メーカー向け研究開発支援で川上を押さえる。血糖値予測AI「グルコースフライト」とパッケージ部門の協業|ザ・ファージ×TOPPAN

TOPPAN CVCは2024年9月、個別化された血糖値コントロールソリューションを提供する株式会社ザ・ファージ資本業務提携契約を締結しました。同社は糖尿病診療支援サービス「glucose flight(グルコースフライト)」などを提供するスタートアップです。

TOPPANで本協業を担当するのは、パッケージソリューション事業部。その名の通りパッケージの販売などを担当する部署で、一見、糖尿病との関わりは遠いようにも感じます。それにもかかわらず、なぜ両社は提携をするに至ったのか。両社の狙いは何か。ザ・ファージの徳永さん、TOPPAN パッケージソリューション事業部の森、TOPPAN CVCの藤村に聞きました。

ザ・ファージの徳永さん(右)、TOPPAN パッケージソリューション事業部の森(中央)、TOPPAN CVCの藤村

正確な血糖値測定から糖尿病の診療を支援

── 最初に、ザ・ファージの紹介をお願いします。

德永(ザ・ファージ):
ザ・ファージは医療データ産業を再構築する生体情報駆動型のAIエージェントを開発するスタートアップです。現在は、食後血糖に向き合う行動変容アプリ「glucose flight」などを提供しています。

德永 翔平 | TOKUNAGA Shohei
株式会社ザ・ファージ 代表取締役社長

1989年生まれ。東京都出身。青山学院大学卒業後、医療機器メーカーの日本支社立ち上げスタッフとしてキャリアをスタート。次世代医療機器の開発から上市をリードし、生体情報センサを用いた新規医療機器の社会実装や、同機器を用いた新規診療報酬改定のための治療ガイドラインの構築・改訂の経験を持つ。日本進出後、事業撤退の危機にあった生体情報センサのビジネスを 1 年で黒字化させ、その後 3 年間に渡り、世界一の販売実績で国内外から合計 4 度の受賞、2 度の学会発表を通じて CASMED 社の Edwards Lifesciences 社による買収に貢献 。2021年 血糖値予測AIの開発を行う株式会社ザ・ファージを創業。

德永(ザ・ファージ):
ヘルスケアにおいては近年、予防の重要性が謳われていますが、ROIがわかりにくい(または低い)という課題を抱えています。これに対しては、例えば以下のようなソリューションが考えられます。すなわち、①細かなデータを取得できるデータ収集基盤の整備、②データを利用した生活習慣病などの疾患リスクの発症予測、③人に代わるAIエージェントの利用です。

これらのソリューションを実現するため、ザ・ファージは2つのビジネスモデルを展開しています。データを取得するBtoBtoCと、データを販売するBtoBです。BtoBでは、BtoBtoCで取得した細かなデータを使った保険引受けの予測AIや食品の解析業務を、保険会社や製薬企業、食品メーカーなどに提供しています。

BtoBtoCとして提供しているのが、糖尿病診療支援サービス「glucose flight」です。糖尿病患者の血糖変動から食事を評価・管理。生活データを可視化することで、医師との情報共有を円滑にします。これにより、患者は効率的に血糖管理に取り組め、医師は個々の患者に適した生活提案が提供しやすくなる、というわけです。

ユーザーは3つのアクションを取るだけでglucose flightを利用できます。まずは通常の食事記録です。次に、記録を元にした専門家からの改善案の合意。最後に、次の行動の選択です。自分の実際の体の情報に基づいて改善案が提示されるため、既存の食事アプリよりも継続性が高くなる点が特徴となっています。

人間による栄養相談やライフログデータの解析には時間がかかりますが、これをAIで代替し時間を短縮しているのもglucose flightのポイントです。

── ユーザーは血糖データをどのように取得するのでしょうか。

德永(ザ・ファージ):
ザ・ファージは2025年5月に、アボットジャパン合同会社との提携を発表しています。これにより、同社が提供する持続グルコースモニタリングデバイス「FreeStyleリブレ」から取得したグルコース値データが、自動でglucose flightに送られるようになりました。

德永(ザ・ファージ):
Apple Watchなどのウェアラブルデバイスとの連携も進めています。これにより、医師は患者の正確なデータを元に治療方針を立てられるようになりました。なおザ・ファージでは、糖尿病だけでなく、生活習慣病のためのツールも開発しています。

パッケージ部門から異動してきたCVC担当者が両者を繋ぐ

── TOPPAN CVCは2024年9月、ザ・ファージのプレシリーズAに投資しています。経緯を教えてください。

藤村(TOPPAN CVC):
TOPPANはこれまでも成長領域としてヘルスケアに注力してきました。その中でザ・ファージは、徳永さんが説明してくれた通り、AI技術を組み合わせながら血糖値などのヘルスケアデータを取得・解析する仕組みを確立しています。

TOPPANは食品メーカーなどとも取引があるので、ザ・ファージと組めば、こういった企業の研究開発の支援ができると考え、投資に至りました。

藤村 勇樹 | FUJIMURA Yuki
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ビジネスイノベーションセンター  戦略投資部
2016年にTOPPANホールディングス(旧凸版印刷)入社。生活・産業系の事業部にて、パッケージ・販促支援・体外診断用医薬品事業などの営業として従事。
営業での担当領域は医薬・医療機器・飲料などのヘルスケア業界を担当。その後、2024年にTOPPAN CVCへ異動。スタートアップ企業との資本業務提携による事業開発を推進。

── 資本業務提携をするにあたり、事業部側の担当者となったのが森さんですね。普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

森(TOPPAN):
生活・産業事業本部 パッケージソリューション事業部の森です。その名のとおり、パッケージ・包装資材をメインに取り扱う事業部に所属しており、その中で私は医薬・メディカル部門を担当しています。

藤村(TOPPAN CVC):
後述するように、今回の業務提携は、研究・企画・製造・販売という流れで言えば、上流の研究段階に関わるものです。森さんが所属しているのは営業部門であり、今回の協業のように研究段階から関わっていただくケースは多くはありません。

ただ、ザ・ファージへの出資検討に際して、食品・飲料の研究開発支援という話題が出たので、相談しに行ったんです。

森(TOPPAN):
実際、これまでCVCとの接点はあまりありませんでした。しかし、ザ・ファージは、データセットの取得や解析に関する高度なノウハウを抱えており、その技術を食品の研究開発などに活用しようとしている。その点に関心を抱きました。

TOPPANは食品や飲料業界に多くのクライアントを抱えています。パッケージ部門は、名前の通りこれらの会社にパッケージを提供してきました。しかし、パッケージという「ものづくり」を提供するだけでなく、ザ・ファージの技術を用いてクライアントの研究開発段階に入り込めれば、既存事業の活性化はもちろん、新たなマネタイズも見込める。これは魅力的な機会だと考え、今回の連携をスタートさせました。

森 治之 | MORI Haruyuki
TOPPAN株式会社 生活・産業事業本部 パッケージソリューション事業部 第一営業本部 第一部 部長
TOPPAN株式会社(旧凸版印刷)入社後、生活・産業系の事業部に営業として配属、医療医薬業界・トイレタリー業界を担当しパッケージの提案やプロモーションの企画を担当。現在はパッケージソリューション事業部でヘルスケア業界を担当、主に検査薬業界の攻略をメインに、医薬BPO・新事業の立ち上げに従事。

藤村(TOPPAN CVC):
実は私はパッケージ部門からCVCに移っているのですが、移籍前の上司が森さんだったんです。それもスムーズな連携に繋がりました。

「川上を押さえる」ための協業

── ザ・ファージとTOPPANがどのような協業をしているか、教えてください。

徳永(ザ・ファージ):
ザ・ファージとTOPPANは大きく2つの領域で提携しています。まず、ザ・ファージの研究開発をTOPPANに支援していただいています。

もう一つは、保健機能食品の研究開発支援事業の共同展開、つまり、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品といった「保健機能食品」を開発しようとしている食品メーカーさま向けの共同研究開発です。

この分野の事業開発をゼロから始めようとすれば、「専門人材の人件費」「検査キットや物品などの調達費」「プロジェクトマネジメント費」などのコストがかかりますが、ザ・ファージは既にこの領域に進出し、一定の成果を挙げています。とはいえ、事業を進めるにあたってはセキュリティやコールセンター・BPOといった運営面もカバーしなければなりません。その点TOPPANは、セキュリティに強く、BPO業務のノウハウも抱えている。両社が組むことで、強固な事業が構築できると考えました。

森(TOPPAN):
ザ・ファージはAIを開発するに当たり、ヘルスケアデータを大量に集めています。一方食品メーカーは、商品開発をするにあたって、データを取得するために試験をしているわけです。ザ・ファージがAI開発で培ったデータ取得・解析のノウハウを活用すれば、食品メーカーの商品開発サポートができるでしょう。その上でTOPPANは、裏で動くBPOなどを提供します。

データでマネタイズするのは簡単ではありませんが、これからヘルスケア業界で新しい事業を創出し、立ち位置を確立しようと思えば、避けては通れません。その点、ザ・ファージが貴重なヘルスデータを抱えているという点は非常に魅力的でした。

森(TOPPAN):
先述した通り、TOPPANはビジネスにおいて「川上を押さえる」ことを重要視しています。これは、商品開発の起点となる研究開発の段階からお客さまに入り込めれば、その後のプロセスで発生する情報も連鎖的に把握できるようになるからです。

パッケージ部門で言えば、ビジネスの早い段階から「パッケージも対応できます」といった提案ができるようになりますし、製造の目処が立っていなければ我々のOEMパートナーを紹介したり、製品によっては製造自体を受託できます。

ザ・ファージと協業することで、お客さまのビジネスに上流から関わり、新たな付加価値を提供できるようになる点に、ビジネスチャンスを感じました。

藤村(TOPPAN CVC):
TOPPANはパッケージのものづくりも強いですが、コンペになってしまうと、どうしても価格重視の勝負になってしまいます。しかし、上流の研究開発時点から関われるようになれば、そこ以外で勝負できるようになる。これまでとはちょっとズレたところでマネタイズポイントを作れるという意味でも、今回の協業は面白いと考えています。

健診施設での連携から新しいデータビジネスを

── 既に具体的な動きがあるのでしょうか。

德永(ザ・ファージ):
主に保健機能食品を扱っている食品メーカーさま向けに、共同で提案をしています。端的に言うと、まず森さんたちにフロントに立っていただき、ザ・ファージのビジネスを紹介させてもらう、という流れですね。

TOPPANという社名を出すと、色んな会社が門戸を開いてくれる。「この会社にこういう提案をするのはどうでしょう」と相談すると、人脈の伝手を辿ってちゃんと商談に辿り着けるというのは、本当にすごいことですよね。

森(TOPPAN):
TOPPANは様々な商材を扱っているので、資本関係のない企業の商品を代理店として販売しているケースも少なくありません。でもCVCから投資をしているということは、TOPPANもリスクを負っているわけです。「こういう便利なサービスがあるのでご紹介します」と「我々が投資をして一緒にやっているスタートアップ企業です」と説明するのでは、説得力が違います。

そうするとお客さまにも「TOPPANも本気なんだ」「責任を負う気があるんだ」と伝わるわけです。魂を込めていることが自ずと伝わるので、そうすると共同提案もしやすいですね。

藤村(TOPPAN CVC):
「ザ・ファージは解析に強みがあって、TOPPANはバックオフィスに強みがあり、一気通貫で対応できます」と説明できるので、提案の納得感は増しますよね。

德永(ザ・ファージ):
現時点では食品メーカーへの提案が多いものの、サプリメントや医薬品業界にも可能性はあると思います。医療系ではない健康器具や保険商品からも相談をいただいているので、ゆくゆくはそういった領域にも進出していきたいですね。

── 最後に今後の展望を教えてください。

德永(ザ・ファージ):
ザ・ファージは2026年、次世代健診施設を開設します。健康診断を受けられ、同時に食品の試験も受けられる場所です。ここでは例えば「ある乳酸菌飲料を継続して摂取した場合・しない場合に体重がどのように変化するか」といった試験ができます。センサーなども活用し、今まで取得できていなかった情報も取得していく予定です。ここでもTOPPANと協業を進めていきたいですね。

森(TOPPAN):
この施設が軌道に乗れば、ここで常にデータを取得できる状態になります。メーカーや新サービスを企画している企業からの需要も見込めるはずです。

藤村(TOPPAN CVC):
TOPPANとしても、この施設から新たに健康データを集められるようになるでしょう。我々はヘルスデータを活用したビジネスも進めているので、そのデータを活用して、また何か違うデータビジネスに展開させていきたいですね。

森(TOPPAN):
ザ・ファージの取り組みは、被験者プールの確保や傾向の事前把握といった、メーカーの調査・分析ニーズに合致しています。連携を深めることで、クライアントの新規事業に深く関与できるようになるはずです。

ザ・ファージとの資本業務提携を元に、TOPPANとしても新しいビジネスを築けるように頑張っていきたいですね。徳永さん、引き続きよろしくお願いします。

德永(ザ・ファージ):
こちらこそよろしくお願いします!

(取材・執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:ソネカワアキコ)