ベンチャー企業のコーポレートガバナンス|IPOを目指す上で気を付けるべきこととは

IPOを目指すベンチャー企業にとって、企業価値の評価に大きく影響するのが「コーポレートガバナンス」です。経営を管理統治する仕組みを意味する言葉ですが、他のビジネス用語と混同されやすく、曖昧に理解している人も少なくありません。本記事ではコーポレートガバナンスの内容を明確化し、取り組みの重要性を解説します。

ベンチャー企業がIPOを目指す上で気を付けるべきなこと

ベンチャー企業がIPOや事業の成長などを目指すにあたり、収益や規模の拡大はもちろんですが、いかに管理された経営を行っているかも重要なポイントです。成長著しい企業であっても、株主の利益につながらない経営であれば、上場申請時の実質審査で不適格と判断されたり、投資家からの資金提供を受けられない場合もあります。
特にIPOで上場をめざすベンチャー企業の場合は、「コーポレートガバナンス(企業統治)」が大きな評価基準とされます。コーポレートガバナンスは、会社を適正に経営しているか、株主の利益が守られているか、などを外部からチェックする仕組みであり、起業の段階からしっかり遵守していくことが望まれます。
なお、コーポレートガバナンスを実行するにおいて、基礎となるのが「コーポレートガバナンスコード」です。これはコーポレートガバナンスの原則や指針に当たるもので、2015年から金融庁と東京証券取引所で原案が公表されています。現在、東証一部と二部に上場する企業においては、このコードを遵守、または遵守しない理由の説明をすることが求められています。

東京証券取引所
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html

コーポレートガバナンスとは

「ガバナンス(governance)」は、英語で統治や支配という意味があり、コーポレートガバナンスは日本語で「企業統治」と表記されます。企業が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うために、経営を管理・監督する仕組みを指す言葉ですが、一般的には、企業における組織ぐるみの不正や、経営の暴走などを未然に防ぐ目的で、社外取締役や監査役など外部の管理者によって監視する仕組みを意味します。
コーポレートガバナンスには明確な定義がありません。そのため、金融庁と東京証券取引所が上項で触れた「コーポレートガバナンスコード」を指針として掲げており、原案は「株主の権利・平等性の確保」「適切な情報開示と透明性の確保」など5つの基本原則の下に、各原則30、補充原則38で構成されています。
コーポレートガバナンスは基本的にソフトロー(社会規範)であり、法的な罰則はありません。しかし、ベンチャー企業がIPOを目指す場合は、上場申請が承認された段階で有価証券上場規程により、証券取引所から「コーポレートガバナンスに関する報告書」の提出が求められます。資金調達の際の評価にもつながりますので、起業の計画段階から導入し、徹底しておくことが重要です。

コーポレートガバナンスが注目される背景

コーポレートガバナンスという言葉が聞かれるようになったのは、1990年代以降。バブル経済が崩壊した後の時代です。それまでは経営をチェックする仕組みはなく、企業の自浄能力に任されていました。しかしバブル崩壊後、証券会社の巨額損失補填や隠ぺい、銀行の利益供与など、国内大手企業の大規模な不祥事が相次ぎました。また、企業に対して統制力を持っていた金融機関も弱体化し、不良債権が大量発生したことで企業への貸し付けが消極的になり、経済全体が委縮しました。これが、後に「失われた10年」と呼ばれる、日本経済の深刻な停滞期です。
その後、このような窮状から経済を立て直すべく、2003年の商法改正で大企業に社外取締役(監査役)の選任が義務付けられるようになりました。さらに、経済がグローバル化するにつれ、海外企業に多い成果主義での人事評価を導入する企業が増え、それにともなう社外監査役の需要が高まりました。このような背景から、コーポレートガバナンスは経営の透明性を証明する評価基準として、重要視されるようになりました。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違い

コーポレートガバナンスと混同されやすいものに「コンプライアンス」があります。これら二つの言葉は同じ意味として使用されているケースもありますが、実際にはそれぞれ違うものです。コンプライアンス(compliance)は直訳すれば従順、追従、迎合などの意味を持ち、日本のビジネスシーンでは「法令順守」として使われます。さらに、法的に明文化されてはいない社会的な倫理や道徳、習慣などに従うことも、企業においてはコンプライアンスに含まれます。
コーポレートガバナンスとコンプライアンスは、どちらも企業が社会的責任(CSR)を果たすために不可欠なもので、法や倫理を遵守するコンプライアンスを正しく実行するための、経営を監査する仕組みがコーポレートガバナンスと考えられます。もし企業が法や倫理に抵触する不祥事を起こした場合、それはコンプライアンスに違反しており、コーポレートガバナンスが効いていない、ということになります。

コーポレートガバナンスと内部統制の違い

「内部統制」は、企業が従業員や経営に関係する者に向けて遵守を求める社内のルールのようなもので、上場会社の場合は、会社法と金融商品取引法により、内部統制の整備が義務化されています。
内部統制には、法令や倫理を守ることはもちろん、独自に構築した業務プロセスや、情報漏洩を防ぐための機密保持、上司による書類の承認など様々な企業ごとの規律が含まれます。経営の透明性や信頼性を向上させる目的として、コーポレートガバナンスと共通する部分があるため、混同しやすい言葉ではありますが、この両者には対象と実行者に明確な違いがあります。
コーポレートガバナンスの場合は、基本的に株主や取締役会というステークホルダーが実行者であり、企業を対象として外部から経営のチェックを行います。それに対して、内部統制の場合は経営者が実行者および責任者であり、対象は経営者本人、取締役会や監査役、その他、経営に関わる社内の人間すべてとなります。

コーポレートガバナンスの2つの種類

コーポレートガバナンスは、企業にどのような影響を及ぼすかにより「組織型」と「市場型」に分類されます。このうち、ベンチャー企業にとって重要となるのが組織型のコーポレートガバナンスです。責任追及という圧力が経営を健全に導くことで、事業の拡大および目指す出口への到達を実現します。

■ 組織型のコーポレートガバナンス

組織の内部体制により、経営陣を監視するのが組織型コーポレートガバナンスです。株主総会では、株主の意に沿わない経営者を解任して新しい経営者の選任をすることができます。また、取締役など経営者は会社に対して注意義務・忠実義務があり、それを実行せず損害が発生した場合には、損害賠償義務を負います。また、2006年施行の会社法第847条により、株主が会社に代わって取り締役などの経営陣に対し損害賠償を請求する「株主代表訴訟」が制度化されました。これにより株主は、法の下で経営者に責任追及をすることができます。

■ 市場型のコーポレートガバナンス

企業の業績が低迷した場合、上場企業であれば株価の下落という形で評価が下ります。そうなると株主の不利益に直結するため、経営陣に対して状況の改善が求められます。これが市場を通じて経営に影響を及ぼす市場型のコーポレートガバナンスで、それでも業績が改善されない場合はM&A(企業買収)が発動されることがあります。

コーポレートガバナンスの目的

コーポレートガバナンスの目的の中で、大きな柱となるのが「不祥事の防止」と「企業価値の向上」です。また、ベンチャー企業であれば、資金調達の際の情報開示においても、投資家からの信頼性が高まります。

■ 不祥事を未然に防止する

組織内での不正や粉飾など、不祥事を防ぐ機能として、コーポレートガバナンスは重要です。経営者は適切に情報を開示し、経営の透明性を確保するとともに、株主および外部監査役から求められた場合、説明責任を果たす必要があります。

■ 長期的な企業価値の向上

上場企業であれば株価上昇、IPOを目指すベンチャー企業であれば将来的な成長性など、経営者は株主の意向に沿い、最大の利益を生み出すことが求められます。

■ 資金調達、上場申請に必要

投資家や金融機関がベンチャー企業に投資、融資を行う際、コープレートガバナンスに則った情報開示を行うことで、経営の透明性や法令遵守において信頼性が高まります。また、上場申請する場合は証券取引所に「コーポレートガバナンスに関する報告書」を提出する必要があります。

コーポレートガバナンスが必要な理由

コーポレートガバナンスは、「経営と所有の分離」という概念に基づいています。これは、「株式会社の所有者は株主であり、経営者は所有者から経営を委託されている」という考え方です。ひと昔前はワンマン経営も少なくありませんでしたが、近年ではコーポレートガバナンスが徹底され、株主の意志を反映したガラス張りの経営が行われています。もし、企業にコーポレートガバナンスが導入されない場合、株主にはこのようなデメリットがあります。

・ 必要な情報が開示されない
・ 株主の権利や平等性が確保されない
・ 経営陣が暴走した際に抑止できない
・ 不祥事が隠ぺいされる可能性がある

特に規模が小さいベンチャー企業の場合は、株主の懸念を取り除いて建設的な意見交換を行うことが、成長のエネルギーになります。それがコーポレートガバナンスの最大のメリットであり、必要な理由と言えるでしょう。

コーポレートガバナンスの取り組み方

コーポレートガバナンスの取り組みは、企業の裁量に任されています。よく「ガバナンス強化」という言葉を耳にすると思いますが、企業価値を高めるために大手からベンチャーまであらゆる企業が、ガバナンス強化に注力しています。
まだスタートしたばかりのベンチャー企業や、非上場の企業などでは「必要なのかどうか」の議論もあるようですが、日本のビジネスがグローバル化するにつれて、コーポレートガバナンスは企業に対する評価基準として重要度を増すと予測されます。また、資金調達の際には投資家の判断基準にもなりますので、一刻も早く整備することをおすすめします。
以下の項目では、コーポレートガバナンスを導入する際に注意したい「取り組み方のポイント」と、社内でコードを策定するにあたっての「取り組み方の手順」について解説します。

取り組み方のポイント

コーポレートガバナンスは法的な縛りがあるわけではないので、基本的には自社の判断で実行して構いません。ただし、実際には金融庁と東京証券取引所から公表されている「コーポレートガバナンスコード」に従って策定する企業がほとんどです。これは、東証一部と二部では公表されているコードの遵守が求められていることが大きな理由のひとつですが、厳密には「遵守しない理由を説明できれば遵守しなくてもよい(コンプライ・オア・エクスプレイン)」とされています。
そのため、ベンチャー企業など規模が小さく経営にこだわりがあるような場合は、独自のコードを作って導入しているケースも少なくありません。もしもIPOで出口を考えている場合は、上場申請時に「コーポレートガバナンスに関する報告書」の提出義務がありますので、法律の専門家に相談して不備がないようチェックしておくことが肝心です。

取り組み方の手順

コーポレートガバナンスを導入する際、まず最初にやるべきことは、金融庁と東京証券取引所から公表されている「コーポレートガバナンスコード」の確認です。大企業の場合は社内に専門部署がありますが、ベンチャー企業などは法律の専門家を交えて自社のコードを策定するようにしましょう。外部からチェックを行う監査役や、業務執行と意思決定を隔てることで監査をスムーズにする執行役員の設置、透明性を確保する業務の可視化など、社内体制の整備も必要になります。

  1.  公表されているコーポレートガバナンスコードを確認する
  2.  社外の取締役、監査役の設置
  3.  執行役員制度の導入
  4.  コードに独自の項目が必要な場合には追加や修正をする
  5.  株主の利益につながっているかどうかを検討する
  6.  株主や取締役会、法律家の意見を求める
  7.  自社のコーポレートガバナンスコードとして策定
  8.  取り組みを社内外に周知徹底する
  9.  業務の可視化を強化する
  10.  コーポレートガバナンスを継続的に実行

まとめ

ビジネスが近代化、グローバル化するにつれ、あらゆる企業にとって不可欠な取り組みとなる「コーポレートガバナンス」。一度導入すれば終わりではなく、事業の成長に応じてアップデートをしながら、継続することで企業価値が高まります。ぜひ長期的な視野に立って、確実に進めていきましょう。

凸版印刷では、ベンチャー企業・スタートアップ企業様との資本業務提携によるシナジー創出を目指しております。新事業を一緒に創っていくベンチャー企業・スタートアップ企業様と日々ディスカッションしておりますので、ご興味がある企業様は以下のリンクからお問い合わせください。
TOPPAN×VENTURESサイトへ