ。しかもいろいろ連携できるよ」と、話を聞かせていただきました。フレーベル館さんとの協業を、より進化させていくためだったというのが始まりです。

権田:
では、販売代理店として事業の提携が始まっていたところに、資本業務提携を狙って凸版印刷にアタックをしたという形ですかね。フレーベル館さんの動きは、変わりましたか?

土岐:
実は……本当に変わりました。これは、新しくIoTの体動センサーを出したタイミングというのもあったと思うのですが、会社同士の業務提携の中で、明確にそれぞれの役割を決めたり、その後のステアリングコミットをどうしていくかなどを決めたり。かなり具体的に決めていただきました。お陰で「シリーズB」以降というのは本当に上手く行きまして、その成果を大きく残すことができたと思います。

 

■決め手は土岐社長の情熱あふれる「プレゼンテーション」

権田:
凸版印刷さんサイドからも伺いたいのですが、最初に接点を持ったのは坂田さんと朝田さん、どちらですか。

「凸版印刷株式会社 坂田氏」(以下 坂田):
厳密に言うと朝田さんと私が同時に、ジャフコの藤田さんからご紹介いただいて、土岐さんのプレゼンを聞きました。

権田:
凸版さんの思惑と結構フィットしたということなんですよね? 先ほどの投資カテゴリーという観点からも。

朝田:
正直「保育」という市場そのものを、ものすごく狙っていたかというと、そうではなかったです。でも、その時の土岐さんの情熱とパワーに圧倒されまして。あれは、記憶に残るプレゼンでした。

権田:
そんな!

朝田:
すでにフレーベル館との提携があったのも大きかったですし、本当に真剣に保育のICT化を考えていた土岐社長との出会いは、千載一遇のチャンスでした。まさに、あのタイミングでしかなかったというくらい、いいお話を聞けたのです。そこから、どんなシナジーが設計できるか膝を突き合わせながら、何度も時間いただいて調整しながら実行へという流れでした。

権田:
そんなドラマがあったのですね。でも、いわゆる保育ってEXITまですごく時間がかかると思いますし、じわじわと伸びていく状況を想像するのですが、凸版印刷のCVCはまだ2年目だから「もっと早く成果が欲しい」とは思いませんでしたか? そこはやはり、土岐さんの情熱が勝ったのですか。

朝田:
仰る通りで、保育はIT化が進んでいない業界です。だから、ここへ投資をしてもデジタルトランスフォーメーションは難しいのではないかなと思った部分もあります。ただ、土岐さんは、しっかりこの業界を狙った市場を作ろうとしていましたし、ニッチを作ってその中での戦略をきちっと立てていました。しかも、記憶に残るほど素晴らしいスライドを見せていただきながらプレゼンを受けて、いわゆるBPRっていう言い方が正しいのかわかりませんが、「ビジネスのプロセスをどのように変えていくと業界が変わるのか」ということを本当に深く話していただきました。その結果、我々が持っている商材と連携すれば、パイを変えられるかもしれないと思ったんです。

土岐:
私が印象深かったのは、凸版印刷さんはVCと違って事業目線といいますか、一緒に事業を作っていく部分の質問に、現実味があったのが印象深かったです。実際、朝田さんや坂田さんも、長年トライ&エラーで事業をやってこられたからだと思うのですが、サービスに関しても顧客のターゲットや支払いの確実性とか、本当にこの事業が可能なのかという点を、徹底的に質問いただいたことを、すごく覚えています。

そして我々もそれに答えつつ、確かに保育業界は保守的ですが、それを実現するためにはフレーベル館さんの力が必要ですと訴えました。将来的に子どもたちのデータが集まって、それを使った新しいプラットフォームができるんです、と。凸版印刷さんの場合は、一緒にやる前提で話せたので、通常とは違う温度感があったものですから。

 

■2度目の出資!その意思決定に至るまで

権田:
「シリーズB」に関しては、まずお付き合いを始めてみましょう、という感じでスタートして。「シリーズC」は、これリードですか?

土岐:
そうですね。

権田:
シリーズCの調達総額約35億円というと、凸版印刷さんとしても大型の出資を行ったのではないかと推定されます。お付き合いが始まって、ここでもっと踏み込んで、凸版印刷CVCとやっていこうということですね。ユニファさんとしては何を期待されたのですか。

土岐:
フレーベル館さんとの協業に関しては、「シリーズB」の中で一定の成果が出ました。「シリーズC」では今までのサービスを統合して、プラットフォーム化していくということを目的としました。体動センサーだけでなく、写真などのサービスを統合した先に、新しいプラットフォームができて、さらにその先に育児支援やさまざまな、大企業が使ってくれるようなECができるかもしれないという仮説を持っていましたので、先を見据えた上で凸版印刷さんに支援いただいたという形です。

権田:
これは、凸版印刷さんにとっては大きな意思決定だったのではないですか。けっこうな金額だったのではないかと思うのですが。これはどういう判断でしたか?

朝田:
経営会議、取締役会議の中で本件は可決されましたので、弊社にとっては通常の意思決定です。新しい枠組みを作った2016年から、要は一段エンジンを上げただけなんです。どういう論点でシナリオを作ったかというと、さっき土岐社長からもありましたが、1段目は販売連携。短中期的にお互いが持っているリソースを出し合いながら、事業を作っていくというステージです。そして次のステージは、データがどのよう集積されていくのか、さらにそのデータを使って違うステージに上がっていく狙いです。

今の状況であれば、お互いの資産を持ち寄れば、もう少し高みを見られるのではないかと。そういう点を坂田と経営会議に上げて答申をしていました。いま振り返っても、熱い熱い経営会議でした(笑)。私にとっても思い出に残る経営会議の一つでした。そういう意味では、我々も経営陣もユニファさんという会社をリスペクトしていますし、新市場に対しての参入チャンスをもらったことに感謝しています。

 

■CVCのデメリットはパートナーシップ次第で変わる

権田:
いい話を聞かせてもらったところで、少し意地悪な質問になるかもしれないのですが、凸版印刷さんも純粋投資だけではなく、事業シナジーやリターンを狙う部分は当然あると思います。その中において、出資側の企業色に影響されてしまうとか、事業シナジーという点で、相手に合わせて対応しないといけないこともあるのかなと。いわゆる世間で言われる「CVCのデメリット」ですけれども、土岐さんの中で、感じられたことはありますか。

土岐:
本件に関しては、CVCのデメリットでよく言われる「株主だから言うことを聞け」というのは本当になかったことを明言します。きっと、弊社は恵まれていた部分が大きかったかもしれません。フレーベル館の社長は凸版印刷から来られた方で、事業の企画を長年やっておられた方なんです。そのため、業界のDXみたいな視座の高さを持っておられます。

例えば3社間のステアリングコミッティで「フレーベル館と組むのであれば、他の販売代理店と組むな」と言われるかなと覚悟していました。弊社としても、最初は事例を作るためフレーベル館さんのみで進めるつもりでしたが、「2年目以降は実績ができたんだから、他ともやってみたら」と許可をいただきました。さらに、B to Bでやっていく上で凸版印刷さんのツールを使わせていただいてます。

ですから、時間軸として、我々も何かやるときは最初にフレーベル館さんに相談するんです。そして最もよいものを凸版印刷さんやフレーベル館さんに提供させていただきます。とてもフェアにお付き合いいただいていますし、その結果、非常にいい形でのシナジーが生まれていると思います。

権田:
それは、いい話ですね! 非常にうまくいったパターンです。ちなみに、スピードに関してはどうでしたか? 100年の歴史を持つ企業だと、スタートアップとのスピード感は、かなり違うのではないでしょうか。CVCのメリットを生かしきれたのだろうかと、そこらの話をお聞きしたいです。

土岐:
正直なところ、フレーベル館さんに関しては、思っていたより時間はかかりました。ただ、それ以外の方法と比較した場合、CVCで組む方のメリットが非常に大きいのです。フレーベル館さんと1年でやることが、他社だと5年かかるという感覚です。だから、やはりお互いの目線を合わせていくのはすごく大事だと思っています。

実は、うちからフレーベル館さんに社員を出向させて、先方の視点を学ばせています。全国津々浦々にある営業拠点に常駐させて、一緒に働いて飯食って、みたいな。そういう立体的な形でやってますから、本当に難しいときは凸版印刷さんにも入っていただいて「じゃあ方向性どうする」みたいな、泥臭い話もします。もちろん、スタートアップのプライドが出て来ることもあります。でも、それはお互い守るべき資産が違うので、対話が前提だと思ってます。そしてトップだけでなく、根っこまで含めてやるのが大事だと思っています。

前編はここまでです。
後編では、凸版印刷のCVCチームについてや、投資のスタンスなど、ユニファさんの事例を絡めた話をしておりますので、ぜひご覧下さい!

凸版印刷では、ベンチャー企業・スタートアップ企業様との資本業務提携によるシナジー創出を目指しております。新事業を一緒に創っていくベンチャー企業・スタートアップ企業様と日々ディスカッションしておりますので、ご興味がある企業様は以下のリンクからお問い合わせください。
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