自分たちはアバターの技術開発を。社会実装は様々な業界に根を張るTOPPANと|AVITA×TOPPAN

TOPPAN CVCは2021年、アバターや生成AI技術を活用したサービス開発を行うAVITA株式会社と資本業務提携契約を締結しました。AVITAの展開するアバター接客サービス「AVACOM」は、小売店や観光案内所、駅、空港などに設置され、導入企業の業務効率化や省人化に貢献しています。

そんなAVITAとTOPPANは2025年に共同で、「AIファッションモデル プロモーション&接客 DXソリューション」の提供を開始。リアルモデル起用の課題を乗り越えたサービスの提供を目指します。

両社が共同開発したソリューションの内容や活用事例、解決する課題はどのようなものなのか。当該ソリューション販売を中部事業部が牽引した理由は。AVITA取締役副社長COOの西口さんと、TOPPANの徳野と姫路、CVCの菅野に聞きました。

※本文中、敬称を省略しています

アバターで業務を効率化。人の仕事の幅を広げる効果も

━━ AVITA(アビータ)株式会社(以下「AVITA」)の提供するサービスについて教えてください。

西口(AVITA):
AVITAでは、大きく2つのプロダクトを展開しています。

⻄⼝ 昇吾|NISHIGUCHI Shogo
AVITA株式会社 取締役副社COO
AVITA株式会社 創業者/取締役副社長COO。City University of Londonなど複数の海外研究所で研究に従事。2017年に日本テレビに新卒で入社し、社長室でVTuber事業を立ち上げ、共同代表に就任。2021年に石黒浩教授と共にAVITA株式会社を創業。アバター接客サービス「AVACOM」、AIロープレ支援サービス「アバトレ」などを開発・提供し、企業のDXを支援。大阪・関西万博 「いのちの未来」メタバースアドバイザー。三重県明和町デジタルプロジェクトPM。

西口(AVITA):
最初にリリースしたプロダクトは、アバターと生成AIを活用したリモート接客サービス「AVACOM(アバコム)」です。導入企業とそのお客さまとのコミュニケーションをアバターで効率化し、企業の人手不足解消に貢献します。

━━ AVACOMの活用事例を教えてください。

西口(AVITA):
小売店や観光案内所、宿泊施設、駅・空港などに設置されていて、人手不足解消だけでなく、多言語対応強化、観光客への情報提供といった目的でも活躍しています。

近年はセルフチェックインシステムを用意している宿泊施設なども増えていますが、シニアを中心に使用を躊躇う方も少なくありません。今までは人間がサポートしていましたが、AVACOMを導入することで、アバターがお客さまをサポートできるようになります。そうすると常時人を配置する必要がなくなるので、企業にとっては人手不足解消やコスト削減に繋がる、というわけです。AVACOMは例えば一部のローソンに導入いただいています。


ローソンに導入されているAVACOM (提供:AVITA)

西口(AVITA):
AVACOMは、面白いところでは保険販売で効果を挙げています。オンラインで保険相談をする場合、利用者は顔写真やプロフィールを見て誰に相談するか選べるようになっているのですが、多くの方がアバターを選ばれているんです。ちなみにアバターは(リアルの人間風ではなく)キャラクター的な容姿をしています。

保険を相談する際には「年収を教えてください」「タバコを吸いますか?」「持病を教えてください」といったプライバシーに関する質問にも回答しなければならないので、人間よりもアバターの方が話しやすいと感じる方が多いようです。

西口(AVITA):
AVITAが提供するもう一つのサービスは、アバターAIロープレ支援サービス「アバトレ」です。仮想の顧客をAIアバターが演じ、それとの会話を通じて商談などのコミュニケーショントレーニングができます。プロフィールシート(年齢・性別・性格など)を用意すれば、多様な性格のアバターを瞬時に用意でき、いくらでもロールプレイングができるため、短期間で接客・営業経験を積めます。ロールプレイング後には、AIが評価・結果をフィードバック。社員の営業トレーニングなどに使われています。

━━ AVACOMもアバトレも、アバターを用いて人間の仕事を代替しているんですね。

西口(AVITA):
人間の仕事をサポートしている形ですね。AVITAは人間の仕事をAIで完全に置き換えたいと考えているわけではありません。AVITAのビジョンは「アバターで人類を進化させる」。むしろ人の居場所や仕事の幅を広げたいと考えています。

というのも、テクノロジーが普及すると、人の仕事は減るどころか増えていくはずです。産業革命では機械の導入によって新しい仕事や産業が生まれました。同様に、アバターで新しい仕事や産業を作りたいと考えています。

例えばアバターを使えば、障がい者やシニアといった外出困難者も働く機会を得られます。実際、先述したローソンでは、スウェーデンにいる日本語話者が時差を利用して日本の深夜時間に働けるようになりました。このようにAVACOMは、接客するだけでなく、人の雇用と新しい働き方を生み出すサービスなんです。

AVITAとTOPPAN、最初の協業はAIファッションモデル

━━ TOPPAN CVCがAVITAに出資した経緯を教えてください。

菅野(TOPPAN CVC):
AVITAの創業者で代表の石黒浩さんとTOPPANの経営層が以前からの知り合いということもあって、紹介いただき出資検討しました。TOPPANは以前からチャットボットにアバターを組み合わせてコミュニケーションを図るといったサービス開発を進めていたこともあって、AVITAとは親和性が高いと感じ、出資に至っています。

菅野 清太郎|KANNO Seitaro
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ビジネスイノベーションセンター  戦略投資部 事業共創チームリーダー
2007年に凸版印株式会社(現TOPPANホールディングス)に入社。出版社を中心とした営業部門に従事。その後、広告・キャンペーン・展覧会の展示などコンテンツに関わる企画・事業開発業務を経て、2021年に現部門に異動。スタートアップ各社との資本業務提携・事業開発、特にTOPPANグループとの共創推進を担当。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了。

西口(AVITA):
AVITAは技術開発をしている会社ですが、この技術をクライアントに導入して社会実装していくためには、業界や企業ごとの深い理解が必要です。しかしスタートアップはリソースが限られているので、自前でそれをやり切るのは難しい。その点TOPPANは昔から、様々な業界や企業にパートナーとして密接に関わってきた企業です。色んなビジネスも展開しているし、AVITAのパートナーになってもらえれば心強いと感じていました。

菅野(TOPPAN CVC):
AVITAとの具体的な提携の成果として、AIファッションモデルを使ったプロモーション・接客DXソリューションをリリースしました。

企業のマーケティングは、多様なシーンでリアルのモデルに支えられています。しかしモデルのスキャンダルリスク、出演契約の複雑さ、限られた利用用途といった課題があるのも事実。一旦契約してしまうと、世界観や訴求メッセージを変えて再撮影するのも大変です。

そこで我々は、AIアバターを企業のマーケティングに使えるようにしました。例えば企業がAIモデルを活用した広告を打つ際に「モデルの髪を長くする/短くする」「女性/男性」と様々なパターンを作成し、最もコンバージョンが高いものに予算を割り振るといった使い方を想定しています。

菅野(TOPPAN CVC):
導入第一弾となったのが、TOPPANの中部事業部が担当している、本社を愛知県名古屋市に置く株式会社あかのれん(以下「あかのれん」)です。

TOPPANとAVITA、「AIファッションモデルプロモーション&接客 DXソリューション」を提供開始

https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2025/01/newsrelease250128_1.html

菅野(TOPPAN CVC):
TOPPAN CVCから出資をしてすぐ、社内向けにAVITAのソリューションを紹介するウェビナーを開催したんです。西口さんに登壇いただきましたね。そうしたら徳野から問い合わせがあったんです。AVITAのサービスに興味があると。

徳野(TOPPAN):
そうなんです。現在は東京に異動してしまったのですが、私はAVITAとの案件を担当した当初は中部事業部の所属でした。

セミナーの案内が来たのは、AIファッションモデルが世の中に登場し始めたころ。社会課題を解決できるという意味でも面白いなとは思っていましたし、関心のありそうな中部の顧客も頭に浮かんでいました。そんなとき、CVCがAVITAに投資をしたと聞いたんです。投資したということは、会社を挙げてAVITAがいいサービスだと言ってくれたようなものですよね。それでCVCに連絡したんです。

徳野智弘|TOKUNO Tomohiro
TOPPAN株式会社 ビジネストランスフォーメーション事業部 エクスペリエンスデザイン第一本部 デジタルマーケティング部3チーム
2003年に凸版印株式会社(現TOPPAN株式会社)に入社。中部事業部営業部門で出版やメーカーの販売促進業務を担当。その後、企画部門や新設のダイレクトマーケティングのコンサルタントを経て、通販事業支援や流通業界向けのCRMデータ分析・運用改善施策に携わる。中部事業部でデジタルマーケティングチームにて顧客企業のDXを推進すると共にAI活用の導入支援を行う。2025年より現部署へ異動し、AI推進プロジェクトを担当。

協業の役割分担

姫路(TOPPAN):
あかのれんの事例では、AIモデルを使って同社のPR動画を制作しました。AVITAがAIアバターと動画を制作し、TOPPANは企画設計や撮影・コンテンツの編集制作から展開まで全体の管理を担当しています。

姫路 麻友|HIMEJI MAYU
TOPPAN株式会社 ビジネスプロデュース第二本部デジタルマーケティング部4チーム
2023年に凸版印株式会社(現TOPPAN株式会社)に入社。企画部門でインフラや流通、自治体を中心にキャンペーンやコラム、PR動画といったコンテンツマーケに関わる提案や制作ディレクションを担当。2024年からは流通業界を中心に、AI活用の導入支援を実施。

西口(AVITA):
あかのれんは、AVITAとTOPPANのわかりやすい事例となりました。我々はファッションのことは詳しくわからないので、アバターは作れてもどういった価値を訴求すればいいのかがわからない。でも、あかのれんと付き合いの長いTOPPANと組むことで「こんな価値があるのでは」「こうすればコスト削減に繋がるはず」といった内容を先方に提案できました。

西口(AVITA):
他にも、TOPPANとは色んな協業をしています。例えばAVITAのサービスにはアバターを映すモニターが必要となる。それを一から共同でデザインしたり、なんならその筐体を置く空間のデザインをしたりすることもあります。TOPPANの様々な能力や資産を掛け合わせることで、AVITAのサービスが何段階も輝きを増す。そういう意味でも、TOPPANとの協業は非常に魅力的なものになっています。

西口(AVITA):
ちなみに、徳野さんたちは商談時にも「AVITAさんのクオリティはすごくて…」とクライアントに説明してくれて、嬉しく思っています(笑)。

徳野(TOPPAN):
すっごく推していますよ。特に中部事業部では(笑)。今は東京でも。

西口(AVITA):
(笑)。でもこれは大事なことだと思っていて、AVITAの開発する技術は「この機能はある」「これはない」といった表みたいなものにしてしまうと、他社と似たようなサービスに見えてくると思うんです。でも実際にはサービスの使いやすさや機能のレベルのようなUXの観点があるわけで、その点を外部の目からクライアントに説明してもらえるのは助かりますね。

徳野(TOPPAN):
中部事業部のような地方エリアの担当者からすると、実際に投資先のスタートアップの経営者に会う機会は、どうしても少なくなってしまうんです。それでも今日のような取材の機会までいただいて、期待をしていると言われると、頑張って成果を出さなければならないという気になりますね。

西口(AVITA):
CVCはキャピタルゲインだけでなく、事業シナジーも求めて投資しますよね。とはいえ、投資部門と事業部門が分断されているケースも多く、実際にシナジーを生み出すのは大変そうです。

その点TOPPANは、CVCと事業部門が積極的に連携してシナジーを出そうとしています。かなりレアなケースなのではないでしょうか。

姫路(TOPPAN):
中部事業部ではあかのれんの事例に留まらず、他のクライアントにもAVITAのサービスを展開しようとしています。それで中部事業として2週間に1回、西口さんに30分時間をいただいて、案件の相談をしているんです。海外を含めた最新の事例を紹介していただいたりして、ある業界や企業の課題をどうやったら解決できそうか、議論を重ねています。

西口(AVITA):
当初は散発的・案件ベースで話をしていたのですが、正直、なかなか話が進まない案件も少なくありませんでした。そんな中でも、中部事業部のチームやCVCと連携する中で、だんだんと形になる案件が増えてきたんです。一度、前に進み始めると、徐々に関係者が積極的に協力をしてくれるようになりました。

徳野(TOPPAN):
そうこうしていたら、私が東京に赴任したこともあって、この会議で東京の案件が議題に上ったり、関西のメンバーが参加したりするようになてきました。今では全国のメンバーがAVITAのサービスをTOPPANのクライアントに導入すべく、この会議に参加しています。

西口(AVITA):
僕は基本的には、定例会議を設けることはほとんど断っているんです。でも、出張でヨーロッパにいようが中東にいようが、TOPPANとのこの会議だけは絶対に参加しています。それだけTOPPANとの連携に本気なんです。

本気だからこそお互いに本音ベースで言い合う会議をしています。最近も「予算の都合で失注しました」と言われた時は「極端なことを言うと、100円だったら導入してくれたと思うんだけど、 いくらオーバーしたんですか?」「本当に予算の問題ですか? 価値が訴求できなかったから価値に対して価格が見合わないということではないですか?」という話をしていました。単に失注しましたというだけでは次に繋がりません。「失注したとしても理由だけは確認してください」とお願いしていて、そうすることでチームとしてレベルアップしていき、次はより良い提案ができるようになるんです。

30代のスタートアップの人からそんなキツいことを言われたら嫌だろうと思いますが(笑)、結果が出れば、最後は全員が幸せになると信じているので、お互いに言いたいことは言い合うということは対社外だろうと大事にしています。もちろん全社に対してではなく、TOPPANのようにそれに応えてくれるところだけですけどね。

CVCの他の投資先とも連携を

── 両社の今後の展開を教えてください。

菅野(TOPPAN CVC):
AVITAのプロダクトを世に広げ、かつTOPPANの売上げにも繋げることが当面の目標です。その先には、両社で新しい事業や価値を創造したいですね。詳細はまだ公開できないものの、両社で今議論を重ねているところです。

西口(AVITA):
だいぶ言葉を選んでいただきましたが(笑)、結構深い連携を考えていますよ。

ところで、TOPPANは今かなりのスタートアップに投資していますよね。

菅野(TOPPAN CVC):
2025年3月時点で、約70社に投資しています。

西口(AVITA):
とすると、投資先の様々なソリューションを組み合わせられると思うんです。実際、今TOPPANの出資先のスタートアップとAVITAで協業の相談をしています。そこにディストリビューションやハードの設計面でTOPPANも加わっていただければ、心強いです。

菅野(TOPPAN CVC):
ちょうど3月にTOPPAN CVCの出資先交流会も開催しました。

西口(AVITA):
別の出資先から「TOPPANとこんなことをしている」「TOPPANはこういうリソースもある」といった話を聞いたのですが、結構知らないこともあるんですよね。まだまだ連携できることがあると思います。

CVCの投資先とTOPPANの事業部門が集まる懇親会を開催

西口(AVITA):
ところで、2025年4月から万博が始まります。リアル会場だけでも2,800万人が来場すると言われていて、これは世界中にアバターを知ってもらえるチャンスです。AVITAのアバターだけでも10カ所ほどの会場に置かれる予定で、アバターによる社会変容や、社会課題の解決する様子を世界にアピールしたいと考えています。

海外展開について、現在は僕が1人で世界各国に突撃しているところですが、当然限界はあります(笑)。TOPPANとコラボレーションや商品開発をして、世界にチャレンジしていきたいですね。ぜひご協力をお願いします。

菅野(TOPPAN CVC):
こちらこそ、よろしくお願いします。

── 西口さん、本日はありがとうございました。TOPPAN CVCでは引き続き、AVITAを応援していきます。

(取材・執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:ソネカワアキコ)