TOPPAN CVCは2019年、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」などを運営する株式会社The Chain Museum(以下「TCM」)へ出資しました。
TCMはArtStickerの他にも事業を展開しており、今日の主役は、オフィスなどの空間プロデュースを手掛けるCoordination事業。TOPPANの環境デザイン事業部が手掛ける、オフィスやホテルなどの改修を企画から設計、施工まで請け負う空間演出事業「expace」と協業しています。その環境デザイン事業部は、自らのオフィス移転にあわせ、TCMが手がけるアートキュレーションサービスを導入しました。単に利用するだけでなく、自社の技術との親和性も大事にしたそうです。本記事では、オフィス移転にあわせ、両社がどのような協力をし、今後どのように協業していくのかを聞いていきます。
本記事には、以下の方々に登場していただきました(敬称略)。
・株式会社The Chain Museum Coordination Business Manager 芳賀 諭史
・株式会社The Chain Museum Project Manager 味戸 律子
・株式会社The Chain Museum Art Registrar コノンチューク・オクサナー
・TOPPAN株式会社 執行役員 生活・産業BU 環境デザインSBU長 三次 幸治
・TOPPAN株式会社 生活・産業BU 環境デザインSBU コンストラクション本部 空間企画部 Project Manager 森田 亜希子
・TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 次世代フロンティアビジネス創出センター 戦略投資部(CVC) チームリーダー 菅野 清太郎
・TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 次世代フロンティアビジネス創出センター 戦略投資部(CVC) 高橋 琢朗
組織のニーズに合うアートを購入・サブスクで提供
── 最初に、TCMについて教えてください。
芳賀(TCM):
TCMには大きく3つの事業があります。1つ目が、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」です。国内最大規模の現代アートのECサイトで、厳選な審査を通過した約3,500組の作家さんに登録いただいています。2つ目に、Gallery事業。国内4箇所にあるリアルなギャラリーから、アートとのより多様な関わり方を提案しています。
このオンラインとオフラインの2つの事業を運営する中で、自然と作家さんやギャラリーさんとのコネクションができました。それを活かして展開しているのが、我々が所属するCoordination事業です。Coordinationでは、現代アートを活用したホテルや商業施設、レジデンス、オフィスといった空間のプロデュースをしたり、現代アートのイベントを開催したりしています。

(左から)TCMの味戸さん、芳賀さん、オクサナーさん
味戸(TCM):
組織がオフィスなどの空間にアートを取り入れる際、ギャラリーに依頼すると、一般的にはそのギャラリーの所属作家を中心とした提案が行われます。一方TCMは、プラットフォーマーとして多様な企業のニーズに合わせ、ギャラリーに所属する作家から若手の個人作家まで、幅広いネットワークの中からご提案できる点を強みとしています。
── では、様々なアートを満遍なく取り扱っているのですね。
芳賀(TCM):
現代アートには全体として平面作品が多いため、我々の取り扱いもそれに応じて数が多くなるという事情はありますが、立体作品や空間そのものをアートにするインスタレーション、映像作品、写真など、幅広く取り扱っています。
味戸(TCM):
平面作品やポスターをオフィスなどに飾る組織は多いですが、立体作品を導入している例はまだ多くありません。でも立体作品があると対話のきっかけになることも多く、アートを置く意味がわかりやすくなります。今回、TOPPANにはそうした特性も踏まえ立体作品も取り入れていただきました。
オクサナー(TCM):
アートと聞くと購入するイメージが強いかもしれませんが、どんなに良いアートワークでも、ずっと飾っていて、時間が経つと見慣れてきてしまうものです。そのため、企業によっては、シーズンや場面に応じて交換したいというニーズがあります。これに応えるのが、アートのサブスクリプションです。購入すると資産になりますが、サブスクなら経費にしやすいという会計的な事情もあって、ご好評いただいています。

TCMとTOPPANの連携
── TOPPAN CVCがTCMに出資した理由を教えてください。
高橋(TOPPAN CVC):
TCMには、2019年に出資しました。同社がまだ2期目のシード段階のときです。印刷とアートは近いところがあって、例えばTOPPANは「プリマグラフィ」という、アート作品の複製原画を作るオリジナル技術をもっています。
とはいえ、印刷に関連するグラフィックデザイン分野のネットワークはあるものの、現代アートや立体作品とはあまり縁がありませんでした。TCMと組むことで、それらのネットワークが広がるだろうと期待して、出資に至っています。

(左から)TOPPAN CVCの菅野と高橋
── 両社はどのような協業をしてきたのでしょうか。
菅野(TOPPAN CVC):
まず、TOPPANのクライアントネットワークを活かした販売連携です。TCMのArtStickerには美術館や美術展のオンラインチケット機能があるので、その営業の一部をTOPPANが請け負っています。プリマグラフィで作られたレプリカ作品をArtStickerで販売したりもしていますね。今後は、TOPPANが製造するパッケージにアート作品を載せられないか、検討していきます。
ところで、私は実は1年ほど、TOPPANに勤務しながら、TCMに兼業で出向していたんです。TCMから「TOPPANとの連携の効果を出すために、誰か出向してもらえないですか」とご相談いただいて、私が手を挙げて行くことになりました。ArtStickerの営業などを担当し、昔の同僚に頼んだり、TOPPANのネットワークを使いながら複数の美術館への導入に漕ぎ着けています。そういった経緯もあって、TCMとは今でも良い関係を継続できていますね。
── TCMは、TOPPANの環境デザイン事業部とも連携していますね。
三次(TOPPAN):
2025年、資本業務提携をしているスタートアップがいるということで、CVCからTCMを紹介してもらいました。我々は企業の建物やオフィス改装などを担っているので、その中でアートの提案をする、というのがわかりやすい連携です。
例えば、あるビルの共用部を改装するという案件では、1階のエントランス壁面にインパクトのあるアートを入れて、そのビルの価値を上げるような改装はどうかという提案をお客さまにしました。他にも、いくつかの案件に共同でコンペに参加しています。
味戸(TCM):
アートによる空間価値の向上はこれまでもご提案してきましたが、TOPPANが提供するトータルソリューションの中にアートを入れるという意味では、普段とは若干趣が異なりましたね。
森田(TOPPAN):
TOPPANの企業理念の中には「彩りの知と技をもとに」という素敵な一節があるんです。彩りのある世界を創ることの体現として、障がい者の自立支援をする障がい者アートイベント「可能性アートプロジェクト」なども展開しています。それもあり、私は元々TOPPANとアートという文脈に関心がありました。
そういった背景もあって、TCMを紹介される前から、実はその存在は知っていたんです。他社に素敵なアートが入っているなと気づいて、調べたら「The Chain Museum」の名前が出てきて、ビジネスモデルも面白いと感じていました。

(左から)TOPPAN 環境デザインSBUの三次と森田
TOPPANのexpaceにアートを加えて価値を高める
三次(TOPPAN):
また、TOPPANの環境デザイン事業部では2020年から、マンションエントランスやオフィス、ホテルなどの改修を企画から設計、施工まで請け負う空間演出事業「expace」を展開しています。
森田(TOPPAN):
環境デザイン事業部は、2026年に秋葉原から小石川の新オフィスへ移転しています。以前から「ライブオフィス」としてお客さまにexpaceを紹介してきたのですが、移転を機にその機能をアップデートすることになりました。そこで、新たな付加価値としてアートを導入すべきだと考え、TCMと連携したアート導入を会社に提案しています。TOPPANのお客さまに、TCMがセレクトしたアートを実際に体験していただくことが今回の狙いです。
芳賀(TCM):
この広さのオフィスに対するアート数という意味では、他社と比べて決して多いわけではありませんが、平面も立体も映像もあるという、ジャンルの幅広さは珍しいですね。
味戸(TCM):
ちなみに、作品のキャプションにQRコードが付いているので、それを読み込むと、ArtSticker上にある、このオフィス専用のページに飛んで、そこから作品のコンセプトや作家の情報などが確認できるようになっています。

三次(TOPPAN):
もちろんアートだけでなく、TOPPANやexpaceのソリューションも併せて紹介しています。例えばオフィス内にはいくつか「エクスクラメーションマーク(!)」が商材にプリントされています。今回のexpaceオフィスのコンセプトは「ミセル!ミタス!ツナグ!」で、大事なのは、ここにも「!」が付いていること。会社のキャッチフレーズである「TOPPA!!!TOPPAN」にも!は使われており、TOPPANは要所でエクスクラメーションマークを使うんですね。
例えば以下の写真にあるのは、TOPPANの建材のマテリアルウッドという、再生木材を使ったベンチです。いわゆる「隠れミッキー」を探すようにライブオフィス内で「!」を探していただき、見つかったら建材などの紹介をするという工夫をこらしています。

── 自社を実験場として、アートを導入していったわけですね。どのようにアートを選定したか、流れを教えてください。
森田(TOPPAN):
TOPPANのPurpose & Valuesは「Integrity」「Passion」「Proactivity」「Creativity」で、これにかけたコンセプトが良いだろうという話になり、今回は「Creativity」を選びました。
味戸(TCM):
改装前にここに現地調査で来て、「大きい窓もあるし、窓際に何か置きたいですよね」「導線とアートがぶつからないように」と、色んな相談をしました。「Creativity」でいこうと決まったら、アートセレクターであるオクサナーからCreativityや想像力を掻き立てる作家さんや作品を提案してもらい、森田さんたちと一緒に、実際に飾る作品を決めています。
オクサナー(TCM):
Creativityということで、想像力を刺激する作品や少し不思議な作品、つまり「これは何だろう?」と考えさせるような作品を選定しました。映像作品や立体作品、平面作品を提案して、TOPPANの「ダブルビュー」(後述)という商品と映像作品を組み合わせた展示をしたいということで、現代アート的というか、夢や幻想の世界を表現している作品も選びました。
森田(TOPPAN):
ダブルビューは、TOPPANが建装材事業で培ってきた木目などの表現方法を進化させた透過加飾技術を使用した化粧シートで、我々のイチ押しの商材です。一見すると、下写真のように普通の木目の壁に、映像が投影されているように見えますよね。

(撮影:志摩大輔)
でも実際には、プロジェクターなどはないんです。実は、木目の後ろにデジタルサイネージがあって、それが浮き上がるように見えるんですね。
芳賀(TCM):
映像作品やメディアアートは、出力するためのハードウェアがないと、そもそも展示ができません。展示の幅が広がるという意味でも、ダブルビューは現代アートとしても嬉しいプロダクトですね。
オクサナー(TCM):
これまでもプロジェクターやモニター、プロジェクションマッピングなどを使った作品はありましたが、ダブルビューはまだデジタルアーティストの中で知られていないので、作家さんも新しい表現方法を楽しんで考えてくれました。まだまだ創作意欲を刺激してくれると思います。
味戸(TCM):
今回は立体作品も映像も平面もすべて取り入れたいとのことで、全体的に選定は大変でしたが(笑)、その中でも新しいプロダクトであるダブルビューを使う作品を選ぶのが最も大変でしたね。
森田(TOPPAN):
一見木目調のただの壁なのに、近づくとふわっとアートが出てくるという体験ができるよう工夫しました。
味戸(TCM):
今回も、アートはサブスクリプションで提供しているので、半年毎に変えられます。今回はテーマにCreativityを選びましたが、次回は別のパーパスを選んでも良いし、パーパス以外をコンセプトに選んでも良い。次回をどうするか、今話し合っているところです。
高橋(TOPPAN CVC):
定期的にアートを入れ替えるというのはやっぱり面白いですよね。今回はTOPPANのPurpose & Valuesから作品を選んでいただきましたが、「次の半年はどう変わるんだろう」と変化も楽しめるのは良い点だと思います。
芳賀(TCM):
今回はTCMのオクサナーがセレクションを担当して、彼女がTOPPANの企業理念や空間特性などを加味してアート作品を選んでいます。逆に、企業から「次はこういうものがいい」というリクエストをいただいて、擦り合わせをしながら提案するかもしれません。いくつか候補を出して社員に選んでもらう投票制のような選び方もありえますね。

── 最後にTCMとTOPPANの協業についての今後の展開を教えてください。
芳賀(TCM):
近年、課題解決やソリューションの一つとして、アートを求める組織は少なくありません。ただ、現代アートには文化的な側面があって、商用的なものとは相性が必ずしも良いわけではないんです。それに、アート自体はパワーがあるものの、アートだけで課題を解決できるというわけでもありません。必要なのは組織の状況や課題を認識し、トータルなソリューションを提案することです。
その点、TOPPANは様々な商材やアセットを抱えています。そこに現代アートを加えられれば、解決できる課題の幅が広がるはずです。今後もそういった形で色々なシナジーを生み出していきたいですね。
三次(TOPPAN):
アートはオフィスの大きな武器になると思っています。今後もよろしくお願いします。
(取材・執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:ソネカワアキコ)

